教師なら必ずマスターしたい《指導技術集》
「指導技術」を意識するかしないかで、ここまで変わる!教師なら絶対に身につけておきたい知識や技能を、具体的なエピソードをまじえて紹介。
マスターしたい指導技術集(11)
子どもが授業に食いつく「演出」
京都文教大学准教授大前 暁政
2014/2/28 掲載
  • マスターしたい指導技術集
  • 教師力・仕事術

せっかく貴重なネタを仕入れても、子どもが食いつきません。

大切な内容を説明しているのに子どもが聴いていません。

 優れたネタや大切な情報を用意しても、子どもが授業に集中しない。
 こういったことは、なぜ起きるのでしょうか。
 それは、教師が教えたい内容を、子どもに知りたいと思わせていないことが原因です。

例えば理科で、昆虫の観察のために、「蚕」を用意したとします。

 「蚕」は珍しいです。
 あまり見たことのない子もいることでしょう。
 珍しいので、見せるだけでも子どもは喜びます。
 ですが、すぐに見せると感動もそんなに大きくなりません。
 そこで、蚕を見せる前に、動機付けをしておくのです。

糸をつくってくれる虫がいます。何の虫か知っていますか?

 このように、尋ねます。
 すると、子どもは「そんな虫がいるなら見たいな…。」と思います。
 見たいと思わせてから、「実は…、その虫を持ってきました」と告げます。
 「えっ、見たい!」と子どもは口々に言うことでしょう。
 ちょっとしたやりとりですが、教師が教えたい内容を、子どもに知りたいと思わせる演出が必要なのです。

演出の仕方は様々あります。

 例えば、「先に考えさせる」のも、一つの演出の手法です。
 5年生の「自動車をつくる工業」の学習で、次のように考えさせます。

「自動車をつくるときに、部品が3万個ほどあったよね。工場では、1日300台の車を組み立てています。5分で1台です。どうやって、こんなにたくさんの車を組み立てているのでしょうか。」

 このように、予想させてから、映像を見せます。
 流れ作業で車をつくっている様子が写ります。
 子どもたちは、自動車を効率よく組み立てる工夫を見つけようと必死になります。
 映像を見せる前に、知りたいと思わせておいたからです。

少し高度な「演出の技術」もあります。

 例えば、「教えたい内容をあえて教えない」という技術です。
 社会見学に行くとしましょう。
 このとき、いきなり教師がその施設の情報をあれこれと教えることをしません。
 先に、子どもに調べ学習をさせます。

「せっかく施設に見学に行くのですから、前もって調べていた方が、より深い見学ができますよ。」

 趣意を説明し、施設に関する情報を、ネットや本で探させるのです。
 そして、子ども同士で、情報共有させます。
 たくさん調べている子をほめていきます。
 家でも調べてくる子がいるはずです。思い切りほめます。
 この時点では、調べ学習をしっかりした子と、あまり調べられていない子とで、差ができています。調べられていない子は、「もっと調べないとまずい」、「もっと知りたい」と思うようになっています。
 ここで、教師が、「先生の調べた情報も一応配ります」と言って、見学先から送られてきたプリントやパンフレットを配ります。
 すると、あまり調べられなかった子ほど、食い入るようにプリントを見ます。
 少しでも見学前に情報を蓄積しようと必死なのです。
 教えてもらえないから、余計に学びたくなる場合もあるのです。
 学習者の意識が、学びに向かってから、教師の教える行為を入れるとよいわけです。

 このように、「教えたいことを知りたいと思わせる演出」を取り入れると、子どもは授業に食いついてきます。

大前 暁政おおまえ あきまさ

昭和52年生まれ。岡山県の公立小学校教諭を経て、京都文教大学の准教授(理科教育)として赴任。理科の授業研究が認められ「ソニー子ども科学教育プログラム」に入賞。著書に、『子どもを自立へ導く学級経営ピラミッド』『プロ教師の「折れない心」の秘密〜悩める教師への50のアドバイス〜』『プロ教師直伝! 授業成功のゴールデンルール』『プロ教師の「子どもを伸ばす」極意―学級&授業づくりマスターBOOK―』『スペシャリスト直伝!板書づくり成功の極意』『スペシャリスト直伝!理科授業成功の極意』(以上、明治図書)、『必ず成功する!授業づくりスタートダッシュ』(学陽書房)、『NHKおじゃる丸 クイズでおじゃる 目指せ小学校クイズ王』(執筆協力、NHK出版)などがある。
著者HP:『大前暁政の教育』

(構成:及川)

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