教育オピニオン
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まず教師自身の感情コントロールから
愛知県刈谷市立かりがね小学校神谷 和宏
2013/12/13 掲載

子どもの夢を潰している犯人は大人である

 教壇に立つたびに思うことがあります。
 「子どもの夢を叶えさせたい」
 でも、どうやって?
 皆さんはこの答えをおもちでしょうか?
 私は長い間この答えを探し求めて、やっとたどり着いたのが「コーチング」です。コーチングとは「子どもの目標達成のために、自発的な行動を引き出し、継続的に支援するコミュニケーションスキル」です。例えば、「2020年東京オリンピックに出場したい」という夢を語った子どもがいたとしましょう。周りのほとんどの大人は、「そんなことは無理に決まっている!」「何を空想しているの」「もっと現実的になりなさい」というでしょう。仮に「すごいよね。頑張って!」と口では答えたとしても、心の中では笑っていることがほとんどです。そんな環境では、子どもの夢が実現する可能性は失われてしまいます。
 子どもの夢を実現させる最も重要な鍵が「大人の声かけ」です。
 コーチングでは、まず目標設定をします。目標は「大目標」「中目標」「小目標」に分けて具体的に設定させます。更に、目標を達成しないといけない理由をブレインストーミングして洗い出します。そして、目標が達成するまでサポートし続けます。

指示命令だけでは子どもは育たない

 今から20年以上前の指導は「指示命令型」が主流でした。「指示命令型」の指導は、わかっている教師が事細かく指示し、厳格にそれを守らせ、成長させるという方式でした。しかし、現在のように価値観が多様化し、情報が瞬時に世界中に飛び交う時代になるとこの方式ではうまくいかなくなりました。そして、新しく生まれた方式が「質問引き出し型」です。
 人は、質問されると潜在意識に働きかけるという特徴をもっています。つまり、質問されることで初めて気づきが生まれるということです。「夢を実現するには何をしたらよいのか」「目の前の問題を解決するにはどのように取り組むべきか」など、自分で考えて気づきを引き出すことができるのです。
 「質問引き出し型」では、考える場が与えられます。したがって、スランプに陥りにくいし、たとえスランプに陥っても自力で立ち直ることができます。反対に「指示命令型」で育てられた子どもは、好調なときは成果を発揮しますが、いったん歯車が狂い始めると的確な指示をもらわないと自分では立ち直りにくいものです。
 最近あまり聞かれなくなりましたが、全人的な資質や能力を高めるためには「生きる力」が必要です。なんでもかんでも、教師や大人から指示ばかりされていて、どうして「生きる力」が育まれるでしょうか。

教師が自己の感情をコントロールする

 ところで、教師はただ単に授業を行っていればよいというものではありません。生活指導、部活動、日常生活の支援、家庭との関係…などなど、ありとあらゆる業務があり、毎日ストレスがかかっています。その結果、うつ状態に近いネガティブ思考になることがあります。教師がこのような状態で子どもを指導することは困難です。ですから、まず教師自身が感情をコントロールするスキルを身につけることが必要です。

感情はつくり出すことができる(感情のレシピ)

 感情づくりにはレシピがあります。そして、その材料は3つあります。

@Visual(視覚・焦点) A Auditory(聴覚・言葉) B Kinesthetic(体感覚・からだの使い方)

 これらの頭文字をとって「VAK」といいます。
 1つめはVisualです。これは意識の焦点をどこにもっていくかということです。「自分の本当にやりたいことは何か」「自分は何に感謝しているのか」「だれを愛していて、だれに愛されているのか」「社会のどこに貢献するのか」、そのような意識を明確にもつことです。
 2つめのAuditoryは、耳で聞こえるものです。言葉の使い方といってもよいでしょう。普段から「自分はダメだ」「どうせ無理」「ウザい」「かったるい」などネガティブな言葉を使っていないでしょうか。このような言葉を使っていると、いつまで経ってもよい感情は湧き上がってきません。そこで「やればできる」「自信がある」「夢は叶う」「うれしい」「楽しい」「努力は裏切らない」「誰にも可能性がある」などのポジティブな言葉を使うようにすることです。
 そして、3つめはKinestheticです。元気のない人には共通点があります。背中を丸め、下を向き、呼吸は速く、小声で話します。こういった人でも、胸を張り、やや上を向き、深呼吸するだけで元気になります。他にも、「その場ジャンプ」「スキップ」といったことをしてみるだけで、悲しい気持ちになることを回避できます。
 以上の3つは連動しており、それらをうまくかみ合わせることで自分の感情をつくり出す、つまり感情をコントロールできるのです。教師自身がいつでも自分の感情をつくり出すことができれば、苦しい状況に置かれても、それに左右されずに教育の質を高めることができます。

神谷 和宏かみや かずひろ

愛知県刈谷市立かりがね小学校教諭(教育コーチ、心理カウンセラー)

1960年生まれ。愛知教育大学卒業。今から15年ほど前から教育のあり方に悩み、コーチングに出会う。その後、コーチング、NLP、カウンセリングなどを学び、子どもたちの目標達成技術を指導するようになる。現在、日本唯一の現職の教育コーチとして全国で研修を行っている。◆ホームページ

【主な著書】『図解 先生のためのコーチングハンドブック―学校が変わる・学級が変わる魔法の仕掛け』(2006)、『「いじめ・不登校」から子どもを救う!教室コーチング』(2007)(以上、明治図書)、『教師のための子どもが動く! コーチング50』(金子書房 2012)、『子どものやる気を引き出すスクールコーチング(DVD)』(学陽書房 2008)など。

コメントの一覧
1件あります。
    • 1
    • 上野 昇一
    • 2014/1/10 10:27:45
     神谷先生は、子どもの夢を叶えるために「こえがけ」が重要だと述べています。これは、信頼関係を築く第一歩だと思うのですが、「子どもの夢」と如何に関わるのか不明です。また、コーチングとの関わりについても、詳しい解説をお願いしたいと考えます。
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