100万人が受けたい!中学社会授業ネタ
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社会科授業の達人(12)
空き家と学生アルバイト
〜「コロナ禍」、ポジティブ思考のすすめ〜
立命館大学非常勤講師河原 和之
2021/5/20 掲載

授業のねらい―社会的な見方・考え方を鍛えるポイント

  • 公民

「コロナ禍」で居酒屋、小売店など、学生アルバイトの仕事がなくなった。中には、経済的な理由で「退学」せざるをえない学生もいる。政府は現金20万円の支給などの政策で対応している。地方自治体によっては、ユニークで意義ある学生アルバイトを雇用しているケースもある。今回は、「コロナ禍」をポジティブに考え、「空き家」調査アルバイトを実施した枚方市の事例を紹介する。

1 増える空き家

 『次のイラストは何か?』と問い、都会にある「空き家」であることを確認する。

図1

〈発問〉
2018年を想定し、「空き家」の数は、大阪府の人口(882万人)と比較し、多いか? 同じくらいか? 少ないか?

 挙手させる。「少ない」が多い。
 下の資料を示し、2018年は848万人であり、大阪府とほぼ同じ人口の空き家があることを確認する。

グラフ1

教師『13.6%ってことは、何戸に1戸が空き家ってことかな?』

「7戸」

「えっ! 7軒あれば1軒は空き家なんだ」

「そんなに多いとは思わないけど」

「過疎地では、村全体が空き家ってこともある」

2 これからも増える空き家

 『これから空き家は増えていくだろうか?』と問うと、ほぼ全員が「増える」である。

〈グループで考えよう〉
なぜ空き家は増えるのだろうか?

「一人暮らしの高齢者が亡くなっていく」

「高齢者が老人ホームなどに行く」

「過疎化が進み、村が崩壊する」

「高齢者が不安になり子どもの家に転居するケースもある」

「地震などの災害で出ていかざるをえない」

「田舎から都会へ転居する人がいる」

「都会でも便利なところへ転居する人もいるのでは」


Point▶ 授業者自身も京都の田舎の両親が亡くなり、約10年間、空き家状態だった経験を話す。特に台風襲来などのときは、近所に迷惑がかからないよう、その対策が不可欠だった。一昨年、更地工事を行い、約400万円が必要だったことを確認する。


〈クイズ〉
2033年には、全国の住宅の何戸に1戸が空き家になるとされているか?
 2戸   3戸   4戸   5戸

 答えは「3戸」に1戸で、総数は2150万戸と言われている。

3 空き家が増えると……

〈考えよう〉
空き家が増えるとどうなるか?

「隣の人が迷惑」

「街の景観が悪くなる」

「犯罪が起こる可能性がある」

「非行が増える」(笑)

「災害が起こるとまわりが迷惑」

教師『空き家が増えるということは、その地域の活力が低下するだけではなく、道路や水道、電気といったインフラを維持することが難しくなってしまいます。また、住民が減るということは、1家族あたりの負担が増えることになります』


Point▶ 政府は2025年には住宅の空き家を500万戸から100万戸抑制する目標を掲げているが、コロナ禍もあり、その見通しはたっていない。


4 枚方市の学生アルバイト

〈考えよう〉
2020年6月「コロナ禍」でアルバイトがなくなり学費や家賃が支払えない学生に対して、大阪府枚方市がIT企業Review(大阪市)と連携し「空き家」対策のアルバイトを募集した。どんなアルバイトだろう?

「空き家を壊す」

「それはあまりにも危険」

「空き家調査」

教師『調査って?』

「数を調べる」

「空き家分布図をつくる」

教師『枚方市では、市内の「空き家」状況を調査する学生アルバイトを雇用しました。調査テーマは「空き家」「空き地」「交通安全の看板」で、市内のすべての公道を自転車、徒歩などで回り写真を撮って専用アプリで投稿してもらうアルバイトです』

「枚方の空き家ってどれくらいあるの?」

教師『枚方市の世帯数は約18万戸ですが、空き家はどれくらいかな?』

「1万」

「5000」

教師『空き家の割合は、3.9%で約7000戸です』

「時給は?」

教師『時給1300円で30人から50人を雇用します』

「学生だったらだれでもオッケー?」

教師『条件は市内在住が基本です』

「市外からだと電車通勤になるからかな」

「でもアルバイト代は税金から出すよね」

教師『人件費など100万円は大阪府のIT企業が負担します』

「へっ!すごい」

教師『何がスゴイのか?』

「困っている学生に社会に有効な仕事をさせているから」

「学生もやる気がでる」

「社会に役立っているって実感できる」

「将来、空き家問題のために頑張ろうっていう人もでてくるかも」

「一挙両得ってこのことだ」

教師『一挙両得って?』

「学生は学費が払えないことも含め生活がたいへん。枚方市も空き家が多く困っている。それぞれの利害が一致しているから」

「本来なら税金でアルバイト代を支払わないのに企業が負担してくれる」

教師『これにより企業イメージもアップし、社会的貢献(CSR)もできるね。調査結果は、「空き家活用」など、今後の市政に有効に活用するそうです。また、街を隈なく歩くことで街の“よさ”や“課題”を発見させることも考えています』


Point▶ 市内に近畿大学をはじめ数校の大学を抱える東大阪市では、時間給1200円(交通費なし)で公立小中学校で学生アルバイトを雇用している。直接、児童生徒に関わることはなく、教室などの整備や消毒液で机や椅子などを拭く仕事などである。


5 さいごに

 「倒産・失業の連鎖」「生活困窮者に適切な支援が届かない」「非正規労働者が増え不安定な就業形態になる」等、コロナ禍によるネガティブな影響が懸念されている。しかし、「失業者や困窮者への支援から福祉国家」というポジティブな展望もある。「負の連鎖」ではなく「負」を「プラス」に転化できる「コロナ」ポジティブ思考が大切である。

【参考】
総務省「平成30年住宅・土地統計調査住宅及び世帯に関する基本集計結果の概要」
「朝日新聞」2020年6月4日
枚方市への電話取材

河原 和之かわはら かずゆき

 京都府木津町(現木津川市)生まれ。関西学院大学社会学部卒。東大阪市の中学校に三十数年勤務。東大阪市教育センター指導主事を経て、東大阪市立縄手中学校退職。現在、立命館大学、大阪教育大学他、5校の非常勤講師。授業のネタ研究会常任理事。NHKわくわく授業「コンビニから社会をみる」出演。
 月刊誌『社会科教育』で、「100万人が受けたい! 見方・考え方を鍛える中学社会 大人もハマる最新授業ネタ」を連載中。
 主な著書・編著書に、『100万人が受けたい! 見方・考え方を鍛える「中学社会」大人もハマる授業ネタ』シリーズ(地理・歴史・公民)『続・100万人が受けたい「中学社会」ウソ・ホント?授業』シリーズ(地理・歴史・公民)『スペシャリスト直伝!中学校社会科授業成功の極意』『100万人が受けたい「中学社会」ウソ・ホント?授業』シリーズ(地理・歴史・公民)『100万人が受けたい! 主体的・対話的で深い学びを創る中学社会科授業モデル』(以上、明治図書)などがある。

【イラスト】山本松澤友里

(構成:及川)

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