著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
キャリア教育ですべての子どもの人生を豊かなものに
元愛媛大学教授上岡 一世
2015/8/5 掲載

上岡 一世うえおか かずとし

元愛媛大学教授。
1946年高知県生まれ。高知大学教育学部卒。鳴門教育大学大学院修了。
高知大学教育学部附属中学校教諭(特殊学級),愛媛大学教育学部附属養護学校教諭,愛媛大学教育学部助教授,愛媛大学教育学部教授,愛媛大学教育学部附属特別支援学校校長を歴任。
専門は特別支援教育。

―キャリア教育は今や特別支援教育で欠かすことができない重要な教育となってきていますが、なぜそこまでキャリア教育は大切なのでしょうか?

 キャリア教育は、人生の質を高める教育です。「キャリア教育は特別支援教育が進めてきた教育そのものである。特別支援教育に取り入れる必要はない」という考え方を持つ人もいます。しかし、実際に学校卒業後の彼らの生活実態を調査してみますと、就職している人も、そうでない人も含めて、ほとんどの人が人生の質を低下させています。これではキャリア教育を取り入れてきたとはとても言えません。もう一度、キャリア教育の視点で特別支援教育を見直し、より一層充実した特別支援教育を確立しようとしているのが、今の教育です。特別支援教育の今後の充実、発展を大きく左右する、とても重要な教育が今現在進行中であると理解をして欲しいと思います。

―本書は『キャリア教育を取り入れた特別支援教育の授業づくり』に続く2冊目とのことですが、前著との違いは何でしょうか?

 前著は、なぜ、今、キャリア教育が特別支援教育に必要なのか、キャリア教育を取り入れると、指導内容、指導方法はどのように変わらなければいけないのか、等、今後の教育の方向性と指導の見直しについて分かりやすく解説をしました。
 本著は、学校や家庭での指導の実際に重点を置き、キャリア教育を取り入れた効果的な実践の数々を紹介しました。具体的には、キャリア教育を取り入れると、今までの教育目標はどこに課題があり、今後は何を目標にすべきか、や教育課程の3本柱と言われている「日常生活の指導」「生活単元学習」「作業学習」の実践はどう変えなければならないか、について事例を示し、分かりやすく解説しました。

―全国をご講演されて、キャリア教育について、よく先生が質問を受けらえることはどのようなことでしょうか?本書にその答えがありますか?

 本書は、「実践に役立つ具体的な事例を教えて欲しい」「先進的な取り組みをおこなっている学校を紹介して欲しい」「今までの教育、指導のどこに問題があるのか、どのように変えればよいかを、具体的な理由を示して教えて欲しい」「学校教育12年間の一貫性、継続性はどのようにすればよいかを事例をあげて教えて欲しい」「1時間の授業で重視しなければならないことを、今までの授業と関連させて教えて欲しい」等、先生方からあがった声に応えたいという思いをもってまとめたものです。是非、本書を読んで、実際に実践を行い、その効果を各自で確かめていただきたいと思います。

―本書では「日常生活の指導」「生活単元学習」「作業学習」について具体的に述べられていますが、ここで上げられている実践事例は、どのような学校で行われたものなのでしょうか?

 本書で取り上げた実践事例は、筆者が定期的に学校を訪問し、先生方と共に、キャリア教育を取り入れた授業の在り方について検討し、成果が得られたものばかりです。主な学校名は、愛媛大学教育学部附属特別支援学校、京都府立宇治支援学校、岡山県立誕生寺支援学校、福井県立嶺南西特別支援学校、高知県立山田養護学校です。いずれの学校も、学校の地域性や特色を生かしてキャリア教育の実践に熱心に取り組んでいます。機会があれば、実際に訪問し、直にそれぞれの実践を目にして欲しいと思います。

―キャリア教育を取り入れる教師側の意識は、どうあるべき…とお考えでしょうか。これから取り組まれる先生方へのエール含めてどうぞ教えてください。

 キャリア教育は教師の意識が変わらなければ成り立たない教育です。先にも述べたように、キャリア教育は人生の質を高める教育です。人生の質を高めるために欠かせないのが生活意欲と働く意欲です。生活意欲と働く意欲の向上は、知識や技能が高いことが重要なのではなく、人間性が育っていることが重要です。できることが多いのに人として育っていない子どもがたくさんいます。これでは人生の質を高めることはできません。人として育てる(内面を育てる)教育こそがキャリア教育であると認識し、日々の指導にあたって欲しいと思います。

(構成:佐藤)

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