子どもの心をグッとつかむ言葉のワザ
学校生活でも授業でも、教師と「話すこと」は切っても切れない関係。話術、言葉の選び方、コミュニケーション力、コーチング等、教師に必要な言葉のワザを伝授します。
子どもの心をグッとつかむ言葉のワザ(24・最終回)
「自分は◎で相手は✕」を「われわれ、私たち」へ意識チェンジ
パラグアイ ニホンガッコウ大学学長補佐西野 宏明
2021/5/15 掲載

事例「自分は◎なのに、子どもたちは×」という思考パターン

「うちの学級の子たちはまとまりがないんだよなぁ」
「どうして、うちの学級の子たちは騒がしいのだろう?」 
「本当にあの子たちは素直さがないんだよなぁ」
「あの子たちは理解が遅いから困る」
「本当にあの子たちと接すると、ストレスがたまるわ〜!」
「あの子たちも、たまにはビシッとできないものかなぁ」

挿絵1

 教師という職業をしていて、このような思いをもつことはないでしょうか。
 私にはよくありました。というよりも、今でもふとしたときに思うことがあります。
 このような思いの裏側には、ある思考パターンがあることに気付きました。
 「教師である自分はただしい。でも、子どもたちは間違っている」という思考です。
 自分はよく教えているし、努力しているし、成長しているし、ちゃんとしているし、子どものことを真剣に考えているし、自分は間違っていない。それに反して、子どもたちは怠惰で、自分勝手で、素直じゃなく、改善されず、中途半端で、無礼で、約束を守らないのでダメ。彼ら彼女たちが間違っている。

解説

「自分は◎なのに、子どもたちは×」という思考パターンに気付いたきっかけ

 この思考パターンは、私が南米のパラグアイ共和国で教育コンサルタントをしているときに気付いたものです。
 私は当時、パラグアイの二ホンガッコウという私立学校で教育コンサルタントをしていました。先生たちの授業力向上に力を入れていた頃のことです。
 その日も先生たちの研修を終え、自分のオフィスで1日のふりかえりをしながらコーヒーを飲んでいました。
 そのとき、次のような言葉が浮かびました。

「まったくパラグアイの先生たちは言われたことをしてくれないから困る」
「どうしてあの先生たちはなかなか約束を守ってくれないのだろう」
「プロである教師なのに、どうして努力してくれないのだろう」
「嘘をつく人がいるのもなさけなくなってくるな」
「あの人たちは、教材研究とか、授業準備しないで指導するからうまくならないんだ」
「いくらこっちががんばっても、あの人たちががんばらないからこの学校は変われないんだ」

 このようなことをブツブツとつぶやいたり、頭の中で不満をぶつけたりしていました。
 そこでハッとしました。

気付くことで初めて変われる

 「同じじゃん! 全く同じ図式じゃん! 俺が日本の学級担任時代に陥っていた構図と全く同じだ!」
  要するに、「自分は正しい。しかし相手は間違っている」という思考パターンが、対象は違いますがピタリと当てはまったのです。
 日本の教師時代に子どもたちに思っていた不満が、まったく同じようにパラグアイの先生方に当てはまっていたのです。
 驚きました。
 日本で何度も思ったこと。それがパラグアイにおいても再び頭に浮かんできました。そこで明確に気付きました。
 「俺は全く成長していない。日本で子どもに対してもっていた視点をそのままパラグアイの先生たちに当てはめている。時間は経ったが、俺の思考はそのまま停滞していた」
 その瞬間、ショック以上にプラスの作用がたくさん働きました。それまでの怒りや不満が一瞬で消えて、リラックスし安心できました。

「自分と相手 ⇒ 私たち」に切り替える

 「このままではダメだ。変わろう」
 自分の思っていることをホワイトボードにどんどんどんどん書いていきました。そして集約された結果が次の言葉です。

「(正しい)自分 VS (間違った)相手」ではなく
   ↓
「われわれ、私たち」として生きる

 要するに、自分と相手を二項対立でとらえるのではなく、相手と自分が協力して「私たち」となり一緒に努力したり、応援したり、成長し合ったりすればいい、という思考に至ったのです。

「自分は◎なのに、子どもたちは×」という思考パターンに陥るタイミング

 さらに分析しました。
 いったいいつ、どのようなとき、「自分は◎なのに、子どもたちは×」という思考パターンに陥るでしょうか。もちろん私はいつもこのような思考をしていたわけではありません。
 傾向としては、疲れているとき、調子が悪いとき、プレッシャーがあるときです。精神的に安定していないときに、このような思考パターンが顕著に出ることが分かりました。

「自分は◎なのに、子どもたちは×」という思考パターンに陥るタイミング

 2つあります。方法は簡単です。
 1つは疲れをため込まないことです。休むことを知るということです。
 2つめは、プレッシャーや落ち込みを感じそうなとき、「本当にそれは価値あることなのか?」「それは自分が教師になろうとした原点の思いとつながっているか?」と自分に問いかけることです。
 私の場合は、人から良く評価されたい、自分は素晴らしい教師だと思いたいという思いが先行するときに、不安定になりうまくいかなくなることが多々ありました。
 そうなる前に、ええかっこしいの自分に気付き、「こんなつらい思いするなら、いーらない!」とポイ捨てするように手放すのです。すると、変な執着は消えて、子どもと楽しい時間が過ごせるようになるはずです。

言葉のワザの効果を最も高めるために

 これまで24回にわたって言葉のワザを紹介してきました。
最後に大事な点を述べます。
 言葉のワザは、あることをすることにより効果が何倍にも高まります。
 それが、拙著『子どもの心をグッとつかむ言葉のワザ55』や、明治図書オンラインのインタビュー(「センスと才能よりちょっとしたコツが必要です」)でも書きましたが、人間力を高めるということです。人格を磨くということです。
 言葉はその人のあり方と密接に関連します。相手との関係性も大きく関連します。
 本連載をお読みくださった先生方が、自分を磨くことを通して、相手とよりよいコミュニケーションを築き、楽しく素敵な教員生活を送れることを心から祈っています。

ここがポイント!

  • 「自分は◎なのに、子どもたちは×」という思考パターンに気付いたら、疲れをため込まないで、休みをたくさんとる!
  • 自分の心が揺らいだとき、疲労がたまったときこそ、初心を思い出して自分の軸を大切にする!今月の「言葉のワザ」
  • ええかっこしいに気付いて、手放す!

西野 宏明にしの ひろあき

東京都の公立小学校を10年間勤めたのち、2019年7月よりパラグアイの私立ニホンガッコウで学校顧問(教育コンサルタント、学長補佐)に就任。
初任時代の初めての授業で挫折し、教師修行を始める。
日本各地の教育イベント、セミナー、サークルに参加。自分自身でも若手教師向けのサークルやセミナーを主宰した。毎月5万円以上は読書やセミナー参加費に費やし、自己研鑽に励んだ。その集大成として3冊の単著『子どもがパッと集中する授業のワザ74』『子どもがサッと動く統率のワザ68』『熱中授業をつくる!打率10割の型とシカケ―そのまま追試できる「大造じいさんとガン」』を上梓。
2017年よりJICA青年海外協力隊員としてパラグアイへ派遣され、2年間、現地の教育力向上に努める。2019年3月に公立小学校を退職し、現職。

(構成:木村)

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