インクルーシブ教育時代!支援のあるクラスづくり
ちょっと気になるあの子に着目すれば、どの子も願う「あるといいな」の配慮がわかる。居心地のよい、みんなのクラスづくりを始めましょう♪
支援のあるクラスづくり(11)
Aちゃんにも、みんなにも「いい」授業づくり
帝京大学大学院教職研究科客員准教授吉本 裕子
2014/4/20 掲載

 今回は、ゆみ先生が相談にいらっしゃいました。

ゆみ先生

 新しい学年、新しいクラスを受けはや2週間ほどたちました。ざわざわしていたクラスも少しずつ落ち着いてきています。
 しかし、発達障害があると申し送りを受けた子たちが、まだ授業になじんでこれないようです。日々の授業では特別支援教育の視点で、どんな工夫ができるでしょうか。アドバイスいただけないでしょうか。

裕子先生からのアドバイス

 前回、一人一人を大切にした学級経営の基本について述べましたが、今月は、一人一人がわかりやすく楽しい授業について考えてみましょう! そのためには、学級の一人一人の子どもの特性について把握することが第一です。たとえば、耳から入る情報より目で見る情報の方が理解しやすい子。黒板の文面が読み取りづらい子。活動の見通しがもちにくく、不安な様子である子…など、一人一人の子どもの課題把握はもちろんのこと、得意な学び方や内容も把握できると、授業に生かしていくことができます。
 特別支援を要する子どもたちのために工夫した取り組みは、実は他の子たちにとってもわかりやすい取り組みでもあります。
 こうした授業のことを「ユニバーサルデザインの授業」とよんでいます。

全体の子ども達への工夫…

教室環境

  • 教室掲示は、前面は最低限に抑え、横面、後面に掲示しましょう。視覚的刺激の軽減になります。
  • 教室は常に整理・整頓に努め、子どもたちには片付けの習慣をつけましょう。決まった場所に返す習慣が大切になります。

授業における視覚的支援

  • 黒板は全面を使えるようにし、板書は1時間の学習内容がすべてわかるように、明確に表示しましょう。算数なら、「課題」「自分の考え」「友達の考え」「まとめ」などと項目を決めておくとわかりやすいでしょう。
  • 提示する教材は、子どもたちが興味を引く絵や写真、物を活用すると効果的です。
  • 大型テレビ、電子黒板、実物投影機等のICTも有効に活用しましょう。

授業における聴覚的支援

  • 指示は簡潔に、順序を追って話しましょう。
  • いすの脚にカバー(硬式テニスボール等)つけることで、消音の工夫をしましょう。

授業展開に関する支援

  • 書く、読む、話す、作業するなどの様々な活動を取り入れることで、授業に集中させる工夫をしましょう。
  • 1時間の授業の見通しをもたせるために、授業の展開内容をはじめに簡単に示しましょう。
  • 授業時間の始まりと終わりの時間を守りましょう。

 新学期のスタートで、自己有用感を味わえるきっかけができると、本人だけでなくクラス全体にとってもよい風土が生まれます。
 中学への進学の場合でも、進級の場合でも、引き継ぎの内容については、保護者の同意を得てから引き継ぐようにするとよいでしょう。同意のないところでの引き継ぎは保護者の信頼関係にも響きます。最近では、4月にわが子がつらい思いをしないようにと、次の担任教師に配慮や支援をしっかりと伝えてほしいと願う保護者も多くなっています。
 確実に引き継ぎ、次の教育の場で配慮や支援が実施されることが重要です。

個別の支援が必要な子への工夫  障害別の主な例

LDの場合
読む、書く、計算する等に苦手感がある子には、具体的な支援が必要となります。
読む

  • 今どこを読んでいるか分かるように、ガイド枠をつけましょう。
  • 板書の文にも大事なところには、チョークで囲むなど印をつけましょう。
  • 教科書の文が読みづらい時は分かち書き等の文にしましょう。
  • 漢字が読みづらい場合は、ふりがなをふりましょう。

書く

  • 小さい文字が書きづらい場合は、マス目を大きくしましょう。
  • 板書の視写の内容を減らし、負担感を軽減しましょう。

計算する

  • 小さな九九表のカードを持たせましょう。
  • 計算機を使わせましょう。

ADHDの場合
集中が途切れやすい、気が散りやすい子には、次のような支援は効果があります。

  • 気が散らないように、座席は前列がよいでしょう。担任もすぐ対応ができます。
  • 授業の見通しを持たせるようにしましょう。口頭で知らせるのではなく、1.〇〇 2.△△ 3.□□ の簡単にミニ黒板に書き、表示するのがよいでしょう。
  • 本人の興味・関心のある活動を授業に取り入れると、活躍の場が生まれ、意欲的に取り組めるようになります。

高機能自閉症、アスペルガー症候群の場合
知的に高いレベルの子どもが多いため、その知識的欲求を満たすことができる取り組みを用意することで落ち着いて学習に向かうことができます。

  • テンポのよい授業展開が大切です。理解が早いため、すぐ飽きてしまいます。
  • 暇な時間を作らないようにします。他の子より課題が早く終わることが多いので、個別の課題を用意することが必要です。
  • 何度も手を挙げて発言をしたがる場合は、1時間の授業では5回まで発言してよいことなど約束させると理解できるでしょう。

ゆみ先生

 授業の工夫について、いろいろと具体的に教えていただきありがとうございました。まず、子どもたちの一人一人の特性について理解をしていきたいと思います。

どの子にもわかりやすい授業づくりのポイント

  1. クラス全体の指導をわかりやすく、興味・関心を引くような工夫をする努力を続けていくと、授業の内容を一人一人にどう理解させることができるかという視点に立った授業改善につながります。
  2. 特別支援教育の視点は授業の本質的な改善の視点にもなります。
  3. 達障害の子ども達への配慮は一人一人の特性をまず把握することから始めましょう。子どものやりにくさをどれだけ軽減できるかの視点に立つことが大切です。

吉本 裕子よしもと ゆうこ

特別支援学級(知的障害学級)の担任として29年、その後管理職として11年、公立小学校に勤める。特別支援学級担任時代は東京キの個別の指導計画作成に携わった。校長時代は「特別支援教育の考えを基盤とした4つの教育改善」のテーマの下、通常の学級の担任と通級による指導担当者たちと研究発表を実施。平成25年3月に小平市立鈴木小学校の実践をまとめた『特別支援教育の視点で授業改善』を明治図書より出版。
現在 調布市教育委員会教育支援コーディネーター、清瀬市特別支援教育巡回指導員等。

(構成:佐藤)

コメントの一覧
1件あります。
    • 1
    • 名無しさん
    • 2014/5/6 22:17:47
    クラスに特別支援の子が一人ならば、その特徴に合わせての授業ができますが、普通学級には両極端な特徴を持つ支援対象者がそれぞれ複数名いることもよくあります。それを担任一人でどうしろというのでしょうか…。今度はぜひ個々の対処法ではなく、複数名いる場合でも、それぞれ同時に満足させられるには…という視点での提言が出てくることを期待します。
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