100万人が受けたい!中学社会授業ネタ
100万人が受けたい!「社会科授業の達人」河原和之先生の最新授業ネタ。斬新な切り口による教材アイデアで、子ども熱中間違いなしです。
社会科授業の達人(9)
フラワーロス解消
立命館大学非常勤講師河原 和之
2021/2/20 掲載

授業のねらい―社会的な見方・考え方を鍛えるポイント

  • 公民

社会的事象の意味や意義、特色や相互の関連を考察し、その解決に向け構想する「視点や考え方」を育成することが大切である。つまり、「なにを知るか」「なにがわかるか」だけではなく「なにができるようになるか」という「学びに向かう力・人間性等」の資質・能力である。
今回は経済単元の「需要」と「供給」が価格変動にもたらす意味を、コロナ禍で深刻化する「フラワーロス」から考察する。本単元は「価格の働きと経済」であり、おもに「需要」「供給」「市場」「市場価格」について扱う。だが、単なる「語句」「意味」の理解だけではなく、相互の関連を考察し、社会的問題を探究し、参加・参画の視点を重視した授業を構成することが大切である。また、SDGs「12 つくる責任 つかう責任」「15 陸の豊かさも守ろう」「17 パートナーシップで目標を達成しよう」にも焦点を当てる。

1 花屋さんが考えた「母の日」

 
 認知度は低いが、静かに広がった2020年5月の「母の月」。花の生産、流通、小売りなどの9団体でつくる日本花き振興協議会の取り組みである。

〈発問〉
2020年は、日本花き振興協議会が「母の日」ではなく「母の月」を5月中とした。なぜだろう?

「へっ!そうだったんだ」

「母の日は5月10日だったよね」

「コロナで花が売れなかったから延長した」

「それは勝手では?」

教師『結婚式や卒業式をはじめイベントの自粛が続き、3月以降、花の価格が値下がりしたことも一つの理由だ』

「母の日にカーネーションを買う人で混雑しないように」

「混雑するかな?」

教師『例年、母の日直前は生花店が混み合い、配送業者も多忙を極め、3密を避けるために、今年は5月1か月間を母の月にしようと提案された。下旬になると、バラやシャクヤクなどの旬の花も贈れるようになった』


Point▶ 花屋でアルバイトをしていた知り合いによると、「母の日」に売れ残ったカーネーションは、捨てられるのが一般的だそうだ。節分の恵方巻を彷彿とするエピソードである。これは、「3密」を防ぐだけでなく、「フラワーロス」をなくす取組でもある。


イラスト

2 コロナ禍、花の流通構造の激変

〈ペアワーク〉
コロナ感染の中、花の売れ行きは減ってきている。なぜだろう?

「卒業式や入学式がなくなったから」

「結婚式もだよね」

「それならお葬式もだ」

「式ばっかりだよね」笑

「コンサートや演劇がなくなるから花を贈れない」

「誕生日会なども集まれないから」

「入院の見舞にも行けなくなった」

「でも家にいることも多いから花でも見ながら読書しようということになるのでは?」

「そういうこともあるけど、花の購入は減っているよね」

〈クイズ1〉
結婚式は2020年3月から9月の7か月で何組が中止、または延期されたか?
5万組   10万組   17万組

〈クイズ2〉
花の取引量は、2019年から2020年にかけて何%減ったか?
約40%   約60%   約80%

答え〈クイズ1〉17万組 〈クイズ2〉約40%(43.8%)


Point▶ 大型イベントの中止や縮小が長引き、花の国内消費の約3割を占める法人向けの需要は低迷したままである。また、もともと国内の花の産出額は1998年の6300億円をピークに減り続け、2018年は3600億円になっている。そして、コロナ禍が追い打ちをかけている。


