教育オピニオン
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特別支援対応―子どもを認め、ほめること
大阪市立みどり小学校山本 東矢
2015/1/15 掲載

 なかよし学級在籍のA君、4年生。人づきあいが苦手で4月当初は教師をまったく信用せず、私の言うことにいちいち反抗していた。しかし、6月になるころにはかなり落ち着いてきた。その要因は「教師との信頼関係をつくりあげる指導ができたこと」と「ソーシャルスキル指導を通してトラブルを減らすことができたこと」であると考えている。

1.マイナスの言動はその場では抑え、気分が落ち着いた時に指導する

 教師が子どもとの信頼関係をつくるには、タイミングを考えて指導することが大事である。教師がかっとなったその時に、その場で指導をしても効果はない。
 A君が五色百人一首をして負けた時「あー、面白くない」と言ったことがあった。一瞬、指導するかどうか考えたが、ここですぐにその言動について指導する必要はないと判断した。それは、他の子どもたちは楽しく五色百人一首をやっているし、A君が熱くなっている時に指導しても収集がつかなくなり、時間がかかると思ったからだ。
 次の試合にうつるために場所を移動させ、対戦相手を変えてあいさつをさせた。ここで指導を入れた。A君は次の試合に気持ちが向いており、さきほど「面白くない」と言葉を発したときの気持ちをひきずっていないようであったし、A君の気持ちが落ち着いている時が指導が入りやすいと思ったからだ。

2.「人づきあい」指導を全体を通して行う

 私は、子どもたちに向かって「そういえば、さっき『面白くない』と言っている人がいましたけど、その人は無理をしてゲームを続けなくてもいいんだよ」と話し始めた。
 「『面白くない』。そんなことを言っていいと思う人? 言ってはいけないと思う人?」とみんなに問いかけた。他の子どもたちは「言ってはいけない」に手を挙げた。A君は静かになっている。私は「どうして言ってはいけないのですか?」と子どもたちに返した。「相手に失礼です」「楽しい気持ちがある人もいるので言ってはいけないと思います」などの意見が出た。
 また、「楽しいゲームをしているときに『面白くない』と言われたら、面白いと思っている人は嫌な気持ちになりますよね。そういうことは心の中で思うのは自由ですが、口に出して言う必要はないのです。例えば、カレーが大好きな人がカレーの話をしている時に『カレーってまずいよね』って言われたら嬉しいですか?」と問うた。「嬉しいと思う人? 嬉しくないと思う人?」と聞くと、全員が「嬉しくない」に手を挙げた。
 続けて「それは五色百人一首についても同じですよね。でも、その人は本心で言ったのではないかもしれません。きっと負けてしまってつい言ってしまったのだと思います。だから、さっき『面白くない』と言った人が謝るのならば、またゲームに参加してもいいかなあと思いますね。さぁ、その人はどうするかなあ…」と話した。

3.指導をした後にA君を認め、ほめることが大事

 するとA君は、すぐに「ごめんなさい」と謝ってきた。私はすかさず「えらい。謝れることはとっても大事です」「では、試合を始めます」と言って、再び試合を始めた。しかられて一瞬その場の雰囲気が重くなったが、再び百人一首を始めるとまたパッと雰囲気が切り替わって明るくなった。A君の気持ちももちろんすぐに切り替わったようだ。嫌な思いをひきずらせないことも大事だ。ひきずると友だちに八つ当たりをすることがあるからだ。
 さて、ここで指導を終わりにはしない。A君をたくさんほめて、認めてあげたいと考えた。五色百人一首の試合が終わった後に、子どもたち全体に次のように話をした。
 「さっきA君が謝れたことを、先生はとてもえらいと思いました。自分の間違いを認めることができて、それを正していける人は大きく成長します。すばらしかったね、A君」
と、謝ってほめられるという経験を意図的につくった。
 このように指導していくと、A君は間違いを犯しても謝れる子になっていくし、友だちもA君に対してどんどん優しく対応するようになっていった。

4.具体的に何度も何度も教えること

 A君はあまり気が利く子ではない。だから何度も失敗をするし、友だちともトラブルを起こしてしまう。トラブルを起こすたびに、A君をほめながらソーシャルスキルを教えていった。そうしていくうちに、A君は少しずつ場をわきまえていくようになり、同じトラブルを起こすことが少なくなっていった。
 正直に言うと、A君が指導されたことの意味をきちとん理解できたかどうかはあやしい。しかし、ある場面である対応をすると「みんなが嫌な思いをする」ということがインプットされていき、その場面で「礼」を欠いた対応をしないようになっていったのなら、それでいいと思っている。実際、A君は次第に穏やかになり、トラブルも激減していった。一歩一歩少しずつではあるが、確実に成長していくことが大切なのである。

山本 東矢やまもと はるや

大阪市立みどり小学校教諭

1978年生まれ。教師歴12年。TOSS大阪みなみ代表。

【主な共著書】『特別支援の子への対応―AさせたいならBと言え 上学年』(2012)、『役に立つ教育技術 いくつ持ってますか6 指導場面別:集団を動かすワザ』(2005)、『教師修業への挑戦15 模擬授業対決で授業力みるみるアップ』(2005)など。(いずれも明治図書)
☆3月8日大阪セミナー

コメントの一覧
6件あります。
    • 1
    • 名無しさん
    • 2015/1/17 16:35:19
    自分は、ついその瞬間に感情的に指導してしまうことがあります。
    指導を入れるタイミングや、直接対決しない方法を具体的に知ることができてとても勉強になりました。
    • 2
    • 名無しさん
    • 2015/1/17 20:12:50
    指導を入れるタイミングとても大事だと思いました。
    集団の力を使うこと、趣意説明を入れることそうすればいいのかと思いました。
    • 3
    • 名無しさん
    • 2015/1/18 6:44:14
    このような長い見通しを持って、
    あきらめずに、褒め続けることがとても大切なのだと分かりました。
    ありがとうございます。
    • 4
    • 名無しさん
    • 2015/1/18 13:30:59
    ついついその場で言ってしまうことも多く落ち込む日々です。
    タイミングやその意図も明確で、
    とても勉強になりました。
    ありがとうございます!
    • 5
    • 名無しさん
    • 2015/1/18 14:54:44
    なんでもその場ですぐに言えばいいってもんじゃないですね。
    その子の状況やクラスの状況に合わせて特別支援対応をきちっと
    していかないといけないですね。
    最後にきちっち褒める。大切ですよね。
    • 6
    • 名無しさん
    • 2015/1/20 0:16:51
    その場その場で必要なコメントやタイミングが違うことがよく分かりました。
    ありがとうございました。
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