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もともとは、家庭でも、すばらしい文がスラスラと書けるような特製日記・作文用紙を作成することから、作文の型づくりが始まりました。「作文は思考と思想を生み出す最高のツール」という思いを土台にすえ、「四段落構成、まとめはなかの共通項(市毛勝雄氏による)、タイトルは最後」を組み入れた作文用紙を作成しました。次々と知的な作文が誕生しました。子どもの作文を読むうちに、物語風に描写された文章の作文のおもしろさを痛感し、特製用紙に、物語風作文の型も追加しました。更に、その後、樋口裕一氏による小論文筆記法が小学生にも有効であることを知り、特製用紙に追加しました。このようにして三つの型が誕生したというわけです。「日本の文章が下手なのは‥‥文章構成の原型がないから」という外山滋比古氏の言葉が、四十年あまり耳に残っていました。今回、子どもから大人まで通用する一生ものの、作文の型を示すことができたと考えています。
「十六の指導ステップ」は、一つの作品が完成するまでの、全員に対する指示、個に対する指示がまとめてあります。指導の実際の現場では、どこまで書いたら指導を入れるかがポイントです。このステップを使うことで、構文、構成、タイトルまで、クラス全員を一気に指導することができます。
その指導の際に必要なのは、個別指導しながら、全員に対して目配りをすることです。効率よく指導するために、私がしている指導の際の場のつくり方を紹介しています。
達成感と意欲を喚起させるための、作文用紙の中への◎のつけ方、赤ペンの例を紹介しました。評価は、A〜Cを細分化し七段階でつけています。型の活用、構成についての評価の他、正しい構文で書けているかも評価しています。作文の中で思考やアクティブな精神が発生しているかどうかも、私には、大事な評価の観点になっています。
作文の型と書き方を示した原稿用紙。作文のモデル。この二点を示すだけで、ぐんぐん書ける子もいます。が、不幸にして、すでに「作文ぎらい」が大量発生している教室もあります。作文が好きな子はほんの一握り。大半の子が、作文に対してマイナスの感情をいだいていたりします。そこで、開発したのが、「ヒント・カード」です。各段落の書き出しの他、具体的事例としてどんなことを書くかを提示。まとめの例文まで示してあります。これでもかというほど、教えています。教師の手厚い、直接、間接の書き方の指示がなければ、全員が書けるようにはならないと思っています。
「書くことで思考が生まれる。」書くことの重要性については、昔もこれからも変わりません。大学入試が記述式になると、作文指導法が注目されることはまちがいありません。「考えがまとまったら、書きましょう」という方式が手を変え、品を変え登場するでしょう。カードに文を書く。カードをつなげて構成していく。最後に書くというような方式です。これも一つの方法ではありますが、問題は、カードに文を書いた段階で思考が完結していることです。本文の筆記は、二番煎じ的な作業になるおそれがあります。
文章で大事なのは新鮮さ。一文書くことで、次の一文が見えてくる。思わぬ思考が見えてくる。これが作文を書く醍醐味です。入試での作文筆記は、その場で、あるテーマについて、一気に書いていく作業です。メモ、カード方式は、通用しません。そのテーマにふさわしい型を即決定。あとは、一気に文を書いていく力が必要になってきます。「新鮮な思考」は必ず評価されると思います。すでに、中学入試で、作文筆記を取り入れている学校があります。私のところにも相談に来られる方があります。ふさわしい作文の型を紹介します。あっと言う間に、書けるようになると言われます。型の力です。
手元に、大量の作文のコピーがあります。どれもこれも宝物です。「この子にこんな考えが生まれている。神様がおりている‥」「この子らしい考えが出ている」「表現することを楽しんでいる。読み手を楽しませようとしている」等々。一言で言うと、アクティブな精神、思考が生まれているものばかりです。比べるのは何ですが、その思考と精神の発露において、確かに、大学生を上回るものもあるかと思います。うれしいのは、この思考誕生に、教師としての自分も関わっていることです。今回の拙著では、私の宝物を公開しながら、宝物が生まれる仕掛けを、型と技として精一杯伝えようとしました。
子どもの作文は、あなたというかけがえのない教師と、一人のかけがえのない子どもとが共同で創り出したかけがえのない作品であり文化です。作文指導は、次の世代を担う子どもたちに一生ものの思考、精神、魂を培っていく仕事です。だから、作文指導にエネルギーがいるのは当然です。みなさん、いっしょに「くるたのしみ」(苦楽しみ‥河合隼雄氏による)ましょう。