子どもの心をグッとつかむ言葉のワザ
学校生活でも授業でも、教師と「話すこと」は切っても切れない関係。話術、言葉の選び方、コミュニケーション力、コーチング等、教師に必要な言葉のワザを伝授します。
子どもの心をグッとつかむ言葉のワザ(2)
「スケーリングクエスチョン」で振り返り力を高める
パラグアイ ニホンガッコウ大学学長補佐西野 宏明
2019/7/10 掲載

事例1学期目標の振り返りで使えるスケーリングクエスチョン

 若手教師のころ、学期初めに「今学期の目標」を書かせました。
 しかし振り返りをすることなく書きっぱなしにさせてしまい、ただの掲示物にしてしまった経験があります。
 「それではいけない!」と思い、学級目標を子どもの成長に生かすための方法を勉強しました。その方法の1つがスケーリングクエスチョンです。

 学期中に3、4回(月に1回程度)、スケーリングクエスチョンによる振り返りをするようにしました。
 先生「学期初めに書いた目標に対して、今の自分は10点満点で何点でしょうか? 0点が全くできていない。10点が完全に達成できている。だとしたら今は何点でしょうか?」
 子どもたちの机の上には、教室後ろに貼ってあった「今学期の目標」が置いてあります。そこへズバリ何点か書き込みます。日付も一緒に書きます。

 さらに質問します。
 先生「来月の振り返りまでに、あと何点高めたいですか? その点数になったらワクワクしますか? ワクワクする点数の方がいいです。無理に10にする必要はありません。あまりに高すぎてもきつくなってくるし、あまりに低くても達成感がないでしょう。目標はそれを達成することが目的ではなく、目標を達成しようと努力することを通して自分を成長させることが目的です。他の人のことは関係ありませんから、自分でワクワクする点数を設定してみましょう」
 先生「では、今の点数と目標にしたい点数の差を埋めるには何をしたらいいでしょう? たとえば、今4点で、目指す点数が7点だとします。3点の差があるわけです。3点上げるには、どんな努力や工夫をしたらいいでしょうか? 何をすれば、何を続ければ、来月までに3点上がるのかを考えてみるわけです。具体的に努力する内容を書くのです」

挿絵

 先生「回数とか、時間とか、数字を入れてもよいかもしれません。決意の一言をスパッと書きましょう。先生はいつでも相談になりますので、15分くらいで書けたらもってきてください」

 子どもたちは目標の用紙(あるいは貼り付ける用の小さな紙)に次のように書きます。
 「あと〇点高めるために、〜〜〜〜します!」
 書き終えた子から先生に見せて、学級の後ろに貼り直します。
 先生も一緒になってやってみると子どもの気持ちがわかるのでおすすめです。
 2、3日に1回は読み返し、意識させるように確認します。
 先生「決意したことを続けている人? いいですねぇ。先生もがんばるからみんなもがんばろうね〜!」
 たったこれだけのことですが、振り返りと確認を継続していくことにより、子どもたちは少しずつ自発的に努力し続けるようになります。

事例2運動会の南中ソーランの表現を高めるスケーリングクエスチョン

 子どもたちの中に、理想的な南中ソーランのイメージが入ってから行うことが成功の秘訣です。したがって練習の後半から行います。
 
 子どもたちの表現をビデオに撮ります。
 列ごとでも、グループでも、個人でも構いません。
 撮影後、映像を見せながら質問します。
 先生「10点満点で自己評価してごらん。もう完璧で、直すところがなく、今日運動会当日でもいい! 満足! というレベルなら10点。練習初日が0点です。今の到達点はどのくらいかな?」
 子どもたち「6点くらいかな。7点くらいかな」
 先生「おぉ、素晴らしいですね。なるほど。では、何ができているから6点か7点くらいとることができているのかな?」
 子どもたち「足を広く構えて腰がしっかり落ちているでしょう。あと、指先がしっかり伸びている。全力で声が出ている。ろこぎのところで後ろをしっかりと向くことができている。決めのポーズで手をクロスしてからパッと開いている…」
 先生「いいですねぇ。さすがですねぇ。意識できているから上手なんだね。では、あと3、4点高めるには、どこに気を付ければいい? 改善点をあげるとすれば何ですか?」
 子どもたち「視線が何かいまいちかも」
 問い返します。
 先生「ほう、視線ね。視線をどうすればいいの?」
 子どもたち「網を投げる方向に視線を届ける。指先の方向にちゃんと視線をおく」

