子どもの心をグッとつかむ言葉のワザ
学校生活でも授業でも、教師と「話すこと」は切っても切れない関係。話術、言葉の選び方、コミュニケーション力、コーチング等、教師に必要な言葉のワザを伝授します。
子どもの心をグッとつかむ言葉のワザ(15)
教師のメンタル管理の特効薬「プラス思考」をつくる4つのポイント
パラグアイ ニホンガッコウ大学学長補佐西野 宏明
2020/8/10 掲載

事例同じ事例でも180度変わる「マイナス思考」と「プラス思考」

●教室で

その1 学級全体の成長を考えている場面で

マイナス思考
 「どうして、この子たちはできないんだ。私はしっかりがんばって教材研究したり勉強会行ったりしているのに、子どもたちががんばらない。だから自分の学級が伸びない。この子たちのせいで、自分の評価が低くなるのは嫌なんだ」

プラス思考
 「半年でここまでできるようになったな。子どもたちも自分もがんばってきたな。みんなのがんばりと成長を今日は伝えてあげよう。課題はあるしすべて解決できるに越したことはないけれど、また来週、来月に向けて、一つずつ取り組んでいければいいかな」

挿絵01

その2 生活指導の場面で

マイナス思考
 「自分は正しい。自分は間違っていない。なのに、あの子たちがわかっていない。全然ダメ。すなおじゃない。口だけで改善しようとしない」(「自分は正義、子供は敵」型)
「自分の学級の子どもたちが叱られた。それは自分の指導が悪いからだ。自分って全然だめだな。もう何をやってもうまくいかない」(「相手を責めず、自分を責める」型)

プラス思考
 「あの子たちは心の奥ではどう思っているのかな。まずは決めつけないで、しっかりと話しを聞いてあげようかな。そうすればいい指導法も思いつくだろうな」
「自分の学級の子どもたちが叱られた。この経験をいかして、子どもたちの学びに変えられればいいな。そして自分も今度からは今回のような事態を防げるように気を付けよう」

●職員室で

その1 実践についての話し合いの場面で

マイナス思考
 「どうして校長先生も学年主任もわかってくれないんだ。絶対に自分のやり方、考え方の方が正しいのに!」

プラス思考
 「自分の実践について振り返られるいい機会になったな。それぞれ自分の哲学や好みがあるからいろいろ指摘してくれたけど、どの部分がどういう理由で好ましいのか、好ましくないのか、あらためて考えてみよう」

その2 指導案検討会で自分の意見が伝わらない場面で

マイナス思考
 「だから勉強しない先生方はダメなんだよ。考えが古いし固い。だれもわかってくれない。わかろうともしれくれない。一人で戦うしかないか。ちぇっ」

プラス思考
 「今度は提案の仕方をもう少し工夫してみよう。これまでの先生方のやり方や姿勢を尊重しつつ、それでもなおこの実践を組み込んだ方がいいという理由を説明すればきっとわかってくれるはず」

その3 校務分掌の部会で指摘を受けた場面で

マイナス思考
 「あぁ、また否定された。自分って、授業も校務分掌も何やってもダメだなぁ。早く土日にならないかなぁ。あぁ、でも土曜も学校に来ないと終わらないかぁ。民間企業の友達はいいなぁ、土日休めて……」

プラス思考
 「いい勉強になった。これで次からは同じミスはしないようになる。教えてもらえるというのは、長い教師人生で特になることばかりだな」

●保護者との場で

その1 電話で様々なことを要求された場面で

マイナス思考
 「どうして私があなたの子どもにここまでやってあげているのに、わかってくれないの? どれだけあなたの子どものために、私が苦労しているか知っているの?」

プラス思考
 「自分がどれだけがんばっているかをアピールしても仕方がない。お母さんも、お子さんのことを真剣に考えているから、こういうことを求めてくるんだな。気持ちを受け止めた後で、自分の考えを落ち着いて丁寧に伝えてみよう」

その2 生活指導に関して色々相談された場面で

マイナス思考
 「家のしつけがなってないからそうなるんでしょ。私は十分にやっているはず。だから、あの子はああなってしまうのでしょ。わかってないなぁ」

プラス思考
 「お母さんを孤立させず、一緒に協力していけるように働きかけてみよう」

その3 個人面談で学級経営に関して指摘された場面で

マイナス思考
 「あぁ、またあの保護者にひどいこと言われた。やだなぁ。なるべくかかわるのをやめて、波風立たせずに3月になるのを静かに待とう。あぁ憂鬱」

プラス思考
 「自分の実践に自信をもつにことは大事だけど、自分の実践を絶対化するのはよくないかもしれないな。受け入れる部分と今は難しい部分とそれはおかしいという部分を明確にして、自分の糧にしよう。こんな機会を与えてくれた保護者に感謝できるといいな」

