子どもの心をグッとつかむ言葉のワザ
学校生活でも授業でも、教師と「話すこと」は切っても切れない関係。話術、言葉の選び方、コミュニケーション力、コーチング等、教師に必要な言葉のワザを伝授します。
子どもの心をグッとつかむ言葉のワザ(3)
「プラスのストローク」で子どもが笑顔になる
パラグアイ ニホンガッコウ大学学長補佐西野 宏明
2019/8/10 掲載

事例行事指導でも日常指導でもマイナス言葉→プラス言葉に

■その1
「〜でなければならない」→「〜にこしたことはない」

 学習発表会、学芸会、音楽会、運動会、スポーツの試合、卒業式…
 教育現場には子どもたちが自分の力を発揮する行事が多々あります。
 練習においても、本番前においても、先生が子どもたち全体に声をかける機会があるはずです。そんなときにおすすめしたいのが、この言葉かけです。
 「〜できなくてはいけない」よりも「〜できるにこしたことはない」
 「〜でなければならない」よりも「〜にこしたことはない」
 行事になると先生たちは強い言葉で指導しがちです。
 しかし、先生方の理想を子どもたちと共有しつつも、その理想を強要しないである程度のゆとりをもって指導した方が、結果的にうまくいくことがあります。
 具体的な言葉かけで見てみましょう。
成功するにこしたことはない。
×成功しなければならない。

勝てるに越したことはない。
×絶対に勝たなくてはダメ。

■その2
「〜しないと〜になってしまうよ」→「〜すると〜できるようになるよ」
「〜だと〜しかできなくなるよ」→「〜すると〜になるよ」

 具体的な場面に置きかえてみます。

「毎日10分間、漢字練習するとどんどん漢字が身につくよ」
×「毎日、漢字練習しないと、漢字が書けなくなってしまうからね」

「早いうちから計画的に準備をしておくと、とても充実した会になるだろうね」
×「早いうちから計画的に準備しないと、会はうまくいかないで失敗すると思うよ」

「○○くんも、友達の話を聞いてやさしくしてあげれば、もっと楽しく遊べるかもしれないよ」
×「○○くんが、友達の話を聞かないと、楽しく遊ぶことはできないよ」

挿絵

 言っている内容は同じですが、伝わり方が違いますよね。
 どんな効果の違いがあるでしょうか。詳しくは解説で。

■その3
「おしい!」→「5cm近づいた!」

 誰かが目標に達しなかったとき、よく私たちは「おしい!」を使います。
 応援する意味を込めて使います。
 しかし「おしい!」は自尊感情の低い子に対しては、あまり応援の言葉には捉えられないことが多いようです。
 そこで、プラスのストロークで具体的にフィードバックするよう心がけます。
 次のような「おしい!」場面で、できれば以下のように言い換えるとよいでしょう。
 バスケのシュートを外したときは「あと5cmまで近づいた」
 国語の書く指導で誤字脱字があっても「たくさん書けるようになってきたね〜! すごいね!」
 算数の100マス計算で「目標まであと3秒! わぉ!」

■その4
「一番前の人、取りに来て」→「今日一番ラッキーだと思う人、取りに来て」

 プリントを配布するとき、列ごとに人数分を置いていく方法が一般的です。
 私もよく行いますが、少しだけ教室が楽しくなるように工夫します。
 「班で最も○○な人、プリントを人数分取りに来ます」
 「班で、将来お金持ちになりそうな人、1人取りに来てください」
 「班で、将来モテモテになりそうな人、どうぞ」
 「班で、リアクションが一番いい人、配布物をお願いします」
 「班で、今日一番ラッキーだと思う人、1人」

 意図的に、班の友達同士で会話数を増やす仕掛けです。ちょっとしたコミュニケーションを増やして仲良くなります。ちょっとした会話の積み重ねが、人間関係を作っていきます。取りに来たら、先生が一言突っ込んで、さらに笑いを誘います。

