教育オピニオン
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どうする? 「ほめる」「叱る」の上手な使い方
スクールカウンセラー/「教と育」研究所代表内藤 睦夫
2024/10/1 掲載

「ほめて育てる」「叱って育てる」をやめましょう


 「ほめること」も「叱ること」も、子どもの成長に欠かせない大切なことです。
 だから、「子どもは、ほめて、ほめて育てましょう」とか、「最近の子どもはほめられてばかりで、弱くなっているから、叱ることを大事にしましょう」とか、「ほめると叱るのバランスが大事です」など、「ほめる」「叱る」について様々な提案がされています。
 どの考え方も頷けるため、実際の場面でどうして良いのか迷ってしまう先生もいるのではないでしょうか。「命に関わる行動、人を傷つける行動を取ったときにはきちんと叱りましょう」というのはわかりやすいのですが、日常の何気ない場面で、これはほめるとき? 叱るとき? と判断に困るときはあるのではないでしょうか。
 また、「その子の良いところを見つけて、ほめて関わるけれども、あまり効果がない」とか、「ほめて関わると、甘い先生と見られるようで、最近指示が通らなくなっている」のような悩みを持っている先生もいると思います。
 こうした悩みの根っこに、「ほめて育てる」にも「叱って育てる」にも、「『ほめる・叱る』という方法をつかって、大人が望む姿に子どもをコントロールしよう」という発想があるからだと考えています。
 もともと「ほめる」も「叱る」も、もっと純粋なものだったのではないでしょうか。ただ、その子のことが好きで嬉しくて、ほめて関わったら、自然に自由に、その子はその子の良さを伸ばして成長したというのが、「ほめて育った」ということだと思います。
 その子のことが好きで大切だから、いけないことはいけないと真剣に分かるように伝えたら、その子は社会のルールや人間関係の作り方を学んで成長したというのが、「叱って育った」ということだったのだと思います。

承認しましょう


 「子どもをコントロールするという企みを持たないでほめること」を「承認する」とします。承認は、

  1. 子どもの存在自体
  2. 子どもが取り組んだ過程
  3. 子どもが作り出した成果

について、ただ受け止めて認めることです。企みを持たないで、「出来事の事実」を言葉にすれば、それは承認になります。「出来事の事実」の後に「感情の事実」を付け足すこともできます。
 小学校4年生の3キロマラソン大会に出場したAさんへの例です。

「Aさん。途中立ち止まったあと、また走り始めたね。先生、嬉しかったよ」
「Aさん。3キロ、走りきったね。先生、感動したよ」

ただ、「出来事の事実」と「感情の事実」を言葉にして、きちんと伝えただけです。この承認は、Aさんの存在そのものも承認しています。それは、先生がAさんの姿をずっと見ていたという事実が伝わるからです。「私が走っていた姿を先生はずっと見てくれていた」という事実はAさんの自己肯定感を育むかもしれません。
 Aさんが、「来年は最後まで走りきろう」と思うかどうかは、Aさんが決めることですし、Aさんに任せることです。「ほめて育てよう」と企てると、「評価や目標」を言いたくなってしまいます。

「Aさん、途中立ち止まって、惜しかったね。最後まで走ったのは、立派だった。来年は止まらずに最後まで走りきるのが目標だね。応援しているよ」

 こう声をかけた先生に悪気はありませんし、「ほめて伸ばしたい」という思いを否定はできません。しかし、「惜しかった」「立派だった」と評価されて、来年の目標を示されて、Aさんが心から承認されたと思えるのかは疑問です。

「叱る」を対話につなげましょう


 よく言われていることですが、「叱ること」と、感情的に「怒ること」は別のことです。怒ってスッキリしているのは怒った人です。叱られた人が納得できるのが「叱る」のはずですが、コントロールが感じられる「叱る」は、受け取りにくいものです。「叱る」には否定的な意味合いがあるので、「承認する」よりも難しいことかもしれません。
 「叱る」の1つの方法として、「出来事の事実と扱い方」を伝えながら、「対話につなげる」方法があります。承認の時は、「感情の事実」を付け加えることもありとしましたが、叱りたいときにはマイナスの感情が湧いています。「イライラした」「頭にきた」「許せない」などの感情をそのまま伝えることは適切ではありません。その代わりに、決まり文句でよいので「何があったか聴かせてください」と伝えます。

「Aさん。あなたはBさんをたたきました。Bさんは泣いています。解決する問題として扱います。何があったのか聴かせてください」

 「何があったのか聴かせてください」は、対話につなげる言葉です。子どもが事情や思い(時には言い訳など)を話しながら、自分自身を振り返り、気づきが生まれる場を設定することです。聞く場所を設定したのですから、頭ごなしに否定したり説教をしたりはしません。まず傾聴し、質問と承認で関わります。これは、コーチングです。
 これは、甘い対応ではありません。子どもが自分自身を省察し、自分自身で課題解決をしていく過程に寄り添い支援するという真剣で温かな対応になります。
そして「叱る」を対話につなげることは、先生と子どもの信頼関係を築くことにつながります。

 著書『「指示」をやめれば、先生はうまくいく』にも、コントロールを手放した対応について書いています。読んでいただけたら、幸いです。

内藤 睦夫ないとう むつお

1958年長野県生まれ。信州大学教育学部卒業。長野県公立小中学校に38年間勤務し、現在は長野県スクールカウンセラーとして勤務。
(一社)日本教育メソッド研究機構(JEMRO)理事、「教と育」研究所代表、公認心理師、キャリアコンサルタント、NPO日本教育カウンセラー協会認定上級教育カウンセラー、(一社)日本スクールカウンセリング推進協議会認定ガイダンスカウンセラー&スーパーバイザー、(一社)日本教育メソッド研究機構認定教育コミュニケーションExecutive Grade-S、コーチングやアクティブラーニングに関わる講演会・研修会講師。

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