教育オピニオン
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校内研究のために教材検討や素材活用を試みる
東京都台東区立大正小学校板倉 弘幸
2014/1/15 掲載

1 教材研究で試みたいくつかの事柄

 1年の学年研究で「ながさくらべ」を扱うことになり、私は側面から教材研究を応援することになった。
 学習指導要領には次のように示されている。

(1)大きさを比較するなどの活動を通して、量とその測定についての理解の基礎となる経験を豊かにする。
 ア 長さ、面積、体積を直接比べること。
 イ 身の回りにあるものの大きさを単位として、その幾つ分かで大きさを比べること。

 『評価規準の作成、評価方法等の工夫改善のための参考資料』(国立教育政策研究所、平成23年11月)には、1学年の「量と測定」の評価規準の設定例として次のように示されている。

 数学的な考え方→長さ、面積、体積について、媒介物を用いて間接的に比べたり、身の回りにあるものの大きさを単位としてその幾つ分かで数値化して測定したりするなど、比べ方を考えている。

 つまり、1年生の「量と測定」の学習では、任意単位による数値化に気づかせることがねらいとなる。現行の6社の教科書比較、また東京書籍の旧版の教科書比較でもそのことが反映されていた。興味深いのは1社の教科書のみ「どちらがどれだけ長いか」という間接的発問がなされ、それ以外はほぼ「幾つ分の長さか」と直接的発問が提示されていたことである。数値化に気づかせるための間接的発問は1年生にとっては難しいのであろうか。
 先行研究を調べるために文献は30冊ほど、インターネットでも20件以上の実践・研究物に目を通した。数値化の段階を扱った研究は少なく、導入段階の直接比較の事例が多かった。
 それらを踏まえ、学年で検討した結果、素材として学校で育ててきた朝顔のつるを利用することにした。
 「1組の先生が家で育てた朝顔のつると、3組の先生が学校で育てたつるの長さの調べ方を考える」という学習課題を設定することで、数値化させることに気づかせようとした。
 そのほか、実態調査も行った。この調査問題の先行資料は皆無に近く、自分たちで作成することとなった。また、教材の関連と発展図は1年の前、つまり就学前が明記されていないため、幼稚園の教育要領や保育所の保育指針にあたったり、本校に併設されている幼稚園教諭に年長児の指導内容の聞き取り調査もお願いした。それらを指導案にまとめたところ、そうした取り組みは評価されたが授業そのものはもう一歩であった。

2 興味ある身近な素材が既習事項の学びを引き出した

 さて、「ながさくらべ」の単元が終わってからしばらくたった12月のことだ。機会があればぜひとも使いたい素材があった。1つは富士山の工作品。もう1つは東京スカイツリーの細長い空き箱。前者は夏休みの自由研究としてA君が工作の作品として作ってきたものである。六角錐状にした山のてっぺんを水平に切り、貯金箱にしたものだ。後者は、私がソラマチで購入した直方体の空き箱であった。スカイツリーの絵が描かれていて、「634m」の高さの数値も表示されていた。
 黒板の正面に置いてある教卓代わりの学習テーブル上に富士山とスカイツリーを並べてみたが、富士山の高さがスカイツリーの箱筒の半分以下しかなかったので、小さい箱の上にのせてスカイツリーとほぼ同じくらいの高さにした。
 それらを並べて「どちらが高いですか」と板書した。困惑している子どもたちに「何か尋ねておきたいことがあればどうぞ」と言って質問を促した。
 「その2つを比べるのですか、それとも本物の高さを比べるのですか」「もしそこにある2つのモノを比べるとしたらどこの部分を比べればいいのですか」との質問があった。これらは「直接比較」の学習のポイントをついたものであった。私は「どこの部分ってどういう意味ですか」と、聞き返した。するとその子は次のように答えた。
 「富士山の高さはテーブルからてっぺんまでか、あるいは富士山だけの高さだけでよいのか」
 これは私も予想していた指摘であった。さらに、もう1つの指摘があった。
 「スカイツリーの箱は、箱の上の端までの高さか、それともスカイツリーの絵の高さか」
 つまり、スカイツリーの絵は箱の端から端まで描かれていたわけではなかったのである。この指摘は全く予想していなかった。
 こうした子どもたちの気づきを大いに褒めてから「本物の高さなら皆さんはもう知っているはずです」と話すと、1人の女の子が「夏休みの自由研究の発表でA君が富士山の高さを発表していた」と思い出してくれた。そこで、普段あまり活躍する場がないA君を「富士山博士どうぞ!」と言って登場させたのである。満面の笑みで富士山の高さを説明していた。
 また、別の子どもが「山と建物だったら山のほうが高いよ」と発言したりした。
 そこで、本物の高さではなく前に置いてある2つのモノの高さを比べようということに落ち着いた。そのときにすかさず出てきた質問があった。
 「何かを使っていくつ分で数えてもいいですか」
 これも「ながさくらべ」の単元で学習した既習事項の一部であった。 
 今回ひと工夫してみた単元の関連調べや実態調査調べ、また身近な素材の活用などを通して、再任用1年目の私としても新たな学びを得ることができた。
 

板倉 弘幸いたくら ひろゆき

東京都台東区立大正小学校勤務。

1953年東京生まれ。TOSS中央事務局、向山型算数研究会、NPO法人日本子どもチャレンジランキング連盟所属。

【主な編著書】『クラス平均90点をとる算数授業の原則 低学年』監修(2010)、同『中学年』(2010)、同『高学年』(2010)(以上、明治図書)他に『一冊で親子で読み合う昔話100選を知る』編著(1994)(友人社)、『親子で学ぶ「世の中のなぜ」がよくわかる本』(1998)(PHP)など。

コメントの一覧
2件あります。
    • 1
    • 舘野健三
    • 2014/1/17 16:53:25
    さすが板倉先生、1課題について、30冊調べて、20件のIT調べ、学者ですね。
    • 2
    • 物理教諭
    • 2014/3/13 12:18:46
    >>1
    どういう料簡があれば,このような皮肉めいた発言ができるのでしょうか…
    と思ったら,投稿者名が(笑)

    1課題についてここまで先行研究を調べ,自身の授業実践を「ここが悪かった」と振り返ることができる板倉先生の教育に対する謙虚な姿勢に頭が下がります。私もそうですが,多くの教員にそのお心を見習っていただきたいものです。
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