子どもたちの未来を阻む壁の正体
様々なドラマと感動の舞台となる学級。進級・進学する子どもたちの多くは期待に胸をふくらませて新しいステージへと向かいます。一方で、4月に不安を感じる子どもも少なくありません。令和2年度の文科省調査では、不登校児童生徒の「学校を休んでいる間の気持ち(複数回答)」として「進路・進学に対する不安があった(小学生47%、中学生69%)」と示されています(※1)。
では、子どもたちの進級・進学の不安の正体は何でしょうか。草野(2024)の分類(※2)を手がかりに、次の3つに整理しました。
- 学習(制度)に対するハードル(制度の課題)
- 環境の変化(社会的環境の課題)
- 身体変化や心理的な不安(内面的な課題)
ここでは進級・進学に共通する2つ目の「環境の変化」の1〜3と対応策について述べたいと思います。
学級・学校の文化や習慣の変化
担任が変わると、ルールや暗黙の了解、叱られる基準などの「行動の羅針盤」が変わることがあります。複数の学級から新たな学級がつくられる場合は、これまで当たり前だった文化や習慣が通用せず、仲間との調整が必要になります。
では、教師がすべて決めるのがよいのでしょうか。わたしはそうは思いません。3クラス編成の小3を担任したときは、大枠の当番活動(給食当番、清掃、日直)以外は子どもたちと対話しながら決めました。時間的余裕がなく、トップダウンにならざるを得ないときは、説明後に「このやり方で困ることはある?」と問い、近くの人と話す時間を入れましょう。出た意見は黒板などに可視化します。子どもからの意見を取り入れる“隙”をつくることが、「この先生はわたしたちの話をきいてくれる先生だ」という安心感と信頼の獲得につながります。
教科担任制による多くの先生との関わり
教科担任制の広がりにより、子どもたちは複数の先生と同時に関わることが求められるようになりました。先生ごとに授業の進め方や声かけの癖が異なるので、話したり聴いたりするのが苦手な子ほど負荷は大きくなります。
子どもたちが先生自身に興味をもてるように、各教科担当の先生に以下のようなお願いをするとよいでしょう。
例えば中2理科では、自己紹介の後に「ホットケーキをふくらますもとは何か?」を扱います。炭酸水素ナトリウムが入っているものと入っていないものの2種類のホットケーキを提示し、見た目の違いから仮説を立てる問題解決的な学習の流れを短時間で体験します。体験しながら評価規準も説明し、安心材料を増やします(1〜4は数時間かけて行います)。授業内に対話やグループバズを入れると、共通の話題で関係が深まります。
先生方に自己紹介カードをつくってもらい、教室に掲示しておくのもよいでしょう。多くの先生方から見守ってもらえる、先生の得意を生かした授業がつくれるという教科担任制のメリットが見えてくれば、先生との関わりを楽しむ子どもが増えてきます。
学級や部活などの新たな人間関係・上下関係
三宅(2025)は、令和はスクールカーストのような縦のヒエラルキーは弱まり、「陽キャ」「陰キャ」など横のつながりである「界隈」が増えていると述べています(※3)。それぞれの界隈で交流することはありません。前年度同じクラスでも互いのことを「知らない」ことも増えています。
進級・進学直後の子どもたちは、こちらが思っている以上に慎重です。「わかりやすく」「失敗が許容されて」「みんなで楽しめる」活動が、関係づくりの最初の一歩を支えます。
順番も大切です。じゃんけん系のゲームであれば、以下のような順に実施します。
- 後出しじゃんけん(教師対生徒)
- あいこじゃんけん(教師対生徒→隣同士で→ペアを変えて)
- 自己紹介
最初は教師対個人で一人ひとりの心の温度を上げ、次にペア活動に移ります。2.が新たな関係性をつくるターニングポイントです。「違うクラスだった子を優先しよう」「一人をつくらないよう周りを見てね」と一言添えて活動を始めます。動けない子にはそっと声をかけ、ペアができた瞬間にその場で褒める。全体にも「声をかけた人のおかげで全員ペアになった」と価値づけます。関係づくりを“個人の問題”ではなく“学級の課題”にするためです。
人は共通の話題があると仲が深まりやすくなります。「界隈」で分断されがちな子ども同士の関係を紡ぎ、つながりの糸を増やしましょう。
進級・進学の壁の正体は「自分の居場所があるかどうか」「先が見えない」ことへの不安です。子どもたちはできないことそのものよりも、失敗したときにどう見られるかを強く気にします。わたしたちにできる最大の支援は「安心して挑戦できる場」「自分を出せる場」を整えることです。
進級・進学は子どもたちにとって大切な節目です。不安をなくすことだけではなく、不安があっても進める環境を、子どもたちと共につくることが大切なのではないでしょうか。
(※1)令和2年度不登校児童生徒の実態調査 結果の概要(文部科学省、2020)
(※2)学校教育相談2024年3月号(ほんの森出版、2024)
(※3)考察する若者たち(三宅香歩、PHP新書、2025)




















