100万人が受けたい!中学社会授業ネタ
100万人が受けたい!「社会科授業の達人」河原和之先生の最新授業ネタ。斬新な切り口による教材アイデアで、子ども熱中間違いなしです。
社会科授業の達人(8)
ブラジルでコーヒー生産が盛んになったワケ
立命館大学非常勤講師河原 和之
2021/1/20 掲載

授業のねらい―社会的な見方・考え方を鍛えるポイント

  • 地理
  • 歴史

世界でもっともコーヒー生産が多いのはブラジルであり世界の約34%を占める。しかし、コーヒーの原産国はエチオピアである。エチオピアからどんな経路をたどりブラジルへと生産地が広がっていったのか? そこには、コーヒー生産の地理的条件や、オランダ、イギリス、アメリカ等のヘゲモニー争いがあった。コーヒーを歴史地理的観点から多面的・多角的に考察する。

1 コーヒーの種類

 
 教室に数種類のコーヒーの銘柄を持参する。
 「モカ」「キリマンジャロ」「ブルーマウンテン」「ブラジル」「コロンビア」。

〈発問〉
5種類のコーヒーの中で、国名が銘柄になっているのは?

「ブラジル」

「コロンビア」

教師『山の名前は?』

「キリマンジャロ」

「ブルーマウンテン」

教師『モカは?』

「……」

「どこかの地名?」

教師『地図帳で探そう』

 「どこ?」「どこ?」と協力しながら探している。

教師『ところでコーヒー原産国はどこか?』

「ブラジル」

「ベトナム」

「エチオピア」

教師『エチオピアがコーヒー原産国です。“モカ”は、中東のイエメンにあるモカ港に由来しています』

「へっ! そうなんだ」

教師『エチオピアのコーヒーは、モカ港から世界へと広まりました。“キリマンジャロ”は?』

「アフリカのタンザニアにある山だ」

教師『“ブルーマウンテン”の生産国はジャマイカで、「コーヒーの王様」と呼ばれることもあります。その理由は、味の良さだけでなく、ジャマイカ東部にあるブルーマウンテン山脈のごく限られた地域で作られた貴重なコーヒーだからです』

図1

2 エチオピアからインドネシアへ

 17世紀初めには、コーヒーに対する需要も高まった。このコーヒーに目をつけたのが、東インド会社をつくりアジアに影響力をもっていたオランダである。オランダは、1620年モカに商館をもうけて輸入したコーヒー豆をアムステルダムで販売した。しかし、コーヒー豆があってもいずれ底をついてしまう。コーヒーの種を入手しなければならない。

〈発問〉
オランダはコーヒーの種をどのように入手したのか?
 購入した   こっそり手にいれた   強制的に手に入れた

 意見は分かれる。

教師『オランダ商人は密かにコーヒーの種子を手に入れ、植民地のジャワ島で栽培した』

「あれっ! ちょっとせこい」

「だからインドネシアでコーヒー栽培が盛んになったんだ」

教師『こっそり手にいれたが(笑)、オランダが参入することでコーヒーは世界商品になっていきます』

3 ブラジル、ジャマイカで栽培されたワケ

 17世紀、ヨーロッパではコーヒーブームがおこる。コーヒーブームの背景には、16世紀以降のスペイン、ポルトガルをはじめとするヨーロッパのブラジル、カリブ海での植民地の動きが関係している。

〈発問〉
ブラジルやカリブ海の国々はポルトガルやスペインの植民地だったよね。そこでは何の栽培をしていたか?

「コーヒー」

教師『まだ、早い!(笑)』

「砂糖」

「ブラジル、カリブ海で大量生産された砂糖を売るためにコーヒー栽培をおこなったんだ」

教師『そうです! 1720年代、砂糖商人が嗜好品文化を育てようとしたことからコーヒー栽培がはじまりました。独立戦争の影響によりアメリカではコーヒーが大量に消費されるようになり、中・南アメリカにコーヒー栽培が拡大された。こうしてジャマイカでは「ブルーマウンテン」という銘柄が誕生する』

4 ブラジルが世界一の生産国になった地理的条件

〈グループ討議〉
ブラジルのコーヒー生産地はサンパウロ付近です。原産国のエチオピアはじめ、他のコーヒー生産国と地理的条件で類似していることは何か? 地図帳から考えましょう。

「平野ではない」

「標高が高いっていうより高原かな」

「川は関係ない」

「気温は?」

「赤道直下ではないからそう暑くない」

「何気候だっけ?」

「熱帯雨林」

「サバナ気候では」

「教科書には雨季と乾季があると書いてある」

「コーヒーはサバナ気候の高原で栽培される」


Point▶ 雨季と乾季のあるサバナ気候で、熱帯でもやや気温が低い場所で生育する。高原、丘陵で土壌は有機質に富む火山性土壌が適合している。ブラジルはコーヒー栽培条件に最適な場所である。


5 コーヒーより紅茶党のイギリス人

 イギリス人はコーヒーより紅茶を好む。しかし、17世紀には、イギリス・ロンドンにも3000軒のコーヒーハウスがあった。

〈考えよう〉
なぜ、イギリスは紅茶党になったのか?

