教育オピニオン
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iPadを教育用の道具としてどう使うか
愛知教育大学数学教育講座教授 飯島 康之
2012/4/27 掲載

 生徒用学習端末として、iPadのようなタブレット端末が大きな可能性をもっていることに多くの方は共感し、あまり異論はないだろう。しかし例えば、生徒用デジタル教科書の具体化への議論などを拝見していると、「ちょっと待った」と言いたくなることが少なくない。

 例えば、「デジタルなのだから、入力した解答が正しいか間違っているか判定した方がいい」という意見。確かにもっともである。そして、自学自習の道具として使うなら、そういう使い方は基本になるかもしれない。しかし、それが授業の中での基本的な使い方ということになると、ちょっと疑問になる。学級にみんなが集まっていることのよさが生きる授業でありたい。

 また、机の上にパソコンしか載らないような景色の授業にも違和感を覚えていた。例えば、数学の授業の中で“数学らしい”活動を行う上で紙は不可欠で、ちょっとした計算やフリーハンドでのスケッチは数学的活動のための生命線と言っていい。互いにそれをのぞき込んで議論をすることも必要だ。そういう数学的活動のじゃまをしないことが、ICT利用を息長く続けていくためには不可欠だと思ってきた。過去のビデオを探してみたら、1992年の大学での私の授業の映像に、下のようなものがあった(さすがに若い!)。

写真1

 この当時はこれが最先端だったし、コンピュータ利用としては何の疑問ももたなかった。しかし、機器ばかりでノートを開くスペースすらない中で数学を考えろというのは、当時のような「珍しい機械としてのパソコンを使う」という非日常的環境では学生も不満を感じなかったとしても、こういう環境が日常的に続くとなると、「かんべんしてほしい」というのが本音になるだろう。

 私にとってiPadは、「数学的活動をじゃましないICT機器」としての可能性を実現してくれそうな存在である。解答入力・採点マシンとは違った可能性を形にし、一味違った授業実践を実現してみよう、といろいろな先生方と取り組んでみたのが、GC/html5というソフト開発と、それを使った実践である。
 GC/html5というのは、数学的な意味で図形を作図し、変形などができるソフトである。20年以上前から開発・利用しているソフトを、iPadでも使えるように移植してみた。

 これを使った授業では、 四人一組で1台を使うのが基本だ。4つの机をつなげた中央にiPadをおいて、図形を動かして調べる。すると多くの場合、下のように、生徒の頭が集まっていく。

写真2

 その方が見えやすいから当然といえば当然なのだが、この距離感は、気付きやアイデアそして疑問などを話し合うのに適切な雰囲気を生み出してくれる。マウスと違って指で動かせるから、このように共同作業も行える。

写真3

 シートを載せれば、このようにペンで直接書き込んでしまうこともできる。

写真4

 そしてもう1つ重要なことは、議論が進んでいって証明などをしたくなったとき、ノートの上で作業をするじゃまをしないことだ。下の写真を見てほしい。中央にiPadがあるものの、生徒の気持ちはそれぞれノートの上に行ってしまっていて、iPadはさびしく放置されている。

写真5

 必要なときには使うけれど、不要になったら学習のじゃまをしない。こういう当たり前のことが、例えば、コンピュータ室では実現できなかった。それを実現できるようになったことが、私にはとてもうれしいし、それを実現させてくれたiPadに感謝している。

 先日、愛西市立佐屋中学校の後藤義広先生の実践(読売新聞)を取材された新聞記者の方とお話をする中で、記者の方が、「これって、とってもプリミティブな使い方ですけど、いわば、 寄せなべの魅力みたいなものですね」と評してくれた。
 さすがに記者、言い得て妙だなと納得した。
 そう、一人鍋もいいかもしれないけど、やっぱり鍋はみんなでつつくに限る。そういう鍋的な使い方も、iPadの使い方として定着してほしい。

飯島 康之いいじま やすゆき

1959年埼玉県生まれ。筑波大学第一学群自然学類卒業、同大学院博士課程教育学研究科単位取得退学。上越教育大学を経て、現在、愛知教育大学教育学部教授。専門は数学教育で、特にICTを使った図形指導を中心に研究を行う。作図ツールGeometric Constructor(GC)を開発し、いろいろな先生方との共同研究を楽しんでいる。

コメントの一覧
1件あります。
    • 1
    • 名無しさん
    • 2013/2/3 12:14:50
    実際我々大人が資格試験の勉強をしようとおもったときには、やはり本(紙のテキスト)をベースに、理解できないところをネットで調べて勉強するケースが多いのではないかとおもいます。

    それを考えれば、この記事のようなipadの使い方がちょうどいいのでしょうね。
    1人一台あったら、机の上にノートを広げるスペースが、、、
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