フル・インクルーシブ教育の学校&授業づくり
インクルーシブ教育の最先端の研究を担う,東京大学大学院教育学研究科と大阪市立大空小学校の取り組みを紹介。
フル・インクルーシブ教育の学校&授業づくり(4)
大阪市のインクルーシブ教育 大空小学校の取り組みより
大阪市立大空小学校校長岩本 由紀
2018/9/20 掲載

 今回は、今年度4月より大阪市教育委員会から着任された岩本由紀校長が、大阪市のインクルーシブ教育の歴史にふれながら、大空小学校の取り組みについて、どのように受けとめ、取り組まれているのか紹介してくださいます。

 大阪市では従前より地域で「共に学び、共に育ち、共に生きる」教育、インクルーシブ教育を推進しています。1979年(昭和54年)の養護学校義務制以前に、市内に特殊学級(現在の特別支援学級)を設置し、当時より、「障がいのある子どもの人権尊重を図り、地域で共に学び、共に育ち、共に生きることを基本とした教育の推進に努め、就学先の決定にあたっては、本人・保護者の意向を最大限尊重する」という就学指導方針を打ち出し、地域での学びを大切に取り組んできました。
 教育委員会では2015年(平成27年)度に、担当部署名を特別支援教育担当からインクルーシブ教育推進担当と改称し、小中学校への就学・進学を基本とした共生教育の推進にいっそう注力することとなりました。私も教育委員会着任当初より、共生教育推進に向けて、大空小学校をはじめ、市内すべての学校園での特色ある取り組みを支援するため、指導助言や人的配置を含めた各種条件整備に努めてきました。
 さて、大空小学校については、本校の学校協議会委員をしていただいております小国先生から、私の着任時に次のような話を聞きました。

・障害のある子と障害のない子が「共に」学ぶという大阪の統合教育の前提は、一種の偏見ではないか、と木村泰子初代校長をはじめ、大空小学校の第一ステージの教員が考えたこと。
・「障害」は社会的に構築されたものであるという前提のもと、大空小では「障害」も一つの個性ととらえてきたこと。
・もっともしんどい子は、必ずしも「障害」をもった子ではなく、そのときどきで違うこと。
・その、もっともしんどい子の居場所が大切にされる学校をつくろうと教職員とサポーター(保護者)、地域の人々が一体になって、創設から12年間常に進化を続けてきたこと。

 開校13年目を迎える大空小学校では、一貫して「みんながつくる みんなの学校」として取り組みを進めています。本校の大きな特徴として、すべての子どもたちが常に一緒に学ぶスタイルを実践しています。担当する教職員と共に、日々変化するすべての子どもたちの様子から感じたことを共有する時間を常にもっています。また、何か子どものことで対応が必要な場合は、その時その場にいる教職員が集まり、すぐに話し合いが始まり、だれがどう話す、子どもをどうサポートするかだけでなく、子どもと子どもをどうつなげばいいのか、その子が居やすい環境にするために、まわりがどう変わればいいのか、そんな話し合いが頻繁に行われます。
 また、大空小学校は、地域の学校として開かれているので、サポーター、地域の方々が授業に参加し、共に学習をつくっています。学びにくさを感じる子どもがいる場合、どうすればいいのか、教職員がそれぞれ考えながら行動し、教職員がチームで動く、そんな教職員のチーム力が大きな力となっています。
 一方で、本校にも課題はあります。すべての子どもの学習権を保障する学校をつくることを学校の理念としていますが、同じ空間で同じ学習ができにくい子どもがいる場合、どのような学習の進め方をするのかは難しい問題です。一人ひとりに対応しようとすると、結局は授業のあり方はそのままにし、そのときに支援を必要とする子どもに支援担当の教師が1対1で対応にあたり、通常学級の中にその子と支援の教師との二人だけの世界を構築してしまいかねません。これでは、目に見えにくい「排除」を通常学級の中につくりだしてしまいます。子どもと子どもをつなぐ授業はどのようにすれば可能なのか、お互いにつながるなかで、一人ひとりの学びをどのように豊かにしていけばいいのか。大空小学校では、若い教師だけでなくベテランの教師も、まわりの教師やサポーター、さらには子どもの意見を聞いて、真剣に授業のあり方を変えようと努力し、挑戦し続けています。また、それぞれのよさを伸ばし合うなかで、子ども同士、さらに子どもと教師、子どもと親、子どもと地域の人々が「共に生きる」体験を積み重ねることを大事にしています。子どもは地域の宝です。私たちの教育が10年後、20年後の地域社会をつくる基礎になることを願っています。そのためにも、共に学び合うなかで、個々のニーズにきめ細かく対応できる柔軟な指導・支援のいっそうの工夫が必要だと考えます。
 大阪市では、地域での学びを大切にし、インクルーシブ教育を推進してきています。
 さらに本校の子どもたちが輝きを放つためにも、引き続き、校内の教職員の個々の授業力を高めつつ、柔軟な指導支援体制を工夫し、広く他校との実践交流と情報交換による、内外に開かれた学校づくりを進めていきたいと考えます。

