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授業のねらい―社会的な見方・考え方を鍛えるポイント
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新型コロナで世界は混沌としている。仕事は在宅勤務、学校はオンライン授業、会議や飲み会はネット、レジャーは室内が日常になりつつある。明らかに新しい時代が始まっている。14世紀、ヨーロッパでペストが流行し、人口の3分の1が亡くなり、中世社会が根底から変革された。感染症の歴史から「ポストコロナ」を考える。
1 感染症の発生
〈考えよう〉
新型コロナウイルスは、中国武漢市でのコウモリから人間への感染から始まったと言われている。それでは、人類はいつ頃から感染症と向き合っていたのか?*
「人類発生からでは」
「アウストラロピテクスも感染症になってた?」
「動物や鳥類などとの接触から」
教師『人類が動物と接触するようになったのは?』
「牧畜が始まった頃」
「羊、山羊や豚の飼育をする頃かな」
教師『これまでは、ヒトは狩猟生活をしていたが、牧畜と農耕が始まり定住するようになると感染症が発生する』
「なるほど! 定住すると三密になるんだ」
教師『今でも感染症が流行すると不安になったりイライラするよね。科学や医学が未発達の頃はどんな気持ちだったのだろう』
「怖くてしかたがない」
「祟りだ!」(笑)
教師『怖いよね! そして神への信仰が始まり、宗教が発生する』
2 大航海時代と感染症
〈考えよう〉
14世紀から15世紀になると、災害や戦争より感染症が大量死をもたらす。キーワードは「都市化」と「大航海時代」。感染症の拡大との関係を考えよう。
「都市化によって人口が増えると三密になるからでは」
「でも都市化により動物が減るのでは」
「人口が増えるとゴミが増える」
「ゴミが増えるとカラスが増える」
「カラスから感染症になることはないのでは」
教師『14世紀ヨーロッパでペストが大流行し、イギリス、ドイツ、フランスに広がり、人口の3分の1が亡くなった。ペストの感染源は?』
「ネズミ」
教師『人口増加により食料が余り、ネズミの餌になるためフンやゴミが増えるね。都市開発により動物は増える? それとも減る?』
「人間が増えると動物は減る」
「だって、オオカミは街を歩いていない」(笑)
教師『タカ、キツネ、オオカミなどのネズミの天敵が減りペストが発生したとも言えますね』
教師『コロンブスがアメリカに到達した大航海時代は?』
「ヨーロッパとアメリカ大陸がつながって、感染する」
「バスコ・ダ・ガマのインド航路の発見でアジアともつながった」
「ペストをはじめとする感染症がアメリカなどに広がったことだ」
「今のコロナと同じ感じ」
教師『逆にアメリカ大陸の性感染症がヨーロッパにもたらされます』
Check▶日本への感染症の広がりについても触れる。1543年火縄銃、1549年キリスト教の伝来だけではなく「性感染症」がもたらされる。秀吉の朝鮮侵略では、九州の名護屋城で「性感染症」が広まったが、その後の「鎖国」が一定の抑止力になった。1822年のコレラ流行は九州から広がるが、オランダ商人が持ち込んだとされている。日本では「孤狼狸」(コロリ)と書かれた。また、ペリー艦隊に乗船していた乗組員が長崎で伝染させ、江戸へと拡大し3年間流行し続けたと言われている。その怨みは異国人に向けられ、開国が感染症をもたらしたとして、「西洋=病原菌」という考えが、攘夷思想が広まる一つの要因となった。
3 ペストの流行とルネサンス
〈クイズ〉
ペストが流行した頃、ヨーロッパで力をもっていたのは、どんな身分か?
教会 国王 領主 騎士 市民
「教会」「国王」に集中。答えは「教会」であり「教皇」が最高位にあった。
教師『教会は感染症に対してどう戦ったのか?』
「神に祈る」
「教会に集まり神様にお願いする」
「集まると感染症は広がるのでは?」
教師『祈りを捧げても効果がでないよね。神父さん自身が、ペストに感染し、人々は落胆するよね』
「こんなこともあって教皇の力も弱くなるんだ」
教師『そこに十字軍の失敗も追い打ちをかけ、ヨーロッパ中世社会のしくみが大きく変わるわけだ』
Check▶多くの農民が死亡し、労働力不足から農民に賃金が支払われ、封建領主より農民が相対的に力をつけるようになる。
4 最後に
新型コロナ感染の広がりで未来が見えなくなっている。歴史を紐解くと、少しだが光明が見えてくる。家庭を顧みず働いていた人たちは、家庭に目を向ける機会を得、これまで投票に行かなかった人たちが「次は投票に行く」と。否定されていたものが、肯定される。肯定されていたものが、否定される。陰陽の逆転現象が起こっていることも事実だ。
【注】
*起源については諸説ある。本稿では磯田道史氏の説を参考にした。
【参考文献】
磯田道史「感染症の日本史」(雑誌「文藝春秋」2020年5月号)
(イラスト及び文章作成協力:山本松澤友里)
