教育オピニオン
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管理職不足の真因と解決策を探る
日本教育技術学会員駒井 隆治
2013/5/15 掲載

 東京の小学校の管理職不足が言われて久しい。最近では、「副校長のいない小学校が出現するかもしれない」とまで言われている。実際、ここ2、3年で中学校からの小学校管理職登用が多くなっている。
 この原因については、様々なことが言われている。
 「激務なので、管理職にならないで気軽に務めたいという傾向が強い」
 「責任をとる立場になることを忌み嫌う傾向が強い」
 これらのことが正鵠を得ているのかどうか、データから探ってみた。

少ない女性管理職

 東京の小学校の教員構成の現状は、以下の通りである。(平成24年度学校基本調査より)

全体 男性 女性
教員数 30,662 10,998 (36%) 19,664 (64%)
校長 1,289 987 (77%) 302 (23%)
副校長 1,320 964 (73%) 356 (27%)
主幹教諭 2,253 1,262 (56%) 991 (44%)

 教員数では、男性36%に対して女性64%と、圧倒的に女性が多い。これに対して管理職の男女の比率は大逆転している。校長職では、男性77%に対して女性23%で、校長になっているのは全女性教員の2%弱である。副校長職では、男性73%に対して女性27%で、副校長になっている女性は同じく2%弱である。このように、女性の管理職(校長+副校長)は全女性教員の3%程度であり、女性の97%は管理職になっていないのである。
 この実態から、管理職不足の要因の一つがみえてくる。つまり、調査からみて、女性教員が管理職にならない、あるいは、なれないことが管理職不足に関係していると考えられるのである。

厳しい副校長の勤務実態

 人数が多いばかりでなく、優秀な女性の人材は多い。では、それでも女性教員が管理職にならない、なれないのはなぜだろうか。その背景にはやはり、管理職、とりわけ副校長の厳しい勤務実態があるものと考えられる。
 数年前、東京都の管理職が副校長の勤務状況を調査したことがあった。そこから、以下のような実態がみえてきた。
 平均勤務時間は14時間(例;朝7時〜夜9時勤務)。休日勤務が多い。本務以外に様々な仕事(例えば、学級担任の代わりや児童の個別指導)を抱えており、夕方になってようやく本務が始まる。夜9時に退勤し、自宅に着くのは10時から11時。そして、翌朝は朝6時に家を出る。平均睡眠時間は5時間程度。これがふだんの副校長の生活である。
 役所からは、次々と調査依頼や文書提出依頼が来る。役所からすれば、自分の部署からはたまに依頼しているだけと思い込んでいるかもしれないし、窓口は副校長しかないと言えばそうかもしれない。ところが、副校長からすれば、並行して数か所から依頼を受けている。中には、同じ内容の調査依頼が役所の別の部署から重複して来ることもある。役人が学校を訪問して確認すれば済む内容もある。調査で多いのは、議会向け答弁資料である。現場を見れば強気の答弁になるはずなのに、紙ベースまたはメールの添付ファイルで調査を依頼してくる。副校長からすればたまったものではない。
 今、教育委員会においても、組織と機能の両面で校務改善策を進行させている。これも必要であるが、抜本的解決には至らないであろう。本来ならば、前述のような“事務屋”稼業は、学校のNo.2がやる必要はない。否、そういうことをやっている場合ではない。肝心の校長の学校経営の補佐、教員の育成、保護者対応、地域との連携、突発的な事態への対応等々、学校経営上の重要な課題は常に目の前にある。それなのにこのような重要案件にかかわる時間がとれない。休けいも休養もとれない。自己啓発の機会があっても行く暇がない。これでは心身の疲労は溜まるばかりである。
 しかし、このような現状にも打開策はあると考える。ズバリ言って「秘書」を雇えばかなり改善するはずだ。非常勤週4日6時間勤務程度で結構である。年間の勤務日数を限定した臨時秘書でもよい(「秘書」という名称がよくないなら「学校事務」と称すればよい)。秘書を雇えば管理職のなり手も増えるはずである。しかし、なぜこれが実現しないのか。理由はただ1つ、予算つまり人件費がないということだ。

