いつものクラスでソーシャルスキルトレーニング
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いつものクラスでSST 第5回
支援の鍵はリフレーミング
星槎大学准教授阿部 利彦ほか
2014/10/20 掲載
  • いつものクラスでSST
  • 特別支援教育

あったかいクラスを目指しながらも、クラスの中はいつもざわついています。「聞こえね〜」「またあいつ間違ってるし〜」というチクッと言葉や、そんな言葉におびえて「恥ずかしいから手は挙げない」という雰囲気が漂います。それに、完璧でなければ自分を許せない子どもや、本当は授業がわからないのに「できません、わかりません」と言い出せない子どももいて、クラスの中は、ピンチといつも隣り合わせです。そんな時には、どんな支援が必要なのでしょう? その鍵となる『リフレーミング』、それはどういうものなんですか? 阿部先生。

前回は、友達や先生のミスに敏感に反応する子がクラスにいる、という話をしましたね。「聞こえねえし」とか「また間違ってる〜」とか。こういう子がいると、学びにつまずきがある子が発言しにくい雰囲気になって大変じゃありませんか?

ピンチはチャンスだと思うのです。「聞こえねえし」の言葉が出たときがチャンスなんですよ。

おっ、「ピンチはチャンス」って、素敵ですね。

「聞こえないって、言えるのは素敵だね」と、まずは「聞こえない」と言った子をほめるんです。「学びは全て聞くことからだね。聞こえないと自分が学べないから自分を大事にできない。それに友達の意見が聞こえないと友達の考えがわからないから、友達も大事にできない。Aさんが「聞こえない」って反応するのは、自分を大事にし、友達を大事にするってことだよ。本当にすごい」と、全員でAさんに拍手をさせます。

その子をほめる、って発想は私にはなかったなぁ。

Aさんをほめるのは、もしかしたら違うかも知れません。だって、ひょっとしていじわるで言っているかもしれないからです。でも、それを承知で、その行動をこちらが価値づけて子どもに返してあげるのです。

そういう価値づけをするんですか? なるほど。

でもその上で「Aさんが言った言葉だけど、先生は『聞こえないので、もう一度言ってください。』とか『ここまではわかったのだけど、ここから教えてください』と言った方がいいと思うよ。そのほうが、Aさんの言いたいことが伝わるからね。」と、よい「ふわっと」言葉もクラスの言葉としてセットにして教えます。

見方を変える、言葉をより良く変える、これはリフレーミングの発想ですね。それに一つの価値観で子どもを見るのでなく、同じ子どもの行動でも、その見方を変えれば子どもの捉え方が変わるのですよね。

リフレーミングっていうのですか。確かにリフレーミングで見方を変えると、クラスの子どもがZちゃんを見る目も変わっていきそうです。「あいつうるさいな」と思っていたのに、先生が「Zちゃんは、いつもクラスを明るくする天才だ」と言っていたら、そんな風になっていくことは多いかもしれません。

この前、ある校長先生にお会いしたら、いつも全校朝会で校長先生のお話に大声でつっこみをいれてくる子がいる、ってお話をされました。

全校生がいる中でつっこみを入れてくるというのは、場の雰囲気を読みとりにくいお子さんですね。そんな感じでは校長先生もお話ししにくいのではありませんか?

その校長先生はね、「つっこみを入れることができるのは、その子が私の話をよく聞いてくれているということです」と。もちろん注意をする時もあるけれど、そういう視点でその子をとらえてくださっているところが素敵だと思いました。

すばらしい校長先生ですね。なかなか言えることではないです。校長先生がそんな風だと、校長先生を見ている私たち教師も、子どもへのあったかい目線を学べそうです。

ぼくは、職員室も「ふわっと言葉」であふれるといいなあ、と思っています。そういう職員室から支援の心は広がって行くんじゃないですかね。

確かに…そうですね、阿部先生。
昔、同僚で「ドンマイ」って言ってくださる方がいたのです。それは大人でも心地よかった。その方の「ドンマイ」を聞いているうちに、自分の語彙の中に自然に「ドンマイ」が入ってきて、「ドンマイ」ってカジュアルに自分が言えるようになったんですね。その「ドンマイ」のおかげで、人間関係がやわらかなものになっていきました。やっぱり「ふわっと言葉」って、私たち教師が常に使っていくことで子どもの語彙となっていき、やがてクラスを心地よいものにしていくと思うんです。

あと「学校は間違えるところだ」という言葉があるでしょ。間違えることは大事なことだし、そこから学びが深まるはずです。
私と尾ア先生は授業のユニバーサルデザインについても勉強中なわけですが、「わからない、できない」と言いやすいクラスにすることが重要だ、ということについてはどうお考えですか?