解説

完ぺき主義を目指しすぎない方が力を発揮できる

 行事指導などでは、ともすれば私たち教師は子どもたちに強い期待をもっているため、ついついきつめの言葉をかけてしまいがちです。
 もっというと「あなたたちの結果が私たちの指導の結果なのだから、私たちのためにもしっかりやりなさい」という思いから、子どもたちに対して脅しめいたことを言う先生もいます。
 ところが、実際に行事は子どもたちを伸ばすためにあります。そのためには強い言葉で子どもを縛るのではなく、理想は共有しつつもそれを強いらずに、あくまでも活動のプロセスを楽しみながら自分を伸ばせるように指導方法を工夫します。
 子どもたちは思っている以上にがんばっていますし、緊張しています。
 「〜ねばならない」よりも「〜にこしたことはない」という方が子どもはダイナミックに動けます。先生からの強制や圧迫感がなく、活動そのものを楽しむことができるのです。プラスの言葉により自然と力が抜けてリラックスし、いいパフォーマンスを発揮できるようになります。
 完ぺき主義を目指しすぎない方が、反対に完ぺきに近づけるという逆説がここにあります。
 もし行事指導している最中に、練習に参加したがらない子、周りの子どもたちに迷惑をかける子など、気になる子どもがいたら、個別に話を聞けばいいのです。

先生自身も自分を肯定できる

 「〜にこしたことがない」は、子どもたちだけでなく先生方自身にとっても効果的です。
 教材研究、研究授業、保護者対応、行事指導など、先生方にはやることが山積みです。その一つ一つを「完璧にしなくてはいけない」と思うのではなく、「完璧にできるに越したことはないけれど、これだけがんばっているのだから大丈夫」と自分を肯定できる言葉になるからです。

プラスの言葉は自尊感情を高める

 日常指導でも、マイナスの言葉よりもプラスの言葉を使うように意識します。
 事例その2の×の例にあるように、「〜しないと〜になっちゃうよ」という「脅す」「不安にさせる」「追い込む」言い方は、先生方だけでなく、保護者の方もよく使われています。
 このようなマイナスの言葉をかけられ続けると、子どもたちは常にプレッシャーをかけられているような気がして落ちつきません。
 プラスの言葉をかけることにより、相手は安心します。自尊感情が高まります。
 プラスの言葉をかけると、次のようなメリットがあります。

・子どもや学級のよさが先生の目につきやすくなる
・学級でプラスの言動が増える(習慣になる)
・先生も子どももプラスの感情が高まる

笑顔を増やす、広げる

 プラスの言葉とセットで大事なのが笑顔です。
 「どうせ生きているんだったら笑顔でいた方がいい」という言葉を聞き私は救われたことがあります。
 これは学級、学校でもいえることです。
 笑顔の効用として、次の5つが挙げられます。

1 プラス思考になる
2 自尊感情が高まる(幸福度が上がる)
3 疲労感が軽減する
4 集中力が高まる
5 人の幸福度も高める。元気が伝搬する

 実は5の「周りへの影響」が大きいです。周りというのは、子ども、同僚です。
 笑顔でいると、人が寄ってきます。声をかけやすいからです。子どもは心を開いて悩みなどを語ってくれます。同僚からはアドバイスをしてもらったり、助けてもらったりすることが増えます。

ここがポイント!

  • 完ぺきへ近づくためには完ぺきを目指さない!
  • マイナスの言葉からプラスの言葉を意識してみんなが笑顔に!今月の「言葉のワザ」
  • 「プラスの言葉+笑顔」で効果倍増!

西野 宏明にしの ひろあき

東京都の公立小学校を10年間勤めたのち、4月よりパラグアイの私立ニホンガッコウで学長補佐と教育コンサルタントを兼任中。
初任時代の初めての授業で挫折し、教師修行を始める(教育新聞電信版で連載。初回の記事はこちら)。
日本各地の教育イベント、セミナー、サークルに参加。自分自身でも若手教師向けのサークルやセミナーを主宰した。毎月5万円以上は読書やセミナー参加費に費やし、自己研鑽に励んだ。その集大成として2冊の単著『子どもがパッと集中する授業のワザ74』『子どもがサッと動く統率のワザ68』を上梓。
2017年よりJICA青年海外協力隊員としてパラグアイへ派遣され、2年間、現地の教育力向上に努める。2019年3月に公立小学校を退職し、現職。

(構成:木村)

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