まとめ

  • 大空小学校の子どもたちが、さらに輝くため、本校の実践と課題の双方を分析しつつ、取り組みをどう評価、改善していくか、そして、いつも学び続ける大空小学校をつくっていくことが私の責務ととらえています。

岩本 由紀いわもと ゆき

平成2年度  横浜市立養護学校教諭
平成6年度  大阪市立養護学校教諭
平成20年度  大阪市教育委員会事務局指導部特別支援教育担当指導主事
平成27年度  大阪市教育委員会事務局指導部首席指導主事
平成28年度  大阪市教育委員会事務局指導部インクルーシブ教育推進担当課長
平成30年度  大阪市立大空小学校校長

(構成:赤木)
コメントの一覧
8件あります。
    • 1
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    • 2018/9/24 14:09:53
    • 2
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    • 2018/9/24 14:14:06
    • 3
    • ちゃい
    • 2018/9/27 0:38:26
    三代さん・・・それを全て学校のせいにする、というのが今の日本の教育の現れですよね。
    この学校では、文句は通用しません。意見として保護者も話し合う環境が整っていると見受けられます。中には要求要望だけの親も増えたと聞きますが、全て学校任せのようです。
    • 4
    • 木村泰子スーツケース
    • 2018/11/22 0:30:16
    なるほど、「大阪市のインクルーシブ教育の歴史」を前面に出せば「豊中市第十五中学校集団暴行致死事件」については、ダンマリを決めることができるというわけですね。
    「豊中自慢の統合教育」やら「大阪市のインクルーシブ教育」とやらを自慢げに語る人の中には、この事件について真面目に語る人なんていません。
    悪ふざけもたいがいにしてほしいです。
    • 5
    • 東北地方教員
    • 2018/12/30 20:31:59
    校長先生が替わっても続いていく大空小学校の教育、その持続性が素晴らしいと思います。大阪市教育委員会が担当部署名を特別支援教育担当からインクルーシブ教育推進担当と改称したことにも感銘を受けました。今後のさらなる発展を期待しています。
    • 6
    • 名無しさん
    • 2019/1/29 19:10:58
    大空小学校の教育方針の是非については判りかねますが、初代校長が新設校で異例の長期間の就任により独自の教育方針を披露するには恵まれすぎる状況だったのは確かです。風通しが悪すぎて校長色一色の学校になった気がします。退職後も全国で「みんなの学校」の講演をされていますが、大空の実情はバランスを欠く特別支援学級の増加で苦慮されていること、学力テストでは平均を下回っていることなど、講演される際は、特に大阪市は学校選択制なので最新の情報を正しく伝えていただきたいと思います。これが正しい教育と思いこまず、絶えず手探りで目の前の児童に合う教育を模索していく姿勢が大切なのではないでしょうか。
    • 7
    • 地地方臨採小学校講師
    • 2019/3/25 15:43:03
    私はたくさんの業種の仕事をした経験があります。広告代理店営業、洋服の販売員、倉庫での仕分け、教育委員会での家庭教育相談員、今は、担任ですが支援員も経験しました。人は長い間がっこうにかよいます。その中で学力主義成功主義の考えが形成されているように感じてます。私はそうならないように子供達を守りたいと、日々戦っています。大空から文科省へ気持ちが届きますように
    • 8
    • [削除]
    • 2019/6/7 21:51:53
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