英語教育ユニバーサルデザイン 指導に役立つ教材・教具
「がんばっているのに英語が覚えられない…」読み書きが苦手な子どもたちの英語指導に役立つ教材・教具を紹介。 学び方を変えれば、英語はできるようになる!
英語教育ユニバーサルデザイン 指導に役立つ教材・教具(7)
聞くことの指導―英語の音韻認識1
神戸山手短期大学准教授村上 加代子
2018/12/5 掲載
  • 英語教育UD 教材・教具
  • 特別支援教育

今回のねらい

 さて、今回は英語の聞く力を育てる活動についてのご紹介です。近年の英語のディスレクシア(読み書きの困難)では、その困難さは単語の読み書きに現れると示されてきました。また、その背景要因として、英語を読み書きするのに必要な言語の音=音韻(おんいん)を正しく認識したり、それを自由に操作したりするスキルが弱いことがわかってきました。つまり、会話レベルの聞く力は育っていても、読み書きには不十分であるということです。英語であればアルファベット文字に対応する音韻認識を育てることが大切です。英語と日本語では音韻認識は大きく違います。今回は、教材の具体的な紹介ではなく、「聞く」活動でも特に文字の習得に関係が深いと言われる音韻認識について説明をします。

音韻認識のステップ

図1

 簡単に英語の音韻認識のステップを紹介します。英語圏ではまず文レベルでの聞く力が発達し、そこから段階的に節や句、語、音節へと徐々に細かな単位の気づきが育つと言われています。日本語も同じで、日本語の場合はまず日本語音節(子音と母音のセット)が、そして小学校入学前後ごろにモーラ(拍)という単位が育ちます。英語圏の音節と、日本語の音節は構造が違いますし、また、オンセット・ライムや音素は日本語では日常使うことはありません。そのため、日本人が英語を学ぶ際には、まずは日本語の音韻感覚で英語を捉えます。
 しかし、英語圏で用いる文字は、アルファベットです。アルファベットには音素が対応します(例:Aという文字には/a/という音)。フォニックスを学ぶことで、音素への気づきや操作のスキルもアップすることが知られていますが、だからといって、他の単位を練習しなくて良いわけでもありませんし、日本人にとって、そもそも子音と母音を切り離すことはとても難しいのです。例えばdogという単語は、/d/,/o/,/g/という3つの音素からできていますが、日本人にはdoは1つの音として認識され、/d/,/o/という二つの音だということがわかりにくいのです。
 日本語の読み書き習得でも、同じように「音から文字」への発達が不可欠です。例えば先生が「スコップ」と書きましょう、と指示すると、子どもたちはまずは音の1つのかたまりとして耳から情報を受け取ります。その際に、日本人であれば下記の図のように、日本語母語のモーラ(拍)や音節で単語を文字の単位に分ける処理をします。

図2

 モーラ(拍)では、聞こえない音(小さいツで表される音)も1文字として表します。このモーラで音韻を捉える感覚が弱かったり、小さい「ツ」で表すんだよ、という知識がなかった場合、書き間違え(スペリングミス)につながります。
 この、音を捉え、操作する部分を「音韻認識」、そして捉えた音声がどのように文字で表示されるかを知っている知識の部分が英語では「フォニックス」になります。書き取りをする際には、単語を丸ごと暗記すれば良いといったものではなく、このように、文字の単位での音声の知覚と、文字と音の対応ルールが必須であると言われています。

 では、英語圏ではどのように音韻認識に慣れ親しんでいるのでしょうか。実は母語であっても、フォニックスに必要な“音素”の獲得は全員が同じレベルまで到達できないことが明らかにされており、幼児期から明示的で段階的な音と文字の指導が実施されています。
 皆さんもご存じ、マザーグースなどはライミング(rhyming)がたくさん含まれた絵本です。子どもたちは文の終わりの単語が、同じような韻を踏んでいることに気づき、「面白い!」と感じながら口でなんども繰り返したり、ライミングゲームを通したりして「1つの単語に含まれるより小さい単位」への気づきを育てていきます。
 ライミングは絵本のほか、さまざまな歌にたくさん使われています。英語圏ではたくさんの楽しい幼児向けのCDがあります。

Wee Sing Nursery Rhymes and Lullabies
教材
Wee Sing Nursery Rhymes and Lullabies
出版社
Price Stern Sloan
対象
幼児〜
良い点
マザーグース等含む77曲が収録。子どもの声の質もとても良い。

*URLや教材の情報は掲載時点でのものになります。

村上 加代子むらかみ かよこ

米国ウィスコンシン大学マジソン校卒。
神戸山手短期大学准教授。英語教育ユニバーサルデザイン研究会代表。
学習障害のある児童生徒対象の「チャレンジ教室」を主催。英語教科における特別支援やユニバーサルデザインの啓発活動に積極的に取り組んでいる。教員間の情報交換のプラットフォームづくりを目指している。

(構成:佐藤)
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