教育オピニオン
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社会科教師必見! 時事問題を取り入れた授業で子どもたちはこう変わる!
立命館大学非常勤講師河原 和之
2018/11/15 掲載
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1 教材誕生の瞬間

●へっ!なんで薬局が並んでいるの?
 2人の卒業生と、3か月に1回程度、小説の輪読会をやっている。その帰り、大阪上本町交差点での会話である。※『』は教師
 「薬局が二店も並んでるね」
 『1975年までは、距離規制があって200m以内には薬局は立地できなかったんだよ』
 「へっ! どうして?」
 「薬局は競争にはなじまないってことかな?」
 「ドンドン買ってくださいってのはイメージ悪いね」
 「だから、化粧品やお菓子などを販売しているんだ」
 『薬は競争にはふさわしくない商品だということと、バーゲン品のようにあえて販売する必要もないということから禁止されていたが、最高裁判所で距離規制が憲法違反になったんだ』
 「でも、2つも並んでるってことは、中国人客目当てかな?」
 「そういえば隣にビジネスホテルがあるから宿泊客目当てだね」
 「でも中国人は、なぜ日本の薬を買いに来るのだろうね」
 …こんな会話からこの教材が誕生した。

図

 街中(日常の世界)から、世の中のしくみ(科学の世界)へと誘う授業が大切だ。

2 授業の展開例

●なぜ中国人観光客は日本の薬を買うのか?
 なぜ、中国人観光客は日本に薬を求めてやってくるのか? その背景から中国社会の現状が垣間見える。
 「日本に行ったら買わなければならない12の神薬」があるとか…。アンメルツヨコヨコ、サロンパス、命の母、龍角散、熱さまシート、など子どもたちが知っている薬も多い。ヒントを与え、薬名を答えさせる。そして、「なぜ、日本の薬がもとめられるのか?」を考えさせる。
 以下が、生徒とのやり取りである。※『』は教師

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 『基本的には中国は社会主義国だね。それがヒント!』
 「社会主義って何だっけ」
 「会社や土地は国のもの」
 「ってことは病院は国立ってことだ」
 「病院は、あんまりないのでは」
 『中国は面積が広く、社会主義国なので、国や地域が作った病院が中心だ。個人病院もあるが、人口や面積に比較して少ない』
 「農村にはほとんど病院がないのでは?」
 「人口の多い都市部に集中していると思う」
 『そうだね。農村部は病院だけではなく、薬局もかなり少ない』
 「病院も愛想悪そう」
 『待ち時間が長い。まず受付で3〜4時間は待たないといけない。診察も待たないといけないので、一日かかると覚悟しないといけない。医者は、日本とは異なることがある。何だろう?』
 「各科にわかれていない」
 「女医さんがいない」
 「国家試験を受けなくていい」
 「それは危険」
 『実は医者により診察料が異なるんだ』
 「へっ! 若い医者とかは安いんだ」
 『ある人が診察を受けたときは8元だったが、高い医者だと200元というのもある』
 「都市と農村で、医療格差があるってことは、貧しい人はまともな医療を受けられないのでは?」
 『農村部では、病院の数も少なく、医療費は一旦は全額を払わなければならず、後日、保険分が戻るシステムだ。政府は病気をすれば、基本的に市販されている薬で治すよう指導している』
 「市販の薬もそう簡単に買えないし、信用度も低いかも」
 「だから、日本の薬を大量購入するってことか」
 「でも、これによって日本も潤っているから両方にお得感がある」
―――――――――――――――――――――――――――――――

3 子どもの変化

●中国の現実を知り、偏見から自由になる

 「知る」ことにより認識や偏見に変化が生まれる事例である。
 「なぜ中国人が日本の薬を求めるのか?」という疑問から、中国社会の体制や農村と都市部の格差、そして医療制度を理解することができた。また、「中国人がやってきて、日本の薬を大量に買い込み、現地で販売しているのでは?」「中国人がいっぱいいるから混雑して薬が買いにくい」などの“思い込み”や“偏見”が少しは揺さぶられる。
 こんな時事問題学習は、「意欲」「習得」そして「見方・考え方」を鍛え、「偏見」から自由になる「学び」である。

【参考文献】
・川端基夫『消費大陸アジア: 巨大市場を読みとく』(ちくま新書、2017年)

河原 和之かわはら かずゆき

東大阪市教員から教育センター指導主事を経て、立命館大学など9校で非常勤講師。ユニバーサルデザイン型授業を実践研究。 
<主著>
『主体的・対話的で深い学びを実現する! 100万人が受けたい社会科アクティブ授業モデル』
『続・100万人が受けたい「中学地理」ウソ・ホント?授業』
『続・100万人が受けたい「中学歴史」ウソ・ホント?授業』
『続・100万人が受けたい「中学公民」ウソ・ホント?授業』
(以上全て明治図書)

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