100万人が受けたい!中学社会授業ネタ
100万人が受けたい!「社会科授業の達人」河原和之先生の最新授業ネタ。斬新な切り口による教材アイデアで、子ども熱中間違いなしです。
社会科授業の達人(4)
大阪環状線発車メロディーから考えるアメリカの国家統合
立命館大学非常勤講師河原 和之
2020/9/20 掲載

授業のねらい―社会的な見方・考え方を鍛えるポイント

  • 歴史

 大阪環状線「新今宮駅」発車メロディーである“新世界より”と「弁天町駅」の“線路は続くよどこまでも”を通して、アメリカ合衆国の19世紀半ばから半世紀にわたる国家統合、鉄道建設、工業国家建設、そして、海外領土獲得の歴史を考える。

1 ドボルザーク「新世界より」と「新今宮駅」

 「新今宮駅」の発車メロディーを考える。どんな曲にするかをめぐり、ドボルザーク「新世界より」とフランスのシャンソン「オー・シャンゼリゼ」で意見が対立したそうである。それぞれの曲の一部を聴く。どちらが選ばれたか? 多くの意見は、「新世界より」である。理由は、「あのあたりは新世界と言うから」「オー・シャンゼリゼは似合わない」という意見。1912年につくられたルナパークの写真を見せる。

写真

「これはいつ頃?」

教師『第一次世界大戦まえの1912年だよ』

「へっ!ロープウェイも通っている」

教師『当時の通天閣だけど、土台は何かに似てない?』

「凱旋門」

教師『パリの凱旋門だね。大正時代の通天閣一帯はハイカラな街で「新世界」と言われたのです』
『ルナパークにはどんな人が遊びに来たのか? お金持ちだけ? それとも庶民も?』

 意見は半々に分かれる。答えは「庶民も来た」である。大正期になり、大戦景気により大阪の産業が発達、地方から仕事を求めて大阪に働きにくる人が多く、人口急増期を迎える。休暇には、家族でルナパークで遊び、楽しいひと時を過ごしていた。
 再度「新世界より」か「オー・シャンゼリゼ」かを問う。少し後者が増える。答えは「新世界より」である。子どもたちの「えっ!」「もう!」という声が聞こえる。(笑)

2 「新世界より」とアメリカ合衆国の国家統合

 ドボルザークは、チェコ生まれ(1841年)だが、1893年にアメリカ合衆国で「新世界より」を作曲する。なぜ、アメリカ合衆国は「新世界」と言われたのか? 年表から考えさせる。

1846年 アメリカ・メキシコ戦争(カリフォルニア獲得)
1848年 カリフォルニアで金鉱発見(ゴールドラッシュ)
1853年 〔           〕
1861年 〔              〕
1863年 奴隷解放宣言
1868年 アラスカをロシアから購入
1869年 大陸横断鉄道完成
1886年 アメリカ労働総同盟結成
1890年 工業生産世界一に
1898年 アメリカ・スペイン戦争(ハワイ併合)

 1853年と1861年は教科書にも記述があり、『どんな出来事があったか』と問う。1853年はペリーの日本来航である。クジラの油を求めて日本に開港を求めるが、主たるねらいは、中国市場の拠点づくりである。グループで年表からわかることを3点にまとめる。

  • 奴隷解放は大きい意義がある
  • 大陸横断鉄道を完成させ、世界一の工業国になった
  • カリフォルニア、アラスカ、ハワイを獲得し、領土拡大をした 等

 ホワイトボードに書き、グループごとに発表し、「新世界」と言われる理由について意見交換をする。


Check▶1861年は南北戦争である。北軍が勝利、奴隷が解放され、強力な連邦政府のもとで北部を中心とした工業国家建設を進め、90年代からは海外領土の獲得に向かうこととなる。そして、黒人は、綿作労働のみではなく、工場労働者として雇用される。ドボルザークは、「新世界より」第一楽章で“黒人霊歌”を楽曲に挿入している。

3 「弁天町駅」“線路は続くよどこまでも”と「移民労働者」

 2014年に閉業した交通科学博物館は「弁天町」駅にあった。そのことから、本駅の発車メロディーは「線路は続くよどこまでも」(アメリカ民謡)である。日本ではNHK「みんなのうた」などでも紹介されたが、原曲は、1863年からはじまった大陸横断鉄道建設にかかわったアイルランド系工夫たちに歌われたもので、線路工夫の過酷な労働を歌った労働歌である。原曲は、以下のような歌詞である。

俺は線路で働いている。まる一日中だ。俺は線路で働いている。あっという間に時間が過ぎてゆく。警笛が鳴り響くのが聞こえるだろ。こんな朝っぱらから起きろってさ。親方の叫び声が聞こえるだろ。ダイナ、ホーンを吹き鳴らせってさ。(以下略)

 1869年に大陸横断鉄道が完成するが、建設時には、多くの中国人やアイルランドからの移民が働いた。鉄道網の発展は、アメリカ人の西部への移住を促進したばかりでなく、国内資源の開発、市場の拡大、工業や農業の地域の結びつきを強め工業化の基軸となった。工業発展には黒人と移民労働者が不可欠であった。アメリカは、移民が融合する「人種のるつぼ」から、多様な文化や習慣をもつ人々の違いや個性を活かす「人種のサラダボール」へと変化した。しかし、ここ数年、アメリカでは「移民排斥」の時代が到来している。アメリカの変化の是非を生徒とともに考えたい。また、環状線に乗車したおりに、ちょっと話題にしてみたい大人もハマるネタである。

河原 和之かわはら かずゆき

 1952年京都府木津町(現木津川市)生まれ。関西学院大学社会学部卒。東大阪市の中学校に三十数年勤務。東大阪市教育センター指導主事を経て、東大阪市立縄手中学校退職。現在、立命館大学、近畿大学他、6校の非常勤講師。授業のネタ研究会常任理事。経済教育学会理事。NHKわくわく授業「コンビニから社会をみる」出演。
 月刊誌『社会科教育』で、「100万人が受けたい! 見方・考え方を鍛える中学社会 大人もハマる最新授業ネタ」を連載中。
 主な著書・編著書に、『100万人が受けたい! 見方・考え方を鍛える「中学社会」大人もハマる授業ネタ』シリーズ(地理・歴史・公民)『続・100万人が受けたい「中学社会」ウソ・ホント?授業』シリーズ(地理・歴史・公民)『スペシャリスト直伝!中学校社会科授業成功の極意』『100万人が受けたい「中学社会」ウソ・ホント?授業』シリーズ(地理・歴史・公民)(以上、明治図書)などがある。
新刊『100万人が受けたい! 主体的・対話的で深い学びを創る中学社会科授業モデル』を8月に刊行。

(構成:及川)

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