「紅茶のほうが美味しいから」

「そうかな?」

「夜、眠れない」

「国が禁止した」

教師『すべて間違いです(笑)。コーヒーハウスに課題がありました』

「ヤンキーばかり」

「不衛生」

教師『全然まちがいですね(笑)。そこは、女人禁制、閉鎖的な男だけの秘密の場所で、女性たちは、家庭を顧みずコーヒーハウスへ入りびたる男たちへの不満をもっていました。女性はどうしたの?』

「女性も入ることのできるコーヒー専門店をつくった」

教師『いい感じ! 紅茶専門店です。これが、男社会に嫌気がさしていた女性たちの爆発的な支持を得ることになります。店の名称は“ゴールデンライオン”です(笑)』


Point▶ 他の要因として、イギリスはヨーロッパにおけるコーヒーの覇権争いでオランダに敗北し、セイロン、インドではコーヒーの栽培から紅茶の栽培へとシフトする。でも、これが、現在のセイロンでのお茶栽培のキッカケになるというのも歴史の皮肉である。


6 アメリカンコーヒーって

教師『今日はよく頑張ったね! ご褒美に、数名にアメリカンコーヒーを飲んでもらいます』

「えっ! 全員じゃないの?」

*************

「味が薄い」

「あまりコーヒーっぽくない」

〈考えよう〉
アメリカ人はコーヒー、紅茶、どちらを多く飲むのか?

「コーヒー」

教師『なぜかな?』

「ハンバーガーに合うから」(笑)

「ケンタッキーに合うから」

「ミスドのドーナツに合うから」

「ミスドはアメリカとは関係ない」(笑)

教師『1776年のアメリカ独立戦争と関係しています』

「ボストン港へイギリスから輸入された紅茶を放り投げたって聞いた」

教師『つまり紅茶はイギリス植民地支配のシンボルとみなされ拒絶された』

「なるほど」

「アメリカンコーヒーは?」

教師『紅茶党のアメリカ人が、コーヒーの色が紅茶に近くなるよう薄めた』

〈発問〉
スターバックスはアメリカが発祥です。スタバには、「アメリカンコーヒー」のメニューはあるか?

 「ある」
 「ない」
 半数ずつに意見が分かれる。「あて勘」で答えている。

教師『スタバではアメリカンコーヒーは販売されていません』

「へっ! どうして?」

「アメリカの会社なのに」

「世界各地に進出しているからでは」

教師『スタバはアメリカで見失われていたコーヒーの香りと文化をとりもどそうとして、シアトルで開店し、世界に広まりました』

 喫茶店でコーヒーを飲むときに、ウンチクを言いたくなるネタである。それぞれの銘柄の地理的歴史的背景を知り、コーヒーを飲むと「知的モード」満載だ。いや、コーヒーが不味くなるか? 大事にしたいのは以下のことだ。先進国向けの換金作物(コーヒー、お茶、たばこなど)が増え続けるアフリカをはじめとする開発途上国の農業は、近年の気候変動や異常気象にも大きく影響される。干ばつになったときは、それらの換金作物は人々の飢えをしのぐものではない。また、コーヒー豆のほとんどは、先進国に輸出され、現地の人たちは大手食品会社のインスタントコーヒーを買って飲んでいる。ちなみに、日本の消費量は世界4位である。また一人当たりの消費量は5位である。この現実に、私たちはどう向き合うべきなのだろうか?

【参考文献】
宮崎正勝『地名で読み解く世界史の興亡』(KAWADE夢新書)
水野一晴『人間の営みがわかる地理学入門』(ベレ出版)

河原 和之かわはら かずゆき

 1952年京都府木津町(現木津川市)生まれ。関西学院大学社会学部卒。東大阪市の中学校に三十数年勤務。東大阪市教育センター指導主事を経て、東大阪市立縄手中学校退職。現在、立命館大学、近畿大学他、6校の非常勤講師。授業のネタ研究会常任理事。経済教育学会理事。NHKわくわく授業「コンビニから社会をみる」出演。
 月刊誌『社会科教育』で、「100万人が受けたい! 見方・考え方を鍛える中学社会 大人もハマる最新授業ネタ」を連載中。
 主な著書・編著書に、『100万人が受けたい! 見方・考え方を鍛える「中学社会」大人もハマる授業ネタ』シリーズ(地理・歴史・公民)『続・100万人が受けたい「中学社会」ウソ・ホント?授業』シリーズ(地理・歴史・公民)『スペシャリスト直伝!中学校社会科授業成功の極意』『100万人が受けたい「中学社会」ウソ・ホント?授業』シリーズ(地理・歴史・公民)『100万人が受けたい! 主体的・対話的で深い学びを創る中学社会科授業モデル』(以上、明治図書)などがある。

【イラスト】山本松澤友里

(構成:及川)

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