著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
江戸の数学・和算の意外性を授業で楽しもう!
三重大学名誉教授上垣 渉
2013/8/29 掲載
 今回は上垣渉先生に、新刊『中学校 和算でつくるおもしろ数学授業』について伺いました。

上垣 渉うえがき わたる

三重大学名誉教授 岐阜聖徳学園大学教授
1948年 兵庫県生まれ
1972年 東京学芸大学大学院修士課程修了
〈著書〉
『ギリシア数学の探訪』(日本評論社)
『はじめて読む 数学の歴史』(ベレ出版)
『日本数学教育史』(亀書房)
『数と図形の歴史70話』(日本評論社)
『数学大好きにする“オモシロ数学史”の授業30』(明治図書)  

―近年、関連する書籍が多数出版されたり、映画で取り上げられたりと、江戸時代の数学「和算」が注目を集めています。ズバリ、和算の一番の魅力を教えてください。

 和算の一番の魅力は「意外性」にあると思います。
 私たちが学校で学んでいる西洋から輸入された数学は一歩一歩論理的に積み上げていく特徴がありますが、和算にはジャンプして一挙に高いところに飛び上がってしまう意外な解法をみせてくれる側面があります。西洋数学が“平面的”であるのに対して、和算は“立体的”に感じられます。特に、和算の数学遊戯的な問題と解法には「なるほど!」と驚かせられ、感心させられるものが多くあって、それが大きな魅力になっていると思います。

―中学校数学の教科書でも、和算が取り上げられるようになってきました。教材としての和算の優れている点を教えてください。

 中学生の和算に対する一般的な意識は、「数学的な程度は低い」というもののようです。しかし、実際に授業で和算の問題を扱うと「すごい!」と驚き、「江戸時代の人はこんな問題を解いていたのだ!」と畏敬の念を抱きます。中学生なりに日本の数学文化のレベルの高さに気付くのです。そのような意識は数学を学ぶ強い動機付けになり、和算を教材として取り上げる意義の1つになると思います。
 和算には中学校数学のレベルに合った問題も多くあり、ありきたりの教科書風の問題とは違い、興味と関心をもって取り組むことができるという点においても、教材として優れていると思います。

―本書に収録されている教材は、初級編、中級編、上級編の3つに分けられています。このような構成になっているのはなぜでしょうか。

 一般に、和算の問題は難しいと思われがちですが,様々なレベルのものがあります。小学校高学年向きの問題もありますし、高校レベルの問題もあります。また、大学入試問題として手ごろな問題もあります。そこで、中学校数学の問題としてふさわしいものを初級、中級、上級の3段階に分類し、読者の便宜を図ろうとしました。ただ、問題のレベルがどの程度であるかというとらえ方は人によって違うので、実際に授業で扱ってみて判断していただければと思います。 

―最後に、読者の先生方へメッセージをお願いします。

 読者の先生方には、まずは本書で取り上げた問題をぜひ授業で扱っていただきたいと思います。また、250年以上も続いた江戸時代ですから、和算書の量は膨大なものです。したがって、和算が扱った分野、問題は多岐にわたっています。幸い、和算の解説書は数多く出版されていますから、本書を契機として、中学校数学に適切な和算の問題を見いだし、自分なりに工夫して授業で扱っていただければと思います。

(構成:矢口)
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