教育オピニオン
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「式年遷宮」で日本の伝統文化を授業する
三重大学教育学部附属中学校福井 慎
2013/10/15 掲載

1.日本の伝統文化を授業する

 日本の伝統文化を継承していくためには、若者が伝統文化について学ぶ機会が必要である。学校教育であったり、伝統文化教室であったりと、それぞれに果たす役割がある。伝統文化を継承していくためにも学校教育の中で日本の伝統文化についての授業を行っていきたい。

2.日本の伝統文化に共通する徒弟制度

 日本の伝統文化は、「茶道」「歌舞伎」「能」など、さまざまなものが挙げられる。これらに共通していることは、師匠(親)から弟子(子)へと文化が継承されていることである。
 例えば、茶道。千利休が大成した後、「千家」は、「表千家」「武者小路千家」「裏千家」に分かれ、現在まで継承されている。多くの門弟をまとめるため伝統芸能に見られる組織形態:家元制度も作られている。
 茶道の他にも、歌舞伎、能、日本舞踊など、師匠から弟子へという徒弟制度によって技術・精神などが継承されている。

3.徒弟制度によって守られる伝統文化―式年遷宮―

 (1)20年に一度の式年遷宮

 今年、第62回を迎える式年遷宮は、8年前の「山口祭」を皮切りにスタートし、「御木曳初式」「宇治橋渡始式」など、関連の祭りや行事が30以上にもわたって行われている。
 20年に一度、式年遷宮を行う理由は以下のように様々ある。

@素木、萱葺の神殿が朽ちず尊厳を守るための20年
A稲の最長貯蔵年限が20年
B技術や信仰を伝承する限界の年度が20年

 (2)式年遷宮で造られるもの

 式年遷宮では、正宮だけでなく、内宮・外宮あわせて14の別宮の殿舎、大小の鳥居、内宮の五十鈴川にかかる宇治橋もあらたに造園される。また、714種・1576点におよぶ御装束神宝も新調される。
 御装束神宝とは「御装束」と「神宝」を合わせた呼び名である。「御装束」は、衣服だけでなく、櫛や屨などの容飾品お宮の中を飾る舗設具のことをさす。「神宝」は、神々の御用に供する品々としての調度品として、武具や文具、馬具、楽器、日常具などである。これらの御装束神宝は当代最高の匠が製作に当たっており、すべて手作業によって作られている。

 (3)式年遷宮の歴史

 式年遷宮が始まったのは、持統4年(690年)のことである。壬申の乱で皇位継承権を争った大海人皇子が伊勢神宮に勝利を祈願して実現された。乱に勝利した大海人皇子は、天武天皇として即位し、神様へのご恩奉じのために式年遷宮の確立を願ったと言われている。その後、妻である持統天皇によって遷宮は行われ、以降1300年あまりにわたり受け継がれている。
 1462年(寛正3年)12月27日に第40回内宮式年遷宮が行われたが、次の第41回内宮式年遷宮は1585年(天正13年)10月13日と、およそ120年にわたる延期があった。この時期は南北朝の動乱期と重なっており、財政難・政治難により式年遷宮が行われなかった。正殿などの建物はひどく荒れ、神主たちはその後実権を握った織田信長に両宮(内宮・外宮)の遷宮を願い出た。信長はこれに応じて正殿の造営費用を寄進し遷宮実現に尽力した。しかし、天正10年(1582年)、本能寺の変において倒れてしまったため、豊臣秀吉がその意志を受け継ぎ、天正13年に両宮の遷宮を実現した。江戸時代に入ると江戸幕府がその費用を負担し、20年に一度の式年遷宮が執り行われ、以後、順調に遷宮が続けられてきた。
 昭和に入り、第二次世界大戦の敗北による戦災復興のさなかであったため、昭和24年に予定されていた第59回式年遷宮は昭和28年に延期された。その60年後の今年(2013年)、戦後4回目の式年遷宮が行われた。

4.こんな授業の流れを考えてみました

[発問] ある様子を描いた絵です。何をしている様子だと思いますか(式年遷宮の様子の絵を提示する)。
[指示] 神様のお引っ越しのことを遷宮といいます。言ってごらん。
[説明] 伊勢の神宮(内宮)では、20年に一度神様のお引っ越しがあります。これを式年遷宮といいます。20年ごとに、東から西へ西から東へと、すぐ横にある神殿へと引っ越します。今年、第62回を迎える式年遷宮。式年遷宮のために8年も前から準備しています。そのうちの1つに御装束神宝があげられます。
[発問] 御装束神宝は、全部で何種・何点ぐらいあると思いますか(714種・1576点)。
[説明] 例えば、鶴斑毛御彫馬。日本最高の匠の技によって1mmの違いもなく、以前のものと同じものが造られます。20年ごとにすべてが新しく造り替えられます。このことを「常若」といいます。神様は、常に若々しく生命力にあふれた存在だという考えです。
[発問] では、式年遷宮はなぜ20年に一度なのでしょうか。
[説明] 3つのことがいわれています。「神殿が朽ちず尊厳を守るための20年」「稲の最長貯蔵年限が20年」「技術や信仰を伝承するのが20年が限度の年度」
[発問] 技術はどのようにして伝えられていくのでしょうか。
[説明] 親から子へ、師匠から弟子へと伝えられていくのです。
[発問] 技術を伝承していく上での問題点は何だと思いますか。
[説明] みんなが伝統に興味を抱き後世に伝えようと行動することで、伝統は継承されていきます。第62回の式年遷宮のテーマは「伝統の継承」「古代技術の復元」「自然環境への配慮」です。伝統の継承を見に、ぜひ、伊勢の神宮(内宮)へ行ってみてください。
福井 慎ふくい まこと

三重大学教育学部附属中学校教諭

1978年、三重県に生まれる。三重大学教育学部小学校教員養成課程卒業。特別支援学校に3年勤務。その後、小学校で5年勤務。小学校に勤務した際、恩師からのお誘いをきっかけに民間教育団体TOSSで学ぶようになる。現在、三重大学教育学部附属中学校に勤務。民間教育団体TOSS会員。
 著書に、『中学生が進んで動く“担任教師の言語力”』(2012年)(明治図書)がある。

コメントの一覧
2件あります。
    • 1
    • 松藤司
    • 2013/10/19 12:05:19
    日本の伝統・文化を次の世代に伝えるのは大人の義務だと思います。
    今年は式年遷宮で神道ブームです。
    このような授業が現場でされていること、うれしく思います。
    すばらしいことだと思います。
    • 2
    • 福田和俊
    • 2013/10/23 22:15:24
    日本の伝統文化は世界に誇れる日本の宝です。
    イギリスの歴史学者アーノルド・インビーは以下のように述べているそうです。
    「12、13歳くらいまでに民族の神話を学ばなかった民族は例外なく滅ぶ」
    福井先生のように、伝統文化を子どもたちに教えていくことは、我々教員の責務だと思います。
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