教育オピニオン
日本の教育界にあらゆる角度から斬り込む!様々な立場の執筆者による読み応えのある記事をお届けします。
教師が知っておきたいLGBTと子どもたちへの接し方
「やっぱ愛ダホ!idaho‐net.」呼びかけ人代表遠藤まめた
2017/6/1 掲載

1 LGBTを知っていますか?

 「思春期になると異性への関心が高まる」という文面のみが現行学習指導要領から引き続き記述された(朝日新聞デジタル 中学武道に銃剣道を追加 体育で「異性への関心」は残る(2017年3月31日))。学校現場に目を向けてみても、日頃から生徒を男子と女子の2群にわけて管理することが多く、「人間は生まれた時の性別にもとづき男と女の二種類に分類でき、さらに、異性どうしが惹かれ合うことが人間の性の全て」という思い込みが学校の中に根強く存在しているように感じる。
 しかし、実際には、人間の性のありようは個人差が大きく、このようなシンプルなモデルには当てはまらない。

 LGBTとは、レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダーという言葉のアルファベットの頭文字を並べた言葉だ。
 レズビアンやゲイは、それぞれ女性と男性の同性愛者。バイセクシュアルはどちらの性別にも惹かれる、あるいは惹かれる相手の性別は重要でないという両性愛者だ。性的指向、すなわちどの性別の人に恋愛や性的な魅力を感じるのかは、人によって異なり、どれが普通とか優れているとかいうことではない。また性的指向は本人の意思で変えることや選択することもほぼ不可能だ。同性に魅力を感じる人々は、おおむね人口の3-5%程度存在していると言われる。これは左利きの人とほぼ同じ割合で、30人-40人規模のクラスならひとりはいる割合だ。
 一方、LGBTの最後の一文字「T」はトランスジェンダーを表す。トランスジェンダーとは出生時の身体の性別とは異なる性別であると自認し、あるいは異なる性別で生きようとする人たちだ。典型的には、女性の身体で生まれて自分を男性と認識したり、その逆だったりする人々がいる。医学的には性同一性障害と呼ばれることもある。トランスジェンダーの人口比は諸説あるが、数百人から数千人にひとり程度というのが妥当だろう。

 ここではLGBTというネーミングを紹介しているが人の性のあり方はグラデーションで、一人ひとり異なる。LGBTとそうでない人の線引きが容易にできるものでもない。詳しく知りたい方は、こちらのセクシュアルマイノリティ/LGBT基礎知識編(SYNODOS 2013年3月6日)もご参照いただきたい。

2 LGBTにまつわる生徒の困りごと

 生徒の困りごとは、まずなによりも自分を肯定するに足る正確な情報が欠如していることだ。周囲と自分が異なることに気がついても、参考になるロールモデルは乏しい。家族やクラスの友人が自分のような人間を「気持ち悪い」「普通じゃない」「ホモ・オカマ」(いずれも蔑称である)などと呼んで笑っていることもある。調査によれば、18歳までに当事者の84%がLGBTに対するネガティブな発言を見聞きしている。しかし、かれらの大半は自分がそうだと思われるのを恐れて言い返すこともできない(いのちリスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン「LGBTの学校生活に関する実態調査(2013) 結果報告書」,2014)。
 このような環境で自己肯定感を育むことは難しい。しばしば他者へのカミングアウトよりも困難なのは自分自身へのカミングアウト(自己受容)だと言われるのは、そのためだ。

 さらに身体の性に基づき生徒を男子と女子に二分する学校の運営方法は、トランスジェンダーなど性別違和を抱える生徒にとっては、自分がいつも間違った性別で扱われ続けるような苦痛や屈辱感の原因となる。これは自殺未遂や不登校の経験率の高さにも繋がっている。文部科学省は平成27年4月に「性同一性障害に係る児童生徒に対するきめ細やかな対応の実施等について」という通知を出し、性別で分ける場面での柔軟な対応の例をあげた。もっとも重要なのは学生服や髪型についての柔軟な対応であろう。少しでも女性らしい髪型でおしゃれをしたい子どもが短く髪を切るよう言われたり、自分を男性だと思っているのにフルタイムで女装をしいられたりすることは、子どもたちが安心して学べる環境を明らかに損ねる。これまでの慣習にとらわれない取り組みが望まれる。

