子どもの心をグッとつかむ言葉のワザ
学校生活でも授業でも、教師と「話すこと」は切っても切れない関係。話術、言葉の選び方、コミュニケーション力、コーチング等、教師に必要な言葉のワザを伝授します。
子どもの心をグッとつかむ言葉のワザ(7)
伝えているのに伝わらないのは「言葉の地図」が違うから
パラグアイ ニホンガッコウ大学学長補佐西野 宏明
2019/12/10 掲載

事例指示したのに!説明したのに!どうしてうまくいかないの?

■その1 「きれいにする」ってどのくらいきれいなの?

 掃除の時間、きれいにするよう伝えたにもかかわらず、時間がたってもきれいになっていませんでした。見るに見かねて、当番だったやんちゃ君にかなり強く指導しました。

西野「ちゃんときれいにするって約束しただろう。どうしてきれいにしてないんだ」
 「だからきれいにしたじゃん!」
西野「どこがきれいなんだ!」
 「よく見てよ! きれいにしたじゃん!」
西野「どこをきれいにしたんだ!」
 「ここだよ!」
西野「まだ汚いから言っているんじゃないか!」
 「ぼくにとっては十分きれいなんだよ!」
西野(は…? あぁ…。そいうことか。)

挿絵

 「そいうことか」と思ったのは、コーチング講座で教わった言葉が頭をよぎったからです。
 「人によって『言葉の地図』の地図が違うので『言葉の地図』をそろえましょう」
 私の「きれい」と、この子の「きれい」のイメージが違ったのです。

■その2 「ちゃんと歩く」ってどんな歩き方?

 学年行事の音楽会のときのことです。
 私は日ごろから度々指導をしているやんちゃ君に、他の子と同じようにビシッとした態度でリコーダーをふき、入退場もしっかりと行うことを期待していました。
 そこで、彼に「しっかりと自分の役割を果たしなさい。吹けるんだからちゃんと吹いて、立つときはしっかり立って、ダラダラ歩くんじゃなくて普通にちゃんと歩きなさい」というような言葉で伝えました。
 すると彼は「うるさいな。わかったよ」と言いました。
 しかし本番、彼はリコーダーは一応(めんどうくさそうに)演奏したものの、演奏しないときの態度はダラっとしており、入退場でもかかとの音を大きく鳴らしていました。
 そこで私は言いました。

西野「なんだあの態度は!」
 「吹いたじゃん!」
西野「ちゃんとやるって言っただろ!」
 「ちゃんと吹いたじゃん!」
西野「歩き方もわざと足の音を鳴らしたり、ダラダラ歩いていたでしょう?」
 「フツーに歩いてたよ!」
西野「あれが普通なのか」
 「そうだよ」
西野(あれ? 真顔だ。意地張っているわけではなさそう。本気でそう思っているの? …この子とは「言葉の地図」がまるっきり違うんだ!)

■その3 「助け合い、協力し合う」っていつどこでだれに対して?

 学級目標の1つに「友達と助け合い、協力し合うクラス」という言葉がありました。
 子どもたちは本当にそういうクラスにしたいという願いをもっていました。
 しかし掃除の時間、子どもたちは自分の担当箇所が終わって教室に戻ってきた後、机を運んでいる友達を手伝うでもなく、思い思いの時間を過ごしていました。
 そこで掃除が終わった次の時間に子どもたちに問いました。

西野「学級目標をもう一度読んでください」
子どもたち(読む。)
西野「この目標を本気で達成したいんだよね?」
子どもたち「うんうん」
西野「先生、それが本当かどうか、掃除の時間に疑問をもったんだけど。友達と助け合い、協力し合うクラスという目標についてね」
子どもたち「え?」「あぁ、わかった!」
西野「でしょ? つまり、みんなにとって友達と助け合い、協力し合う行動ってどういうこと?」

 ここから先、この目標についての具体的な姿やあり方について全体で共有し掲示しました。その後、子どもたちは他の場面でも目標を達成するための行動を取るようになりました。

解説

伝わったことが伝えたこと

 事例その1と2のやんちゃ君について。
 彼は彼の中で「きれい」にしたし、「ちゃんとリコーダーを吹いた」わけです。
 しかし、私の中ではより高いレベル、よりしっかりと行う姿を求めていました。
 私は彼に「しっかりと行う」ように、「きれいにする」「ちゃんと演奏して入退場する」ように伝えました。
 そしてそれを彼なりに「しっかり」「ちゃんと」行ったのです。
 要するに、私は私のイメージを彼に伝えきれていなかったのです。
 相手に伝わっていた理解は
 「ちょびっときれいにすればいいんだろ」
 「とりあえずリコーダーをふいてやるか、先生がうるさいから」
というものでした。
 そもそも、彼ともっとよりよい関係づくりをすることが可能だったかもしれませんし、彼の心に火をつける努力が足りなかったかもしれません。
 それでも、彼の発達特性を理解した上で、彼ともっとコミュニケーションをとってゴール像を共有しておけば、彼の中で、今自分が行うべきことは何か、より具体的に理解でき、彼の自尊感情をもっと高められたかもしれません。
 少なくとも、私から叱責されることは減ったはずです。

