子どもの心をグッとつかむ言葉のワザ
学校生活でも授業でも、教師と「話すこと」は切っても切れない関係。話術、言葉の選び方、コミュニケーション力、コーチング等、教師に必要な言葉のワザを伝授します。
子どもの心をグッとつかむ言葉のワザ(1)
「言葉」+「体験の共有」でやんちゃ君の心に届く
パラグアイ ニホンガッコウ大学学長補佐西野 宏明
2019/6/10 掲載

事例やんちゃなAくんを変える?

 「死ね!」「ウザ!」「キモイんだよ!」と言ったり、友達を叩いたりしてしまうことのあるAくん。
 それに対して、私は「やめなさい!」「謝りなさい!」「友達の気持ちを考えなさい!」「どうして友達を殴るんだ!」と叱責を繰り返していました。
 私のやっていることは間違っていません。「正しい」ことを言っています。一般的な指導といえるでしょう。
 しかし、いつまでたってもAくんは変わりませんでした。

 自分が変わる必要に迫られました。
 そこで視点を変えてみました。

 Aくんをよく観察することにしました。
 すると、Aくんは学校にいる間中ずっと興奮していたり、乱暴したりしているわけではないことに気付いたのです。
 「どうせAくんは乱暴をする子」という色眼鏡をはずして、友達と協力できているAくん、友達に優しくしているAくんという私の中に存在しなかった「例外」を探し始めたのです。
 すると、見えてきます。Aくんの意外な一面がどんどん見えてきます。友達と協力できているAくんの姿、乱暴せず楽しくコミュニケーションとれている新たなAくんと出会うようになったのです。

挿絵

 ある日の昼休み。
 Aくんが楽しく友達と遊ぶことができました。
 教室へと戻る途中に声を掛けます。温かく、明るく、サクッと言います。

私「文句を言わずに、『やろうぜ!』って言ったじゃん!」
 「乱暴しないで、優しくしてあげられたね。先生、ほんと感動したわ」
Aくん(笑顔でうなずく。)
私「今どんな気分?」
Aくん「楽しい」
私「あ、本当? そうだよなぁ! 楽しかったもんね! また明日も遊ぼうな、A」

 この流れでスッと入りました。

解説

相手を変えるには、まずは自分を疑い変えてみる

 私はAくんを変えようと努力していました。かなりがんばっていました。
 しかしAくんは変わりませんでした。むしろ悪化していったのです。
 だから私は余計に「俺がこれだけ努力しているのに、どうしてお前は悪いことばかり繰り返すんだ!」と思い、気持ちにゆとりがなくなり、どんどん叱責を増やしていきました。
 現状がうまくいっていないということは、今までの指導法、アプローチがその子とその状況には適していないということに気付くことが大事です。
 だから「Aくんを変えられない自分はだめな先生だ」と思い凹んだり、「Aくんはいつまでたっても変わらない」と相手のせいにしたりするのではなく、「このやり方でいいのかな?」「自分のものの見方は本当に合っているのかな?」と自分のこれまでの手法を疑ってみることが大事です。
 そこから新たな手法を考えたり、勉強したりすることで現状が打開されます。
 もう一度、事例を読んでください。
 私が変えたことは何ですか?
 Aくんへの見方です。
 見方を変えることによって、叱ることを極力減らし観察に徹するようにしたのです。そして観察しながら一緒に楽しいことを体験していったのです。Aくんと対峙していたポジションが、Aくんに常に寄り添うポジションへと変わっていったのです。
 これまではAくんのマイナス面ばかり見ていましたが、私がポジションを変えたことにより、Aくんのプラス面に目が向くようになりました。

「言葉」だけでなく、「体験の共有と言葉のセット」で初めて言葉は力を生む

 Aくんの事例では、楽しさを共有してその後にそっと一言ほめています。
 つまり、言葉だけ → 体験の共有 + 言葉にしたわけです。
 言葉でいくら正しいことを伝えても、人は変わりません。
 「そんなの、わかってるよ! わかってるけど、できないから困っているだよ! こいつはうるさいだけで、何もわかってくれない」という思いを抱くだけです。
 そこで私が心掛けたことは、Aくんを観察しながら一緒に楽しいことを体験することです。だからこそ彼にスッと言葉が入ったのだと思います。

「例外」に注目し、強化する

 自分のこれまでのAくんへのアプローチ(ものの見方や関わり方)を変えました。

・これまでのAくん像「乱暴なAくん」 

・変化後のAくん像「案外、乱暴ではなく友達とうまく関われることもあるAくん」

 このように見方を変えることで、同じAくんにもかかわらず、私にとってはこれまでとは違うAくんが現れたのです。
 これまで絶対化されていた部分(どうせAくんは乱暴というイメージ)を相対化(本当のAくんはどうなんだろう?)して、実は優しいAくん、協調性のあるAくんという「例外」に意識が向くようになったのです。

 そして、そんな「例外」を「例外」のままに終わらせず、「当たり前で日常的」な姿にするための手立てが、遊んだ後に一言ほめるという行動でした。
 ほめるという行為を通して、「例外」を強化したわけです。
Aくんの中で「例外」の言動が心地よくなると「例外」の言動が習慣化してきます。優しい言動、協調性のある言動が身に付いていくのです。

低学年にはメタファーがオススメ

 低学年の場合には特にメタファー(隠喩)を使うとスッと入りやすくなります。
 例えば今回の事例の場合、次のようなやりとりが考えられます。
 「心のポケットが広がってきたねぇ。Aくんはどんどん心のポケットが大きくなってきているよ。友達に優しくしたり、嫌なことがあってもがまんできるようになってる。これをカッコイイ言葉でいうと、“協力”って言うんだ。」 
 「心のポケット」は、私が学生ボランティア時代に指導していただいた楠正明先生がよく使っていた言葉です。
 子どもにとってイメージしやすい言葉は「大人言語」よりも理解がしやすいのでお勧めです。

保護者への連絡で担任への信頼度もアップ

 Aくんとのやりとり、Aくんへの思い、教師の意図を保護者に伝えることで効果が倍増します。保護者にはAくんをほめるように伝えます。
 Aくんはほめられて自尊感情が高まります。同時に、担任への信頼も高まります。

ここがポイント!

  • 相手を変えるには、まず自分を変える!
  • 「言葉+体験の共有」をセットにする! 今月の「言葉のワザ」
  • その子の「例外」に注目する!
  • 保護者に丸ごと伝える!

西野 宏明にしの ひろあき

東京都の公立小学校を10年間勤めたのち、4月よりパラグアイの私立ニホンガッコウで学長補佐と教育コンサルタントを兼任中。
初任時代の初めての授業で挫折し、教師修行を始める(教育新聞電信版で連載。初回の記事はこちら)。
日本各地の教育イベント、セミナー、サークルに参加。自分自身でも若手教師向けのサークルやセミナーを主宰した。毎月5万円以上は読書やセミナー参加費に費やし、自己研鑽に励んだ。その集大成として2冊の単著『子どもがパッと集中する授業のワザ74』『子どもがサッと動く統率のワザ68』を上梓。
2017年よりJICA青年海外協力隊員としてパラグアイへ派遣され、2年間、現地の教育力向上に努める。2019年3月に公立小学校を退職し、現職。

(構成:木村)

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