解説

プラスもマイナスも実は自分で決めることができる

 ある事象が起きたとき、自分の状態によってその受け取り方は大きく違ってきます。
 同僚、保護者、子どもから何かを言われたとき、失敗したとき、それをどう受け取るかは自分自身で決められるということです。
 自分の状態が、プラスに受け取るかマイナスに受け取るか決めているのです。
マイナス思考により、マイナス感情により、マイナスの解釈が生まれ、マイナスの印象を固定付け、マイナススパイラルに陥っているだけの話です。
 では、プラスの好循環で考えることができるようにするには、どうしたらよいのでしょうか。 

常に自分がよい状態(幸せ、ワクワク、安心、心地よい)になっておく

 要するに、自分がよい状態になっていれば、あらゆることが自分にとってプラスになるわけです。
 それでは、常に自分がよい状態をキープするためにはどうしたらよいでしょうか。そのためのポイントが4つご紹介しましょう。

ポイント@ ポジティブな言葉(特に感謝)を癖にする

 人間は一日に4万〜6万回、言葉によって思考しているそうです。もちろん、心の中でつぶやいていることを含めてです。
 数万回発している言葉が、すべてプラスの言葉だったら自分の考え方、ものの見方はどうなるでしょうか。1か月で約150万回、1年で1825万回です。
 そんな言葉のシャワーを浴び続ければ、どうやってもプラスに転換していきますよね。
 自分を勇気づける言葉、好きな言葉、元気になる言葉を使う習慣を身に付けましょう。
私は「ありがとう」を連発するようにしています。

ポイントA 自分をいたわる

 これが最も大事だと思っています。疲れをとるのです。休息です。
 疲れているときは仕事を最低限にします。休みの日のワクワクを大切にします。映画、料理、デート、サッカー、ランチ、登山、読書、カフェ、温泉なんでもいいと思います。自分にいっぱい栄養を与え続けます。これでもかというくらい栄養を与え続けます。そうすると、活力がわいてきます。

ポイントB 自分のマイナス思考を疑う「本当にそうなのかな?」

 疲れているときはマイナス思考になります。そんな自分に振り回されてはいけません。
 私はいつもマイナス思考のときの自分に対して言っている言葉があります。
 「それは嘘だ」「本当にそうなの?」
 これで、自分のマイナス思考から見えている世界が少し緩和され、
 「確かに、この人もそんなに悪人じゃあないかな」「この人から学べることは何かな?」 と考える余地が生まれます。

ポイントC 大前提を信じる

 校長先生、先輩、保護者、子どもに対して、怒り、不信感、失望感、憎しみ?の感情をもったとき、大前提に立ち返ります。
 「この人が先生になったとき、どんな気持ちや夢があったのかな? 自分と同じようにやる気満々で、子どものためになりたい、よい教育したいって思っていたはずだ」
 「この人が親になった瞬間って、どんな気持ちだったのかな?」
 「この子はどんな思いをもって、学校にきているのかな?」
 相手がその立場になったときの当初ことを考え、想像すると、大前提として「みんないい人になりたがっていたはず」となります。
 しかし、いろいろなことが積み重なり、今はそういうふうにしか表現できないんだと気付けるようになります。

ここがポイント!

  • 常に自分がよい状態にキープできるように工夫する!今月の「言葉のワザ」
  • マイナスもプラスも自分の解釈次第ということを頭に入れておく!
  • マイナス思考に陥った時、自分の考えは正しいか疑う!

西野 宏明にしの ひろあき

東京都の公立小学校を10年間勤めたのち、2019年7月よりパラグアイの私立ニホンガッコウで学校顧問(教育コンサルタント、学長補佐)に就任。
初任時代の初めての授業で挫折し、教師修行を始める。
日本各地の教育イベント、セミナー、サークルに参加。自分自身でも若手教師向けのサークルやセミナーを主宰した。毎月5万円以上は読書やセミナー参加費に費やし、自己研鑽に励んだ。その集大成として3冊の単著『子どもがパッと集中する授業のワザ74』『子どもがサッと動く統率のワザ68』『熱中授業をつくる!打率10割の型とシカケ―そのまま追試できる「大造じいさんとガン」』を上梓。
2017年よりJICA青年海外協力隊員としてパラグアイへ派遣され、2年間、現地の教育力向上に努める。2019年3月に公立小学校を退職し、現職。

(構成:木村)
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