副詞や形容詞は、数字やたとえ話で具体的なイメージを共有すること

 「しっかり」「ちゃんと」「きっちり」はなるべく使わないようにします。
 人よって、その内容、レベル感、イメージが大きく違うからです。
 また、「きれいに」「丁寧に」「速く」などの言葉も人によって違います。
 「協力」「本気」「完成させる」というのも実はあいまいです。
 時間はかかりますが、「ここぞ!」と思う場面、「これは大切にしたい!」という言葉については時間をかけて共有することをおすすめします。

・掃除できれいにするっていうのはどういうこと?
・ていねいなノートってどんなもの?
・本気で取り組むって、この場合だとどんな姿?
・協力するって、この場面だと誰に対して何をすること?

 言葉を共有しておくことで、先生と子どもの間でずれがなくなります。
 そうすれば、私のように暗黙のうちに「5年生なんだから、そんなことはできて当然でしょう」とか、「なんで、言っていたのにやっていないの?」とイライラを感じなくてすむはずです。
 コミュニケーションを取ってゴール像を共有しておくことにより、その後の問題が減るということが、実はたくさんあります。

指示、説明のあとはしっかりと確認を

 伝えた気にならず、しっかりと伝えるには、問いかけてもう一度言わせることが効果的です。

常に指導法を振り返る

 今の子どもの状態は、今の自分の指導力の結果を反映しています。
 だから、子どもが自分の思い通りにならないからと言って、かつての私のように一方的に叱るのは、子どもにとっても自分にとってもよくありません。
 もちろん、指導力以外にも、たくさんの環境要因があり、よくも悪くもなります。
 しかしながら、自分の指示や説明の仕方、確認の仕方など指導方法を振り返る習慣がないと、実力は向上しづらいです。

余談:パラグアイと日本の先生の違い

 私は現在、パラグアイの学校で指導をしています。現地の先生方に触れる中で、日本の先生との違いを感じることがあります。
 例えば子どもたちの学力が思うようにのびない場合…
 パラグアイの先生方は、よく次のように言います。
 「私はしっかり教えているの。私は悪くないの。でも、子どもがしっかりと理解しないの。話は聞かないし集中もしない。家庭も協力しないしね。だからパラグアイの教育、うちの子どもたちの学力は低いの。私はしっかりやっているのにね。あははははっ」
 一方、日本の先生方のほとんどは、正反対のことを言うでしょう。
 「私の教え方はまだまだ。私の指導力不足だから、責任は私にあるの。子どもはいろいろな子がいるけど、がんばってくれている。家庭によるけど協力してくれている。子どもたちの学力を高めるために、もっと私が指導の工夫をしなくちゃ。はぁ〜」

 それぞれの国の先生の意識の差を毎日感じているところです。
 パラグアイの先生には、日本の先生方の責任感とプロ意識を学んでほしいです。
 日本の先生には、パラグアイの先生方から少しは他責にしていいという気楽さ、楽観的な姿勢を学んでほしいところです。

ここがポイント!

  • 「言葉の地図」を共有する!(大事な言葉だと思うものは特に)今月の「言葉のワザ」
  • 「伝わったことが伝えたこと」を自覚する!
  • 指導方法を常に振り返る!

西野 宏明にしの ひろあき

東京都の公立小学校を10年間勤めたのち、4月よりパラグアイの私立ニホンガッコウで学長補佐と教育コンサルタントを兼任中。
初任時代の初めての授業で挫折し、教師修行を始める(教育新聞電信版で連載。初回の記事はこちら)。
日本各地の教育イベント、セミナー、サークルに参加。自分自身でも若手教師向けのサークルやセミナーを主宰した。毎月5万円以上は読書やセミナー参加費に費やし、自己研鑽に励んだ。その集大成として2冊の単著『子どもがパッと集中する授業のワザ74』『子どもがサッと動く統率のワザ68』を上梓。
2017年よりJICA青年海外協力隊員としてパラグアイへ派遣され、2年間、現地の教育力向上に努める。2019年3月に公立小学校を退職し、現職。

(構成:木村)

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