堀江式 国語授業のワザ
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堀江式 国語授業のワザ(14)
家庭学習が授業に生きる!「音読・読み取り記録シート」
―子どもとおうちの人と教師とをつなぐ“魔法のシート”―
兵庫教育大学大学院教授堀江 祐爾
2013/7/5 掲載

【音読・読み取り記録シート】

 家庭学習として、国語教材を音読させ、「音読記録シート」に記録させています。ただ音読の記録をさせるだけでなく、音読学習を教材の読み取りに生かすよいアイディアがあれば教えてください。

ココがポイント!

「(簡易版)音読記録シート」は学びを記録し「説明責任」を果たす基本的なワザ

 家庭学習として、「音読記録シート」をつけさせていることは立派だと思います。授業の中での音読も重要ですが、家庭学習において音読させることによって、より子どもの読み取りは深くなっていきます。
 4年生の「(簡易版)音読記録シート(本読みカード)」の例を示しましょう。赤穂市立原小学校の塩江理栄子先生の学級のものです。

例

 「日にち」「読んだところ」「◎○△(大きさ・速さ・間)」という基本的な項目が用意され、日々の学びの記録が記入されています。(「ページ数」「回数」などを加えてもよいでしょう。)
 さらに、「おうちの人から」と「先生(から)」の欄が設けられています。「おうちの人から」のところは、メッセージを書き込んでもよいし、書けない場合にはサインや印鑑でもよいことになっています(それも無理な場合は、子ども本人のサインでもOK)。「先生(から)」のところには、「PTAも本年度もよろしくお願いします。○ちゃん、早速学級会の司会を上手にしました。」といったやりとりも記入されます。もちろん、「二回読んで、二回目は自分の気持ちで読んでくれました。」というおうちの人からのメッセージに対して、「すばらしい。その読みをまたひろうしてもらいます。」という応答もしています。
 こうした「音読記録シート」は、子どもと「おうちの人」と教師とをつなぐものです。子どもがどのような学びをおこなっているかを、「おうちの人」に知ってもらうという意味において「説明責任」を果たしていることになります。
 まずはこうした「音読記録シート」を使えるようになることが、ワザの基本です。

効果抜群! 堀江式 大ワザ&小ワザ

ワザ1 「音読して読み取ったことを記すシート」へ進化させる

 次に示すのは、「(応用版)音読記録シート(本読みカード)」=「音読・読み取り記録シート」の例です。「勝負教材(より力を入れて学習指導を行う教材)」に使う進化バージョンです。次のような項目によって構成されています(ここでは便宜的にア〜オの記号をつけました)。

【めあて@音読(いつでも) ・こしぼね・口をはっきりあけて・間の取り方】
【めあてA(どこを どんな工夫をして音読したか書きましょう)】
【読んで ・好きなところ・感動したところ・疑問・自分と比べて・表現のすばらしいところ】
【見つけたテーマは?】
【おうちの方のアドバイスやコメント(サインでもいいです)】

例 イの【どこを どんな工夫をして】という問いかけは、実は「読み取り」を内包したものになっています。「兵十とごんのかんけい」、「ごんが兵十や兵十のおっ母にたいする思いを考えながら読む」といった記述から、子どもがどこに注目して読んでいるかを知ることができます。
 ウ【読んで ・好きなところ・感動したところ・疑問・自分と比べて・表現のすばらしいところ】はより踏み込んだ「読み取り」の項目と言えましょう。「自分とくらべて、ごんはそれほど、兵十にあやまっていたんだ」は「自分とくらべて」という観点を使っています。また、「赤いきれのように、とひがんばなの色をたとえていて、すごい表現だ。」と比喩表現のみごとさにも気がついています。
 エ【見つけたテーマは?】では、さらに深い「読み取り」へとステップを踏んでいます。音読して感じた「今の」テーマについて書かせています。注目したいのは、「兵十がありがとう」、「1・2場面は『もうしわけない』気持ち」と、テーマについての把握が微妙に変化しているところです。
 オ【おうちの方のアドバイスやコメント】の右の欄には、「彼岸花の描写で、お葬式の情景がより鮮やかになっていますね。」と、わが子の「ひがんばなの色をたとえていて、すごい表現だ。」に呼応したコメントが書かれています。「おうちの人」が子どもとともに学んでいることがわかります。