3 どこのクラスにもいると想定して、日頃からの言動を振り返ろう

 LGBTの児童生徒が大人にカミングアウトする割合は非常に低いことがわかっている(いのちリスペクト。ホワイトリボン・キャンペーン「LGBTの学校生活に関する実態調査(2013) 結果報告書」,2014)。生物学的女子で約3割、男子で約5割が18歳になるまでにだれにもカミングアウトしていない。言えたという場合でも、相手として選ばれる6-7割は同級生だ。教師にカミングアウトした当事者は全体の1割程度に過ぎない。よく「LGBTだと生徒にカミングアウトされたら対応を考える」という現場の話を見聞きするが、実際には大人が当事者からのカミングアウトを待っているのではLGBTの子どもたちのしんどさは解消されない。大人が知らなくても、生徒の間でカミングアウトしたりされたり、というのがどこの学校でも起きている。

 大切なのは、たとえ明示されていなくてもLGBTの人々がどこにでもいることや、教師はカミングアウトされにくい存在であることの自覚だ。その上で、だれも孤立させないために「LGBTの人たちは当たり前に存在しており幸せになれること」を教師が日頃から自分の言葉で伝えられることだ。保健室や廊下にポスターを貼ったり、トランスジェンダーの生徒にどのような対応が可能かをあらかじめ教員内で検討したりと、カミングアウトを待たずに動ける姿勢を持つことが肝心だ。教員自身がLGBT支援団体の勉強会などに参加したり、関連書籍を手に取ったりすると良いだろう。詳しくは拙著『先生と親のためのLGBTガイド もしもあなたがカミングアウトされたなら』(合同出版,2016)にもまとめてみたので興味のある方は手にとっていただきたい。

 知らない人権を守ることはできないが、知っていれば、できることはたくさんある。

遠藤 まめたえんどう まめた

1987年埼玉県生まれ。「やっぱ愛ダホ!idaho‐net.」呼びかけ人代表。トランスジェンダー当事者としての自らの体験をきっかけに、10代後半からLGBT(セクシュアル・マイノリティ)の子ども・若者支援にかかわる。教員研修や、子ども支援にかかわる相談機関などでの講演会など多数。毎年5月17日に「多様な性にYES!の日」全国キャンペーンをおこなう。著書に『先生と親のためのLGBTガイド もしもあなたがカミングアウトされたなら』(合同出版,2016),共著に『思春期サバイバル―10代の時って考えることが多くなる気がするわけ。』(はるか書房,2013)、『10代のモヤモヤに答えてみた。―思春期サバイバル〈2〉Q&A編』(はるか書房,2016)、『にじ色の本棚 ―LGBTブックガイド―』(三一書房 ,2016)がある。

コメントの一覧
2件あります。
    • 1
    • 名無しさん
    • 2017/6/5 19:10:38
    性の多様性というが、マイノリティは、マジョリティにはなれないし、なってはいけない。
    基本、自然の摂理には反する状態だから、それを性の多様性という言葉で、本来どうあるべきか、子供に対する根本理解を破壊することは許されない。『自然の法則として、男性の心と体を持つ男性と、女性の心と体を持つ女性が恋愛して、子供を産んで育てるのが本来の姿であるが、中には、少数だが女性の心を持った男性や男性の心を持った女性がいたり、男性が好きな男性や女性が好きな女性がいる。でもその人たちも、みんなと同じ人間だから、同じ暮らしをする権利があるし、人権が守られるべきものである。』と教えて欲しい。あくまでも本来の姿を踏まえた上で説明するべきである。マジョリティを、性の多様性という言葉で、マジョリティ見たく錯覚を起こさせて、あるべき姿の認識を麻痺させることは絶対に許されない。
    • 2
    • 名無しさん
    • 2017/6/5 19:15:39
    先のコメントの修正。最後から2行目、
    「マジョリティを、性の多様性という言葉で」 →「マイノリティを、性の多様性という言葉で」
コメントの受付は終了しました。