教育オピニオン
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探究活動の初期段階における生成AI活用の可能性
東京学芸大学附属高等学校木部 慎也
2026/5/1 掲載

本校の探究活動と課題感


 本校では探究活動に関わる授業を、1年生で「SSH探究基礎」という科目名で1単位、2年生で「SSH探究」という科目名で2単位履修します。内容は大雑把に言うと、1年生のうちに探究活動の基礎知識を学んだり先輩の発表を見学したりして、2年生から各自のテーマで探究活動を実践していく、といったカリキュラムです。
 1年生の後半から各自のテーマを考え始めるわけですが、ここが非常に難しいステップであると感じています。大人の研究においてもそうなわけですから、高校生がテーマ設定に難儀するのは当然なのでしょう。

 本校においても、例年この段階で、具体的な仮説が見えてこない抽象的なテーマや、すでに多くの人が興味を持ち、膨大な先行研究を踏まえなければ探究を始められないようなテーマが乱立していました。
 こういった状況への指導のあり方を毎年のように調整し、模索してきましたが、劇的な改善とは言えない状況がありました。2年生で本格的な活動に入る時点で、調査や検証の現実的な計画が設定できていることが本校の長年の目標であったと思います。

1年生の1学期に生成AI活用講座


 そのような状況を振り返ると、生徒への指導は多種多様ながら、検証の見通しが立つ具体的な仮説はどのようなものかその検証活動は普通科の高校2年生が1年弱で実施できるものなのか、といったことを生徒に問い直し、一緒に考えていくことが多くのテーマに対して共通する指導であることが見えてきました。
 そして、そういったいわゆる「壁打ち」は近年急成長している生成AIの得意分野であると考え、1年生の前半のうちに、SSH探究基礎の授業の中で生成AIを探究活動に活用する意識と技能を身に付けてもらえるような講座を実施しました。

 授業の大まかな展開は以下の通りです。

  1. 「Gemini」の基礎情報を確認する。
  2. 試しにGeminiに「AIと社会保障」or「AIと農業」というテーマについて、リサーチクエスチョンと探究計画を3つ提案してもらう。
  3. あらかじめ「自動運転」というテーマについて提案してもらったリサーチクエスチョンと探究計画について、自分がその提案に沿って探究活動をすることを想像して、不安な点、わからない点、改善した方が良い点を共有する。
  4. プロンプトの改善が必要であることと、先行研究の分析が必要であることを確認する。
  5. 2.の提案がより良くなるようGeminiとやりとりをする。
  6. Geminiとのやりとりを振り返り、やりとりの意図や手応えをGoogle Formsで提出する。

 6.で提出するGoogle Formsにはルーブリックを提示し、評価材料としました。最高評価の文言は「生成AIとのやりとりを振り返り、効果的な意図や工夫が具体的に記述できている」と設定しました。

 実際に提出された回答を1つ紹介します。

 「初めは論文やデータの分析をメインとした研究を提案してきたが、高校生が行うには難易度が高いと感じたため、『東京に住む高校生が研究をする』という前提で考えてもらったことで一気に取りかかりやすい研究になった。
 しかしAIは学生であるという点を重視しすぎてデータの活用という要素がなくなってしまったため、その後定量的な要素も入れてほしいと伝えると、高校生にもできる、かつ簡単すぎず手応えのある探究を提案してくれた」

 この回答は、AIの回答に対して、自分がどのような意図を持って、どのような指示を出したのかが具体的に書かれています。さらに別の視点からもやりとりを行っており、ルーブリックの「効果的な意図や工夫」に該当すると判断しました。

1年生3学期時点の探究テーマに見えた変化


 1年生3学期時点のリサーチクエスチョンや仮説をもとに、今後の探究の進め方について面談をしていただいた先生から、「まだまだ表現には心配があるが、具体的にどう考えているのか直接聞いてみると、きちんと行間を考えている部分や、先行研究をもとにしている部分などが見えてきた。例年よりも自分のテーマについて深く向き合えている印象がある」との感想もいただきました。
 生成AI活用講座を実施した者としては、自分のテーマについての「壁打ち」をする中で、一般的に指摘されるような課題はすでに話題に上がっており、それらを自分たちなりに解消したうえで相談に持ってこられているチームが増えたのかな、と楽観的に解釈してしまいました。
 願わくば、そういった初歩的な修正は生成AIを活用してもらい、教員との面談はより本質的で深い探究活動につながっていく議論の時間にしてもらえれば、と考えています。

木部 慎也きべ しんや

群馬県生まれ。東京学芸大学中等教育教員養成課程数学専攻を卒業。群馬県立の高校を経て、令和2年度から東京学芸大学附属高等学校で勤務。
東京学芸大学「探究プロジェクト」に参加し、数学科授業研究ワークショップなどで活動中。
分担執筆『高等学校 数学科 探究ベースの数学授業づくり−生徒に残る学びの実現を目指して−』(東洋館出版社、2025)

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