ワザ2 「音読・読み取り記録シート」によって子どもの読みを知り、授業に生かす

 続いての「音読・読み取り記録シート」を示しましょう。
例 エ【見つけたテーマは?】として、右の欄(9月20日)には、「これまでやってきたことをしっかりなしとげたごん」と、ごんのつぐないの行為が何度も繰り返されたことに着目しています。つぐないの行為を何度も繰り返すために兵十の家の納屋に入り込んだ結果、ごんは兵十に撃たれてしまうことを考えると、テーマについてより深く読み取れてきていると言えます。
 教師はこうした子どもの読みに授業前にさっと目を通し、その読みを授業に生かしていくことができます。つまり、授業改善の重要なツールとなるのです。
 そして、オ【おうちの方のアドバイスやコメント】には、「ごんは成し遂げたんでしょうか?兵十にこれで伝わったでしょうか?」という疑問が書かれています。そこに教師が「クラスの中でもいろいろ分かれました。こういうところがこの作品の特色ですね。すれちがいがもたらした悲劇です。」と自分の意見を書き添えています。さらに、「親子で話し合いがもてそうですね。授業でもこの考え、使わせていただきました。」と、おうちの人からのメッセージも授業に生かしていきました。
 このように、「音読・読み取り記録シート」は、「説明責任」を果たしながら、同時に「授業改善」につなげることができる可能性をもったツールでもあるのです。

堀江 祐爾ほりえ ゆうじ

兵庫教育大学大学院教授、元中央教育審議会初等中等教育分科会教育課程部会国語専門部会委員、平成20年版中学校学習指導要領(国語)作成協力者、「国語教育の実践と研究をつなぐ会」世話役代表。
主な著書に『「国語力」向上の授業改革1 国語科授業再生のための5つのポイント』『小学校新国語科 言語活動の展開がよくわかるシリーズ1 書く力がぐんぐん伸びる!「言葉のワザ」活用ワーク』、などがある。最新刊『小学校国語科授業アシスト 実物資料でよくわかる!教材別ノートモデル40』が好評発売中!

