著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
やさしくわかる、これならできる、道徳授業づくりの入門書
⽴命館⼤学⼤学院教職研究科教授荒木 寿友
2021/8/3 掲載
 今回は荒木寿友先生に、新刊『いちばんわかりやすい道徳の授業づくり 対話する道徳をデザインする』について伺いました。

荒木 寿友あらき かずとも

1972年⽣まれ。2003年京都⼤学⼤学院教育学研究科博⼠課程修了(博⼠)。現在,⽴命館⼤学⼤学院教職研究科教授。放送⼤学客員教授。⽇本道徳性発達実践学会事務局⻑。光村図書道徳教科書編集委員。NPO法⼈EN Lab.代表理事。
単著『学校における対話とコミュニティの形成』(三省堂、2013)、『ゼロから学べる道徳科授業づくり』(明治図書、2017)、編著『未来のための探究的道徳 「問い」にこだわり知を深める授業づくり』(明治図書、2019)、『道徳教育はこうすれば〈もっと〉おもしろい』(北⼤路書房、2019)、『新しい教職教育講座 道徳教育』(ミネルヴァ書房、2019)など。共著「コンピテンシーの育成と⼈格の形成:道徳のコンピテンシーから導かれる<道徳性>の再定義」『深い学びを紡ぎ出す』(勁草書房、2019)など。

―道徳が教科になり、現場での課題などがいろいろ出てきているかと思いますが、そのようななかで、「いちばんわかりやすい」授業づくりの本をおまとめになった理由はなんでしょうか?

 そうですね、いろんな現場に関わらせていただいているのですが、授業になかなか自信が持てない先生が多いというか、どのように授業づくりをしたらいいかわからない若手の先生が結構おられるんです。そんな先生方が困ったときに、ぱっと読めるような本があればいいんじゃないかなという思いがあって、執筆しました。ただ、この本はマニュアル本ではなく、授業づくりの基本的な考え方が載っている本ですので、本書をベースに先生方が子どもの実態に応じて独自の授業を創り出してほしいなと思っています。

―本書では、定番教材からSDGsまで、幅広い内容について解説がされています。どれもとてもわかりやすくまとめていただいていますが、上記のような困っている若い先生にまず読んでほしいところはどこでしょう?

 難しいですね〜。第1章を読んでいただけたら授業づくりの大枠はなんとなく理解してもらえるかと思いますが、その中でも第1章の3節「考え、議論する道徳とは?」は、ぜひとも読んでいただきたいですね。道徳の授業方法として「考え、議論する道徳」が提唱されていますが、単なる授業方法に留まらず、もっと大切な人間関係づくりや学級経営の観点から話をしています。

―コロナ禍で、授業づくりにはいろいろと工夫が求められています。道徳では、どのような工夫が必要でしょうか。

 「コロナ禍」ということを考えると、2つの側面から考えられますね。授業デザインの側面と、コロナの教材化です。
 授業デザインの側面からは、道徳に限った話ではありませんが、「密」を避けるという点から、従来の膝を突き合わせたような話し合い活動はなかなかできませんよね。話し合いの前に、ミニホワイトボードに自分の考えを書いて、それを見せながら発言をするなどすれば、距離があって聞き取りにくい言葉があっても、視覚的に補助することが可能になります。テレビのフリップボードのようなイメージです。
 コロナの教材化ですが、コロナそのものを教材として扱うことができると考えています。ウィルス自体は私たちの手に負えない問題かもしれませんが、感染が世界規模で拡大している中で、人間そのものの在り方が問われていると思います。たとえば、「ソーシャルディスタンス」という言葉がよく用いられますが、それによって「孤独」を感じる人が増えているのも事実です。本来は「社会的に距離を取ること」ではなく、「社会的にはつながりつつ、身体的には距離を取る」ことが求められるのではないでしょうか。これ以外にも、コロナと経済活動(飲食店への自粛要請など)の関係や、コロナによる差別など、新型コロナの話題はさまざまな角度から扱うことができる現代的な課題であると思います。

―1人1台端末が整備され、道徳でもそれらを含めたICTを使うことが増えていると思うのですが、気をつけたほうがいいポイント・道徳の授業ならではのおススメの活用法などはありますか?

 ICT のC の部分、「コミュニケーションをするためのツール」として使用することを特に意識していただきたいなぁと思っています。通常の教科における学びと違って、道徳では「ドリル学習」をするような個別の学びをするわけではありません。他の子どもや教師との相互作用をより促していく、教科書教材の理解を補強していくために映像を見せる、あるいは学びの履歴をポートフォリオ上に残していくなど、ICTの活用はさまざま考えられます。その中で、「他者とともによりよく生きていくための道徳性を育てていく」という「学びにおける他者性」を常に念頭に置いて、ICTを用いてほしいと思います。

―最後に、いい道徳授業をしたいと考える先生方へ、メッセージをお願いいたします。

 道徳の授業って、年間にたった35時間しかないんですよね。実践する機会がそれほどたくさんあるわけではないのが現実です。となると、できるだけサボらず、1回の授業を大切にするということがまずは大切になってきますね。
 「道徳を教える」のではなく、「子どもたちと道徳について一緒に考える」、そんな授業を目指して、授業を楽しんでもらえたらいいなと思っています。「いい道徳の授業」ってなかなか定義が難しいですが、子どもたちの価値観を揺さぶりながら、よりよい見方や考え方を子どもたちが見いだせるような、そんな授業を目指してほしいなと思います。

(構成:林)

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