著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
「わかる」と「できる」をつなぐすきまの指導で、自分で考え判断し行動できる低学年を育てる
北海道公立小学校宇野 弘恵
2017/10/27 掲載
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  • 生活・生徒・進路指導
 今回は宇野弘恵先生に、新刊『小学校低学年 生活指導すきまスキル72』について伺いました。

宇野 弘恵うの ひろえ

1969年、北海道生まれ。旭川市内小学校教諭。2002年より教育研修サークル・北の教育文化フェスティバル会員。現在、理事を務める。
主な著書・共著に、『スペシャリスト直伝! 小1担任の指導の極意』『学級を最高のチームにする! 365日の集団づくり 2年』『THE 学級崩壊立て直し』『THE チームビルディング』『THE 学級開き』などがある。
同シリーズ『小学校低学年 学級経営すきまスキル70』も好評発売中。

―本書は、「すきまスキル」シリーズの生活指導・生徒指導編として、小学校低学年、高学年、中学校の3冊構成でご提案いただいています。宇野先生には「小学校低学年編」をおまとめいただいておりますが、本書のねらいと読み方について、教えてください。

 学級経営に続いて第2弾となる本シリーズの最大の魅力は、なんといっても「ハード」と「ソフト」で指導が示されているところです。理解させる規律訓練型を「ハード」、できるようにする環境管理型を「ソフト」として書き分けています。つまりわかるようになるための指導ステップを「ハード」に、できるようになるまでどう環境管理していくかを「ソフト」に記しました。ハードとソフトを意識することで、ツボを押さえた、見通しをもっての指導が可能になります。
 また、もう一つの魅力は「わかる」から「できる」をうまく機能させる「すきまスキル」を抽出したことです。指導と指導のすきまにあり、普段は見落としがちなスキル、当たり前すぎて意識化されづらいスキルを明文化したことで、ベテランがなぜうまい指導ができるのかを読み解く一助になるはずです。
 ここに示したスキルは、ほんの一例です。これらをもとにご自分の指導を「ハード」と「ソフト」に分類して整理してみてはいかがでしょうか。ご自分の指導を俯瞰することと同時に、どういう目的で指導してきたかを見つめ直す機会になると思います。

―幼稚園・保育園では「動き回って遊ぶ」ことが中心の生活であったのが、小学校に入ると、「じっと座って学ぶ」ことが求められるようになります。座ることや姿勢などを丁寧に身につく形で教えていくには、どのようなことが大切でしょうか。

 小学校低学年は、入門期。基礎を着実に積む、高学年に向けての土台作りの時期です。学習の基礎という意味でいうと、低学年で是が非でも身につけさせたいのは「学ぶ姿勢」です。これは外観だけのことを指すのではなく、できなくても試行錯誤しながらチャレンジすることや我慢強く努力し続ける内面的な「姿勢」をも指します。幼・保時代に規制なく立ち歩く環境にいた子にとっては難しいことかもしれませんが、じっと座るということがその入口になると考えます。
 こういうと、「厳しく躾けることが大事だな」と思われるでしょう。躾けることは大事です。しかし、厳しいだけではだめで、身につくまでには根気よく手を変え品を変え指導することが肝要です。特に言葉だけで指導しようとすると、全くうまくいきません。「おなかを伸ばしましょう」と言って手をおなかに添えるように、低学年にわかる言葉で見えるところを見えるように意識させる丁寧さが必要です。そして、できたことや頑張っていることを細かに見取って承認していくことです。
 この小さな小さな積み重ねが、安心と自信につながります。安心してチャレンジし、安心して失敗することで、安心して再度チャレンジできるのです。そうすると、うまくいかなくてもチャレンジできる自分を誇りに思い、自信がつくのです。
 やっと地面に顔を出した双葉のような低学年です。怒鳴って叱りつけて芽を摘むのではなく、お日様がぽかぽかと照らすように育てていきたいものです。

―小学校低学年では、言葉の理解が未熟であったりすることから、問題行動についても、「知らない、わからなくてできない」「知っている、わかっているけどできない」こともあると思います。低学年特有の配慮すべき点、指導のポイントがあれば教えてください。

 低学年は小さいだけに、大人の権威で言うことをきかせることが可能です。叱責や罵倒、威圧を武器に指導をすれば確かに、静かにちゃんと学校生活を送ることができるのかもしれません。
 しかし、学校教育の目的は「静かに言うことをきく子」を育てることではありません。身につけた知識をもとに、自分で考え判断し行動できる子を育てることにあります。ですから、例え小さくて未熟な低学年であっても、自分で考えさせる経験、判断し行動させる経験を積ませることが大事だと考えます。
 そのためには、まずは「教える」ことです。大人にとって当たり前に思えることも、低学年は知らないことがたくさんあります。「できない=しない」のではなく、「できない=わからないのでは?」という視点で指導をすることが肝要です。
 また、わかっているけどできないということも多々あることです。できなさの理由は千差万別。ですからその子がどこでつまずき、あるいは何に拘り前に進めないのかを見極める目が必要です。
 いずれにしても、子どもの尊厳を傷つけないように配慮しながら、よき理解者として寄り添う指導を心掛けたいものです。これは、インクルーシブな視点での指導につながると考えています。

―低学年においては、主体性が未発達であることなどから、とかく自分で判断できそうなことも全て先生に聞いて、というように自己判断の力が弱まってしまうケースもあるようです。低学年の段階において、主体性・判断していく力の土台を作っていくには、どのような取り組みが大切でしょうか。

 昨今、失敗できない子が増えたなあと感じています。これは、子育ての仕方が悪い、子どもが悪い、というよりも社会の風潮、時代の特徴ゆえではないかと考えます。
 読者のみなさんはおわかりのように、失敗のない人生なんてあり得ません。人は皆、何かしら失敗したり間違ったりして成長しているのです。だから、失敗して、考えて、やってみるという経験を積むことがとても大事なのではないでしょうか。
 とはいえ、失敗したくない子にとって何でも自分で考えるのは苦痛です。いきなり突き放すのではなく、言い方を教えたり、選択肢を示したりしながら自分で決めさせる経験を増やすことが大事です。
 と同時に、教師が失敗を許容する姿勢でいることも心掛けなくてはなりません。教師が結果だけで判断するのではなく、その過程を価値付けすることが安心と自信につながります。それがベースにあるからこそ、自分で考え判断し行動できる子に育っていくのではないでしょうか。

―最後に、読者の先生方へメッセージをお願いいたします。

 低学年指導は、とても手がかかります。一度言ったってできないし、できてもすぐ忘れてしまいます。だから教師はどう伝えればわかってもらえるんだろう、どうしたらできるようになるんだろうと、子どもに寄り添う指導を考えることができるのです。教育の根本は、ここにあると言っても過言ではないと思います。
 子どもの側に立って丁寧に指導された低学年は、安心と自信を胸に高学年へ向かいます。低学年での土台ががっちりしていれば、高学年では高学年で出合うべき課題と向き合うことができるのです。低学年は基礎固めの時期。たくさん失敗させながら逞しく育てましょう。そして、低学年特有のおもしろさ、かわいらしさを教師も存分に楽しみましょう。

(構成:及川)

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