「わからない、できない」ということを言えないと、ますます勉強がわからなくなるし、困ります。でも特に高学年になると、みんなの前で恥をかきたくなくなります。だから、「わかりません」と言いにくくなるのだと思います。

「わかりません」って言うことは、本当に勇気がいることですね。

学年始めに、指名された時にまだ迷っていたら「考え中です」と言うことや、自分にもし考えがなくても「○さんの考えの、▲がいいと思いました」という言い方をすればよいことを、教えるようにしています。同意すること、感想を言うこと、ちょっと待ってと言うことも、立派な発表なのだと教えておくことは、欠かせないと思います。
第5回イラスト

まさに、クラスの授業でソーシャルスキルトレーニングをされているんですね。

単に言い方を教えるだけではなく、自分を大切にするために「わかりませんと言えるのは素敵だ」という価値観を教師が語らないといけないと思います。そして、「わからないので教えてください」と言えたら、その姿をほめる、しかないですよね。なかなか難しいのですけど…。何度も何度も私は語っています。

おっしゃる通りですね、そのことに加えて、私は「誤答を価値づける」ことも大切だと考えています。その視点から、他に工夫されていることはありますか?

子どもが誤答を言った時って、クラスにピリッとした空気が走ると思うんですよ。「また間違ってる〜」と言ってしまう子どももいるかもしれませんし。だから間違いが出た時に「ここはちょっと難しいところだったね。でも、あなたの意見のおかげで、みんなで深く考えることができたよ。すごいことだね」と、誤答をした子どもに感謝するよう気をつけています。

「誤答をした子どもに感謝する」って大切な関わり方ですよね。そしてクラス皆で問題解決を共有する。これぞ「共有化」ですね。

それと、「また間違ってる〜」に対しては、指摘したBちゃんがちゃんと課題に取り組んでいるから言える言葉だし、間違いを無視して何も言わないよりもずっと素敵なことですから、「友達の意見を大事にして聞いていたこと、友達のために教えてあげたこと」はほめてあげたいです。でもさらに相手を大切にするために、もっとよい言い方を教えるようにしたいなと思います。

またもやリフレーミングですね。言い方のリフレーミングをしてあげるわけだ。

「『私はこう思うので、どうしてそう思ったかもう少し教えてください』というと、よく伝わるよ」というような言い方をします。

また他には、他者の間違いではなく、自分の間違いを許せない子もいますよね。そういう子にはどのように関わっていらっしゃいますか?

たしかに自分の「こだわり」に厳しいタイプのお子さんもいます。その子たちもしんどいですね。100点じゃないと納得できない子もクラスの中にいるのです。だから「課題に参加している」過程そのものに私たちが注目し励ましていくクラスになりたいですね。「昨日はできなかったのに、今日は手を一番に挙げたね」と教師が一番に気付きたい。それと、一番の間違いは、間違いをそのままにしておくことだと思うのです。

誰かが間違えた時、そこをスルーせず取り扱っていく勇気ですね。

だから「声が小さいのでもう一度言いなさい」と教師に言われてやり直した子や、課題に取り組んだけれども間違えた子に、「間違いを直したこと」「素直にできたこと」を教師が認めていきたい。そうすると、今度は子どもたちがそこに気付いて拍手してくれるようになるんじゃないでしょうか。

結果でなく、取り組む姿勢やその過程、間違いを正したことを認めてあげる。そのためには、私たち周囲の大人に集中力や根気が必要ですよね。

ある女の子がこんなことを言ってくれました。「先生、Cちゃんはこの間先生と一緒に名前を書いていたのに、今日はがんばって一人で書いてたよ。それに見て!終わった後に友達の片付けもしてあげてるねん。すごいと思わへん?」 友達の育ちを見つけることができる彼女こそ、花マルです。そんな花マルを、大人がいっぱいキャッチしていきたいです。

友だちの「いいところ」探し。まさに私の大事にしている「いいところ」応援計画ですね。

阿部 利彦あべ としひこ

星槎大学准教授。
授業のユニバーサルデザイン研究会湘南支部顧問。発達障害のある子の魅力やサポート法についての講演・教員研修で全国各地を飛び回り、その取り組みはマスメディアでもたびたび取り上げられる。「見方を変えればうまくいく!特別支援教育リフレーミング」(中央法規)など著書多数。特別支援教育士SV。

尾ア 朱おさき あや

通常学級で、特別支援教育を進めたいと考えている宝塚市の教員。クラスで学ぶSSTパッケージ(すみれトランク)の開発と実践がある。関西UDに属している。宝塚市巡回相談員。特別支援教育士。

(構成:佐藤)
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