キャリアの前倒しとメンターの存在

 女性教員には、若いうちは出産と子育て、年配になると親の介護が生ずる場合が多い。私は、若い女性教員に、これを想定して前倒しに自己啓発と研修を行うよう勧めてきた。若いうちにキャリアを積んでおけば、やがて機が熟せば才能を生かし道は開ける、と話すのである。これは、メンターの役割である。
 例えば、日頃は研修などできなくても夏季休業中ならば家族の協力を得ることができる場合もある。長期休業中に専門性を高める研修を受ける。管外出張にも行く。わが子が安定した年齢になったら、教職大学院に行く、長期研修生になる等々、工夫すればキャリアを積むことはできる。こういったことは、今の状況で女性教員が才能を生かすための数少ない方法である。
 日本では、企業でも先進諸国の中では女性管理職が極端に少ない。外国の経済界トップの女性からは「日本の経済を立て直す方法は女性の登用である」とまで言われている。有能な女性の人材が生かされない日本特有のシステムに問題あり、ということである。
 これはそのまま教育界にも当てはまる。女性教員の才能を見いだし生かすには、先にあげた秘書の雇用というような管理職の仕事軽減の思い切った打開策も必要ではないだろうか。さらに、女性の才能を育成するメンターの存在も絶対に必要である。

 管理職不足の真因を探り、解決策について私見を述べさせていただいた。諸賢のご明察を賜れば幸いである。 

駒井 隆治こまい りゅうじ

日本教育技術学会員

1952年宮城県生まれ(本籍岩手県宮古市)。1975年千葉大学教育学部卒(教育学専修)。千葉大学合唱団員として活動。
1975年4月東京都公立小学校教諭、1985年東京都教育研究員(体育)、2002年世田谷区立中町小学校教頭、2005年渋谷区立代々木小学校副校長、2009年立川市立大山小学校校長、2013年立川市教育委員会就学相談員、現在に至る。
日本教育技術学会,日本言語技術教育学会,日本体育教育技術学会等に所属。

【主な著書】『管理職が添削する「通知表“所見の言葉”」―教師目線の書き方トレーニングBOOK』(明治図書出版 近刊)。
〈論文〉学校経営・国語・社会・体育等の論文を中心に専門誌に多数発表。

コメントの一覧
5件あります。
    • 1
    • hiro
    • 2013/5/17 23:27:51
     東京だけではありません。管理職になりたくないような職場状況が他にもあります。物言う(教員から見ると)頼もしく感じる管理職が、いわゆる僻地(この言葉が適当かどうか?)に行かされています。(とばされたという感じです)先生の内容だけでなく、教育内容とは別のところで理由があるような気がしてなりません。残念至極です。
    • 2
    • hosaka
    • 2013/5/19 19:17:22
    「秘書の雇用というような管理職の仕事軽減の思い切った打開策も必要ではないだろうか」
    考えさせられる一文でした。女性の進出を進めるためのハード面の整備。
    女性が管理職になりやすい環境を整えることが大切だと改めて感じました。
    • 3
    • 名無しさん
    • 2013/6/26 22:53:45
     管理職になる教員は一馬力の方が多い。他方、教員同士で結婚する方が多いのが学校現場の特徴。2人で働けば、高額所得者になれます。無理して管理職になる人は少ないでしょう。
    何より副校長は校長の奴隷と言われています。事務的な仕事が苦手な教員、管理職は多い。
    でも、それが雑用ではなく大事な職務なのです。副校長になれば、年収1千万円以上です。
    民間で1千万円稼ぐのと比べれば、教育管理職は恵まれています。チームワークですよ。
    • 4
    • 名無しさん
    • 2013/8/21 23:32:37
    育児や介護があるから、研修は前倒し…
    今の現状では、確かに的確なアドバイスです。
    けれど、本当は、女性が研修を前倒しにしなくても、男性と同じように研修できる仕組みを作るという発想にしないと、女性の管理職は増えないと思います。
    「結婚しても、女性の負担が重すぎるから、損だよなあ」と、こぼす女性の先生がたは多いです。比較的、男女平等に見える教育現場も、まだまだ男性中心なのかも、と思いました。
    • 5
    • Kageki
    • 2013/9/14 8:33:20
    職員に女性が多いのが、大きな原因。
    女性特有のムラ社会が、小学校では形成されることが多い。
    少数の男性職員は、からかわれ、いじめられる。
    副校長でさえ例外ではない。
    お局が実権を握る職場で、副校長になりたいと思う人は、
    馬鹿か、本当に学校を何とかしようと思う賢者か、だろう。

    また、2012年問題も絡んでいる。
    大量退職大量雇用で、教員の質が格段に低下している。
    それを文句も言わずに育てなければならないが、
    成果が現れる十年後には、自分自身は異動か定年退職である。

    もっと現場を見てほしいと思うのは、調査依頼する方と、学区関係者以外の方である。
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