(構成:林)
コメントの一覧
9件あります。
    • 1
    • がま
    • 2013/7/8 22:50:11
    毎日家庭学習に出している本読みカードですが、これにも一工夫加えることができるものだと感心してしまいました。本読みカードが学校と保護者とをつなぐものであったり、本読みが読解につながっていたりして、このようなしかけを行っておくことで、学校で授業をする際に、ラクになってくるのではないかと感じました。工夫勝負ですね。
    • 2
    • 島唄
    • 2013/7/14 12:23:52
    今回紹介されていた「音読・読み取り記録シート」を使うと、子ども達の「思考力・判断力・表現力」が高められると思いました。例えば「テーマ」について考え、どの叙述にテーマが表れているかを探して選び、それらをシートに書き表すということは、漠然と音読するよりも子ども達に力がつくはずです。また、教師があらかじめ目を通しておくと、授業もより一層深まるように思いました。私も2学期に「音読・読み取りシート」に挑戦してみたくなりました。
    • 3
    • 幸子
    • 2013/7/23 17:45:19
    漢字は読む力や書く力、聞く能力、話す能力などの基盤となる大切な知識であると同時に、一字一字が意味を持っており、考える力、コミュニケーションの力の土台となります。また、漢字は思考を深めたり豊かにしたり働きも持っていて、日常生活にとって欠かせないものです。思考そのものを支える語彙力を身に付けるためにはどうしたらいいか悩んでいる国語の教師も少なくないと思います。堀江先生の本当の漢字の力を付ける「漢字ドリル」活用法を拝読して、「漢字ドリル」を通して、漢字だけを身に付けるではなく、「思考力」、「判断力」、「表現力」も鍛えることができることに感心しました。以前は漢字を覚える時100回ぐらい書いたりしてもすぐ忘れてしまって、本当に四苦八苦でした。早く堀江先生のこの方法を存じあげたらと思います。
    • 4
    • k.s
    • 2013/8/1 10:41:23
    現任校では、家庭音読は全学年で取り組んでいる毎日の宿題になっています。音読カードも学校全体で統一されており塩江先生の音読カードのように保護者や教員のチェック欄、めあてを書くところがあります。音読の宿題に毎日しっかりと取り組んでいる子供もいればほとんどしてこない子供もいます。塩江先生の実践しておられる音読カードのように保護者の方のコメントを書く欄があると、音読を聞かれた保護者の方の率直な感想や賞賛の言葉を子供たちは見ることができ子供たちのやる気につながると思いました。また、保護者の方のコメントやめあてに対する子供たちの自己評価への教師のコメント等がとても詳しく書いてありすばらしいと思いました。時間的な余裕がない中、一人一人の音読カードをしっかりと毎日点検され子供たちが下校するまでに返すのはかなり難しいことだと思います。塩江先生のように毎日きちんと丁寧にコメントをされておられるような様々な積み重ねが子供たちの音読の力を伸ばしたり子供たちの国語の力を高めることにつながると感じました。
    • 5
    • 2013/8/1 13:51:01
    「音読記録シート」は「日にち」「読んだところ」「◎○△(大きさ・速さ・間)」という項目から構成され、子どもが日々の学びの記録が記入することを通して、音読する習慣を身につけることにつながる。子どもの読み取りは深くなっていくことも期待できる。自分の小学校の学習経験を振り返ると、このような「音読記録シート」はなかったです。先生は口頭で家に帰ったら、テキストを音読してくださいと言われたことだけで、実際にチェックされたことがなかったです。時々怠けて音読しなかったこともあります。先生は工夫し、「音読記録シート」を子供に付けさせるのはこういう場合を防ぐことができます。さらに、「おうちの人から」と「先生(から)」の欄が設けられている発想はすばらしいと思います。親は子どもがどのような学びをおこなっているかを知ることもできて、子供はまた親や先生のコメントを見て、やる気も涌くでしょう。「音読・読み取り記録シート」をつけさせることは子供の思考力、想像力、表現力を鍛えることができて、教師はその読みを授業に生かしていくこともできます。ぜひ堀江先生のご紹介なさったこの技を中国の国語教育に応用したいと考えています。
    • 6
    • HIROYN
    • 2013/8/12 13:57:01
    音読は、宿題として毎回出しているところは多いと思います。しかし、子どもが自主的にやっていくには工夫が必要です。塩江理栄子先生の「(簡易版)音読記録シート(本読みカード)」は、とても参考になりました。「大きさ」「速さ」「間」の項目があり、ただ読むだけではなく、音読のポイントを示すことにより、上手に読もうという意識をもたせることにつながります。また、子どもにとって家族の人や先生の反応はとても気になるところだと思うので、「おうちの人から」「先生から」の欄があることも効果的ですね。自分の頑張りを見てくれていると感じるられると、「頑張ろう」という意欲が湧くでしょう。ただ「音読をしなさい」と宿題に出すだけでは習慣化は難しいし、「語のまとまりや言葉の響きなどに気を付けて音読する」という指導要領に示される事項についても、触れられるような活動にはならないのだと思います。
    • 7
    • タマ
    • 2013/8/14 22:59:40
    「音読記録シート」を用いることで、「音読学習」をただ音読させるだけでなく、目的ある活動としていることが素晴らしいと感じた。「シート」に、「読み取り」の項目が設けられることで、当然、「音読」の際にも意識され、項目に沿った目的ある読みが行われる。そして、通常の「音読」では出来ない作品への深い理解へとつながると考えられる。音読による「読み取り」は「シート」によって可視化されることで、子どもの成長の形として子ども自身だけでなく、「おうちの人」の目にも触れ、子ども自身の学びをベースにしたコメントによって意欲の向上にもつながるだろう。また、「おうちの人」による具体的なコメントは、子ども、教師とは別の第三者の視点として、授業にも投与され、従来とは異なるアプローチを可能とする。より深い作品への理解と授業実践のためにも、今回の「国語授業のワザ」の様に、意義ある「音読学習」を考えていきたいと思う。
    • 8
    • こう
    • 2013/9/11 23:43:31
    音読を家庭学習としているところは多いのではないかと思います。けれども、今回のように、音読を音読の練習だけにとどめず、好きなところを記入させたりするなどして、読解へとつなげるところまで深めているクラスはなかなかないのではないでしょうか。目的をもって、音読することは意欲向上にもつながります。保護者への説明責任も果たせます。もちろん、時間のないおうちの人はチェックをするだけでもよいのです。時間があれば、作品についても話がはずむかもしれまfせん。テーマについての項目もあります。つねに目的をはっきりさせ、さらにいろいろな視点から学習内容を組み立てていることがうかがえます。負担は少なく、しかし、豊な力が身につくように、工夫していきたいと思います。
    • 9
    • nekoneko
    • 2013/12/30 19:58:38
    音読を家庭学習にしている指導者は多いと思います。その際、保護者に聞いてもらうとか、音読したらカードに〇をつけるとかまではしていると思いますが、この記事のようにいろいろな工夫をして保護者を巻き込んでいる先生方はあまりいないだろうと思います。堀江先生のこのシリーズは、子どもたちの実際の書き込みをそのまま画像として見ることができるのでとても参考になります。
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