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「わかる」授業とは、“わからせる対象を明確化して教え、生徒が確かにわかっているという事実を客観的に確認できている”授業です。“客観的に”ですから、生徒の記述や答案から“わかっている”という事実を抽出して、それを説明できる必要があります。
また、単に“解き方がわかる”という授業ではありません。その意味や意義がわかることも大切にした授業です。この意味で、「わかる」授業は、「(問題を解くことが)できる」授業とは区別して考える必要があります。できるように教えていても、わかるように教えているとは限りません。
まず、「わからせる対象の明確化」が必要です。ここでは、後述の「わかったことの確認」を、いつ、どこで、どのようにするのについても熟考します。確認方法については、ペーパーテストだけでなく、レポートを課したり、発言・発表を吟味することなども想定しておくことです。
次に、「わからせるための工夫」も必要です。この工夫次第でわかるようになるプロセスは変わります。生徒のこれまでの学習状況を踏まえて、工夫のあり方を考えます。
最後に、当初想定していたわからせる対象について、生徒が「わかったことの確認」を行い、場合によっては補充的な指導を行うことも必要です。
まず、授業をデザインする際に、わかっていない生徒の状況を事前に想定しておくことがとても重要です。授業中に生徒がわかっていない状況にはじめて出会うようでは、その場での適切な指導はできないからです。
また、わかっていない生徒に対する回復指導として、学びのプロセスを細かいステップで示した図などを準備し、どこまでわかっていて、どこからわからなくなっているかを振り返って考え整理させることが大切です。少なくとも、“何がわからないのかがわからない”というような状況を生み出さないようにすることです。
本書は、「わかる」ことにこだわって、中学校数学を教える先生に高校数学の指導内容を見通していただきたいと考え、高校数学の事例もいくつか示していますが、同時に高校数学の先生にも中学校数学の指導事例を見て、生徒のわかりをどのように把握すればよいかを考えてほしいと思っています。
中学校の先生が、「わかる」ことにこだわって高校数学の指導内容を見通すことによって、生徒により広い視点で今の学びの重要性を感じ取らせ、生徒に“わかりたい”という気持ちをもたせることになると考えています。
授業に臨む際に、まず生徒にわからせたいことが明確になっているかをよく確認してほしいと思います。そして、本当に生徒がわかっているかどうかを確かめる方途を明確にできているか、同僚や先輩教師などの第三者に、生徒がわかっていることの事実を具体的に示すことができるかを自分に問い返してほしいと思います。
その上で、「わかる」に視点をおいた授業を同僚や先輩教師に積極的に公開し様々な助言を得ることを大切にしてほしいと思います。また、必要に応じて、観察の観点を決めて他の教員の授業を見る機会をつくり、学びとることです。同僚や先輩教師と授業を見せ合うことを通して自分の授業を振り返ることは、実践的指導力を高めることにつながります。