大阪の公立小学校教諭(23年目)の松下隼司と申します。
19歳から関西の小劇場を中心に演劇活動を10年間していました。そして、昨年末にまた劇団での活動を再開しました。
「先生」を続けるのがしんどかった時期と、乗り越えるきっかけ
これまで教師として働くなかで、子ども・保護者・同僚との関係で上手くいかず、心が折れそうになったことがありました。平日の朝、起きると心と体が重たくて、自宅から職場までタクシーで通勤したこともありました。自死を考えてしまったこともありました。教師になった23年前は、まだ“病休"という発想がなく「続けるか」「死ぬか」の選択肢しか思い浮かばなかったからです。
そんな教師人生の中の暗黒時代を乗り越えるきっかけになったのが、“先生を演じる”という発想でした。
授業が始まる前に「教室は舞台」と思って、「理想の教師」をイメージして子どもたちの前に立つようにしたのです。すると、休み時間に、喧嘩などのトラブル対応があっても、気持ちを切り替えて笑顔で子どもたちの前に立てるようになりました。
放課後に、長時間のしんどい保護者対応があったとしても、オンとオフを使い分けられるようになりました。
「演じる」働き方のテクニック
“楽しい授業をする教師モード”や“保護者対応モード”など、〇〇モードの気持ちの切り替えスイッチを押すためにしていることがあります。それは、
自分のおでこを、片方の手の指(人差し指と中指)でトントンと軽く2〜3回叩く
ことです。
これは、おでこを軽く叩く仕草からフォアヘッド・タッピングと呼ばれています。タフツ大学の心理学者スーザン・ロバートが編み出した方法です。ストレスが軽減したり、集中力が増したりするなど、気持ちの切り替えに効果があったという研究結果があります。
私が、この仕草で、気持ちを切り替えたり、集中力を高めたりするようになったきっかけは、漫画『ファブル』(作:南勝久/講談社)でした。主人公が、任務で関西人を演じるためにしたのがおでこトントンです。
別の漫画『アオアシ』(作:小林有吾/小学館)に登場するデミアン・カントというサッカー選手も、記者にインタビューを受ける際に、自分のこめかみを指で叩きます。その動作によって、一瞬で、取材モードに切り替えて正確に受け答えできるようになります。
「職を演じる」ことが求められる労働環境
仕事が上手くいかず自死まで考えていた私が、今では、あと何年、教師の仕事を続けられるんだろう…と、前向きに考えられるようになりました。そのきっけが、“教師の職を演じる”というマインドチェンジでした。
日本の学校教師の労働環境はとても過酷です。
教師に向いていると思える人でも、教師を続けるのが困難な状況になっています。
毎日が、「心頭滅却すれば火もまた涼し」「アヒルの水かき」「顔で笑って心で泣いて」の状態です。
まさに“職を演じる”という発想と手立てが求められています。
20年以上の教師経験と、10年以上の演劇経験を元に「演じる働き方の工夫」を「先生を続けるための『演じる』仕事術」という本にまとめました。
仕事には楽しいこともあれば、しんどいこともあります。それは、教師の職業だけでなく、他の職業もあります。「演じる仕事術」というテーマの本書が、読んでくださった方の仕事のしんどさを“楽”にし、仕事の“楽しさ”に気づくきっかけになったら嬉しいです。
■参考文献
「先生を続けるための『演じる』仕事術」(かもがわ出版、2025/7)
