教育オピニオン
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間違えることを恐れずに取り組み続けること
ジェームズ・ダイソン寄稿(2)
ダイソン・リミテッド チーフエンジニアジェームズ・ダイソン
2013/1/17 掲載
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 私が日本に最初に関わりをもったのは、まだ私自身が30代で、変わらない吸引力の掃除機を製造するために開発したサイクロン技術を完成させた1980年代です。当時、世界中の誰よりも私の技術に興味を持ち、深く共感し、寝る間も惜しんで世にまだ存在しないサイクロン技術搭載の掃除機の開発と、製造に手を貸してくれた日本人の技術者の方々との仕事から、私はたくさんの事を学びました。

 その後、日本でもダイソンの財団活動を始めた私は、日本には専門校を除いて中学や高校にはデザインという科目がないことに問題があると感じました。小中高の美術過程での図画工作などアート教育だけでは、ものの構造や仕組みを理解するエンジニアリング的な考え方を学ぶ機会がありません。限られた技術科の時間で進化の速い技術の意味をきちんと教えることは容易なことでなく、日本でもなかなか教師が理想と考える技術教育を実現できていないのではないでしょうか。
 私はデザイン教育で2つの大事な要素があると考えています。1つは中高教育での気づきや興味から、将来大学などの高等教育でエンジニアリング、物理や化学などを学術的、論理的に理解できる人達を育成する。もう1つは、手作業を通じて実践的にものづくりを行う人の養成です。そのために財団は、デザインとエンジニアリングの楽しさと必要性を伝えるためのプログラムを独自に作成し、それを日本の学校でも実施し始めています。

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 中学生向けの授業では、グループワークを重視しています。グループで、「学校での問題や不満を見つけ、それを解決するアイデアを考える」をテーマに仲間と意見交換をしながら手を動かし、問題解決案に取り組みます。まずは自分で考える、それを仲間に伝えグループでの話し合いを通してグループ内共通の問題を見つけ、解決案を考えます。そして、最終的に身の周りの道具やダイソン製品のパーツなどを使って、問題解決案の試作品を製作します。「問題解決」とはダイソンの開発理念ですが、教育現場でも重要なテーマになると私は考えています。この「問題解決 Dyson Lecture & Workshop」プログラムには、問題に気づく注意力や疑問を持つ力、その解決案をグループで考える思考力や判断力、そしてグループで考えたアイデアを論理的に説明するプレゼンテーション力などを総合的に学べる場として、現在、日本の中学校での受け入れについて、教育現場の専門家の協力も得ながら進めています。

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 昨年は愛知工業大学附属中学校と東京都杉並区立高南中学校(それぞれ2年生)で実施しました。
 授業ではまず、生徒たちに技術者(エンジニア)とはどんな仕事をし、なぜ必要なのか、できる限り広いビジョンを具体的に伝える努力をしています。そして実際の掃除機の解体や組み立てを通じて、内部の構造やその仕組みを理解します。その後、生徒自身が学校生活の問題点を見つけ出し、グループで解決に取り組んでいきます。授業の冒頭では発言もせず控えめな生徒が、自分のアイデアがチームの解決案になったことで積極的に試作品づくりに参加したり、ある生徒のエンジニア的発想や思考に驚かされたり、普段の授業だけでは見られない側面が見えてくることもあります。グループごとの特徴も現れ、全員で1つの作業に取り組むグループや、リーダーの指示に沿ってメンバーが動くグループ、完全分業でそれぞれの担当箇所に責任を持って取り組むグループなど、個人・グループそれぞれで取り組み方も違ってきます。しかし、どのグループにもメンバー同士の意見交換や議論が生まれ、最後には驚くべき作品がたくさん発表されることになります。高南中学校では、あるグループが「机が安定せずにがたがたする」という問題を、机の脚をなくし、天井から吊るす構造にして解決しました。別のグループは階段で何度も転んだ、危ないという経験から階段の問題点と解決案を見つけました。

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 とても素晴らしい発想だと思いませんか。誰もが面白い着眼点とアイデアを持っているのですが、普段の授業だけではそれを表現する機会がなかなか得られず、また機会があったとしても自分の考えが間違っていたらという思いから発言することに躊躇してしまう生徒が少なくないのも事実です。私は会社の開発チームとの仕事現場でも、若いデザイナーやエンジニア達にどんどん自分のアイデアをシェアすることを奨励しています。
 間違えることを恐れずに取り組み続けることは、とても大切なことです。私は世界で初めてのサイクロン掃除機をつくり出すまでに5年の歳月と5,127台の試作品を作りました。私の経験からも、将来を担う子どもたちには間違えることでより深く考え、あきらめないで試行錯誤を繰り返すことの重要性を知ってもらいたいのです。それが、授業を通して経験できれば、とても有意義なものとなるでしょう。日本で中高向けの問題解決 Dyson Lecture & Workshopプログラムの取り組みはまだ始まったばかりですが、ご興味のある教育者の皆様からのご意見を多くいただけることを望んでいます。
ジェームズダイソン財団・連絡先:noriko.kohyama@dyson.com

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James Dysonジェームズ ダイソン

1947年5月2日、英国ノーフォーク生まれ。
英国王立芸術大学院 (Royal College of Art) へと進み、インダストリアルデザインとエンジニアリングを学ぶ。1993年、英国ダイソン社を設立。日常の問題を解決する新しい技術の積極的な開発に取り組み、世界で初めてのサイクロン掃除機、羽根のない扇風機を発表するなど、画期的な製品を世に送り出している。現在、世界53か国で販売。
2002年には、ジェームズダイソン財団(James Dyson Foundation)を設立。デザイン、エンジニアリング分野への教育支援や、医療、科学研究への支援を行っている。

コメントの一覧
1件あります。
    • 1
    • 協働学欲
    • 2013/2/2 7:46:03
    これぞ、社会的実践力を伴う学びですね。実社会の中で使える形で知を実装する学びが大事だと言えるでしょう。特に、試行錯誤を通して、間違いを自ら修正しつつ確かな知を求めていく、進化論的な知の淘汰を通して学ぶことが大事だと思います。伝達に閉じる教育から、創造に向かう能動的飛躍を生む探究的な学びを大事にしたいものです。法則に使われるのではなく、法則を使いこなし、法則が適用される土台の構造にも働きかける。人が知の受容体から脱っし、バケツ理論(ポパー)から抜け出していくヒントが、ダイソン氏の実践の中にあるのですね。
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