- 著者インタビュー
- 算数・数学
小学校の算数の授業を見ていて、算数用語に関する記述について、定義と定理(性質)の区別を教師があまり意識していないと感じることが多々ありました。そうすると、定義だから教えるべきことを考えさせてみたり、定理なのに教師の方から教えてしまったりしているのです。
例えば、第4学年に平行四辺形の定理(性質)として、「向かい合う角の大きさは同じである。」という文章があります。これは、性質ですが、では「向かい合う角」というのは既習のことかというとそうではありません。ここで初めて登場です。したがって、「向かい合う角」は定義しなければなりません。子どもが学習済みだと思ってしまうと混乱しかねません。
つまり、定義と定理の区別なしには、筋道立てて考えることのよさは生まれません。とはいうものの現場の多くの教師が定義と定理について深く考えたこともないというのが実際のところだと思いました。そこで、算数教科書の全学年、全単元に渡って調べて定義と定理の区別をはかりました。
算数の内容は、大まかにいって事実と方法と理由に分けられます。算数用語について定義と定理を踏まえた授業をすべきです。
例えば、長さの定義は「1pがいくつ分あるかで表します。」ということです。すると、ある長さをものさしで測ったときに、子どもが5pと答えたとき、「そうですね。5pですね。」で完結してはいけません。教師は、「どうして5pだと考えたのですか。」と理由を尋ねてほしいのです。すると、「1pが5つ分あったから…」と答えさせたいのです。5pという算数的事実に対しても方法や理由を尋ねることで、確かな言語力がつくと考えます。
まずは、小学校のすべての教師に手元において、いつでも調べる環境にしてほしいのです。中学校の数学科の教師も同様です。小中の連続性・系統性の観点からも必要だと考えます。
次に、教材研究の場面で、本時の指導内容の明確化の際に、定義と定理の確認をしてほしいのです。そうすることによって、焦点が絞りやすくなります。
実際の授業の場面で迷った場合、事典として引いてほしいのです。
この2点を着実に実行に移すだけで、あなたの算数の授業はとてもクリアになること間違いなしです。
まずは、全学年、全単元に渡って調べようとしたことです。教科書の1ページにある記述を抽出して定義、定理、約束事に分類しようとすると、それだけで1時間はあっという間にたちました。つまり、この作業だけで丸々1年間はかかり、その後、数人の人にもチェックしていただき、私だけの偏見に陥らないようにしました。よって、原稿づくりに2年間と6か月を要しました。まさに、舟を編むような作業でした。
最初は、定義と定理だけで分割していたのですが、算数の世界には計算の順序のきまりのように定義とは言えないものがあります。これを約束事として新たに分類し直しました。さらに、初期の目的が現場の教師にとっての「教えること」と「考えさせること」を区別することでしたので、約束事もAタイプとBタイプに分類しました。
本書の特徴は、算数教科書にある文章記述にないことも、あえて取り上げたことです。例えば、「5までの数」とは、「1、2、3、4、5のことをいう」と、記述したことです。数図カードについてもきちんと名前付けしました。なぜなら、実際の授業で教師と子どもとのコミュニケーションにおいて必要な用語を取り上げたからです。これには長年の経験がものを言いました。4000人近くの授業を参観できたからこそ、授業で必要な用語についてイメージをふくらませることができたのです。授業に役立つ本に仕上がっていると思います。
最後に、明治図書の編集部もきめ細かい作業に本当につきあってくれました。ありがたいことです。
算数の授業は、教師の豊かな言語力があってこそできるものです。算数の言語を正確に的確に用いることによって、子どもの算数の言語力を培ってほしいと考えます。膨大な時間をかけて作った甲斐があると言えます。ぜひともお役に立ててほしいです。