 ここで先生は画用紙かホワイトボードに大きくマジックで「視線をおく」とメモします。あとで踊っている最中に示すためです。慣れてくると子どもたちが自分たちで書くようになります。
 先生「あとは?」
 子どもたち「ハイハイハイのところで、手だけの動きになっている」
 先生「なるほど。手だけなんだね。つまり、どういうこと?」
 子どもたち「ひざを曲げて、手が開く方に上半身を動かす」
 先生「いいですねぇ。メモにはなんて書きますか?」
 子どもたち「『ハイハイハイ、体も!』でいい」
 先生「わかりました。これでいいですね」

 自己評価したあと、すぐに踊ると反省点が改善されます。改善点をメモした画用紙は踊っている最中、先生が示すか見えるところに置きます。
 このサイクルを2、3回繰り返すと動きが飛躍的に向上します。
 また、改善点を言うだけでなく、ときに振り返りの内容を書くとより効果的です。私は帰りの会や隙間時間に書かせていました。

解説

スケーリングクエスチョンとは?

 心理学、特にカウンセリングやコーチングで使われる手法の1つです。
 理想に照らして、今自分がどこまで到達しているのか、現状を点数で表します。
 点数化するわけは、感覚を数値化することにより、成果や原因を具体的に表すことができるようになるからです。
 「なんとなく〜」という状態から「〜だから〜」と理由を説明できるようになります。具体的に説明できると、改善策、解決策が見えきます。
 スケーリングクエスチョンは、授業における技能・表現系の学習ではほとんどの場面で活用できます。
 事例で示した学級目標の振り返り、運動会の民舞以外に、朗読、歌、プレゼン、マット運動、毛筆書写などにおいてもおすすめします。
 毛筆書写の事例については拙著『子どもがパッと集中する授業のワザ74』に詳しく記しました。

他者からの「ああした方がいい」「こうした方がいい」は入っていかないときがある

 人は自分のことは自分で決めたいという欲求があります。
 人から一方的に指示されても、なかなか腑に落ちないことがありませんか。
 人(先生、親、指導者など)はよかれと思って指摘したり、教えたりするのですが、相手に変化が起こらないということが少なくありません。
 脳にはオートクラインという働きがあり、自分の頭で考えたり、人と会話したりアウトプットすることをとおして、自分の得たい情報を中心に受け取るという特性があります。
 スケーリングクエスチョンは、子どもの「知りたい」「吸収したい」「高まりたい」という思いを大切にしながら、子ども自身が考えたり、説明したりするアウトプットを保障できるところがおすすめポイントです。

目標(理想像、完成のイメージ)を明確にもたせる必要がある

 今の自分の点数が何点かどうかはかるためには、基準となるものさしが不可欠です。
 そのものさしが目標です。
 目標とは具体的なイメージのことです。
 たとえば側転なら、手と足の着く位置や向き、腰と足の上がり具合、顔や視線の方向などにおいて、10点満点がどのような動きであるかをしっかりともたせておく必要があるということです。

子どもたちが改善点に気づいていない場合は

 子どもに自己評価させると、先生は改善点に気づいているのですが、子どもは自覚していない場合があります。
 子どもの自己評価の説明の際に、先生としては聞きたかった改善点が出てこない場面です。
 そんなときは、説明を聞き終えてから質問します。
 「すばらしいですね、2つの改善点が出ましたね。まずは今言った2点を練習してみますか? あるいは先生からの意見も聞いてみますか? どちらでも問題ないですよ」
 先述したように、子どもが「知りたい」というメッセージを発していないときに、指摘しても入らないことがあります。
 「聞きたいです! 教えて!」ときたときに、スパッと短く説明すればスッと入っていきます。

ここがポイント!

  • 目標(理想像、完成イメージ)をもたせてから実践する!
  • 「指摘する」よりも「引き出す」を意識して!
  • 子どもに自分で考えさせるには気づきを促す発問を!今月の「言葉のワザ」

西野 宏明にしの ひろあき

東京都の公立小学校を10年間勤めたのち、4月よりパラグアイの私立ニホンガッコウで学長補佐と教育コンサルタントを兼任中。
初任時代の初めての授業で挫折し、教師修行を始める(教育新聞電信版で連載。初回の記事はこちら)。
日本各地の教育イベント、セミナー、サークルに参加。自分自身でも若手教師向けのサークルやセミナーを主宰した。毎月5万円以上は読書やセミナー参加費に費やし、自己研鑽に励んだ。その集大成として2冊の単著『子どもがパッと集中する授業のワザ74』『子どもがサッと動く統率のワザ68』を上梓。
2017年よりJICA青年海外協力隊員としてパラグアイへ派遣され、2年間、現地の教育力向上に努める。2019年3月に公立小学校を退職し、現職。

(構成:木村)

コメントの受付は終了しました。