3 価格下落と廃棄される花

〈考えよう〉
全国の市場価格の指標になる大田市場(東京)での価格は4割前後下落している。なぜ花の価格が下落したのか考えよう。

「買う人が減ったから」

「これだけイベントが少なくなると需要が減る」

教師『供給はどうなの?』

「例年どおりに栽培するから供給量は変わらない」

教師『供給量が一定で需要量が減ると価格は下落する』

 需要・供給曲線を使い説明させる。

教師『このような需要と供給により決まる価格を何といいますか?』

「市場価格」

〈考えよう〉
価格の下落を止める方法はあるのか?考えよう。

「イベントを増やす」

「コロナ禍では無理では」

「花の数を減らす」

「すでに栽培しているから生育中か開花してから廃棄するしかないのでは?」

「でも、それって花がかわいそう」

教師『多くの花が廃棄されています。フラワーロスとフードロスのどちらが多いのでしょう』

 「フードロス」に挙手する生徒が多い。

教師『フラワーロスのほうがフードロスの3倍です。なぜ、こんなに多いの?』

「花ってすぐに枯れるから」

「食品も腐るのでは?」

「花は枯れると魅力がなくなる」(笑)

教師『花屋さんは、ある程度、花を揃えておかないと、お店の見栄えが悪くなるよね』

「なるほど!一本だけ置くわけにいかない」

教師『富山県南砺波市の花農家の人によると、5月にはベゴニアやマリーゴールドの出荷が減り、半数ほどを切り取り処分したという記事が新聞に掲載されていました』

「欲しい人にあげればいいのに」

「そんなことすれば買う人がますます少なくなる」

「なるほど」

教師『菊のシーズンの11月、和歌山県の菊農家では、売り先を探したにもかかわらず、数千本を廃棄したとのことです』

「花だって生き物だし、命が捨てられるって……」

教師『フラワーロスによる廃棄額はどれくらいか?』

「億単位では?」

教師『もちろん!』

「10億円とか?」

教師『もっと多い!』

「100億円」

教師『年間1500億円と言われています』

「へっ!びっくり」

「コロナ禍で自宅でいることが多くなったから、花が飾られる家での生活ってのもいいのでは?」

「コロナ禍で、失業したり、減給になったりした人もいるから、余裕がなくなっている」

「Go To キャンペーンのように、花を購入すると半額にするというのはどうかな?」

「いいね!ステイホームの味気ない生活に花を添えるってことだ」

教師『供給が一定で、需要が増えると価格が上昇するね』

 需要・供給曲線を使い説明させる。

 11月14日〜15日には世界遺産の興福寺(奈良市)で、中金堂を2万本の地元産の花で彩る「スマイルフラワーフェスティバル」が開催された。このイベントで、奈良県平群町のバラは、1千本を平年並みの価格で納められた。参加者には、好みの「仏花」を5本プレゼントしてくれる。

写真

 需給バランスの崩壊の中で、生産された花の約30%が、誰の目にも触れることなく農家自らの手で廃棄処分される。収入の得られない中、栽培施設、電気代、燃料代も払えず、次の作付のための資金もない。花の流通量を増やすために、一本でもいいから好みの花を買い、花で飾られた家やオフィスで勉強や仕事をする。「花はもちろん、自分、生産農家、花屋さんも、そして地球も元気になれる!」新たな流通の流れをつくり、つなげる。私たちの日常的な“ちょっとした行動”が持続可能な社会をつくる。

【参考文献】
朝日新聞(夕刊)2020年11月14日
「スマイルフラワーフェスティバル」チラシ 2020年11月15日 於:奈良興福寺

河原 和之かわはら かずゆき

 1952年京都府木津町(現木津川市)生まれ。関西学院大学社会学部卒。東大阪市の中学校に三十数年勤務。東大阪市教育センター指導主事を経て、東大阪市立縄手中学校退職。現在、立命館大学、近畿大学他、6校の非常勤講師。授業のネタ研究会常任理事。経済教育学会理事。NHKわくわく授業「コンビニから社会をみる」出演。
 月刊誌『社会科教育』で、「100万人が受けたい! 見方・考え方を鍛える中学社会 大人もハマる最新授業ネタ」を連載中。
 主な著書・編著書に、『100万人が受けたい! 見方・考え方を鍛える「中学社会」大人もハマる授業ネタ』シリーズ(地理・歴史・公民)『続・100万人が受けたい「中学社会」ウソ・ホント?授業』シリーズ(地理・歴史・公民)『スペシャリスト直伝!中学校社会科授業成功の極意』『100万人が受けたい「中学社会」ウソ・ホント?授業』シリーズ(地理・歴史・公民)『100万人が受けたい! 主体的・対話的で深い学びを創る中学社会科授業モデル』(以上、明治図書)などがある。

【イラスト】山本松澤友里

(構成:及川)

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