「個別最適な学び」を実現する算数授業のつくり方
算数授業における「個別最適な学び」を、非認知能力、GIGAスクール、自己調整学習…など重要なキーワードから紐解きます。
「個別最適な学び」を実現する算数授業のつくり方(4)
「数学的な見方・考え方」を重視した個別学習の進め方(授業後半編)
東京学芸大学附属小金井小学校加固 希支男
2021/9/25 掲載

 個別学習の授業後半では、前半で解いた問題を発展させたり、子どもが興味・関心があることを探究したりする学習を目指していきます。「学習の個性化」を図っていくということです。問題を解いて終わりではなく、子ども自らが学習を発展させていく姿を期待します。
 しかし、ただ子どもに期待しているだけでは、そういった姿を見ることは難しいでしょう。実践を重ねる中で、学習を発展させていく子どもの姿からわかってきたことを基にして、子どもが問題を発展させ探究するために必要な視点を紹介します。

「指導の個別化」と「学習の個性化」

 個別最適な学びを考える際、「指導の個別化」と「学習の個性化」の2つの言葉を理解しておく必要があります。
 2021年1月26日に出された、「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して〜全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現〜(答申)」(中央教育審議会)には、次のように示されています。

教師が支援の必要な子供により重点的な指導を行うことなどで効果的な指導を実現することや、子供一人一人の特性や学習進度、学習到達度等に応じ、指導方法・教材や学習時間等の柔軟な提供・設定を行うことなどの「指導の個別化」が必要である 。

教師が子供一人一人に応じた学習活動や学習課題に取り組む機会を提供することで、子供自身が学習が最適となるよう調整する「学習の個性化」も必要である。

 加藤(1982)は、この2つの学習の違いを、「一斉画一授業から離脱して、個別指導システムによる指導に組みするといっても、二つの異なった方向がある、ということである。一つは『統一性・均一性』という伝統的な教育観の延長線上にあり、指導の効率化をめざす方向であり、他の一つは、『多様化・個性化』という新しい教育観をもち込んで、伝統的な学校教育に挑戦していく方向である。ここでは、前者を『指導の個別化』、後者を『学習の個性化』と呼んでおくこととする」とまとめています。
 少し乱暴ですが、「指導の個別化」は教科書の内容を一人ひとりの特性や学習進度に合わせて身につけさせていく指導であり、「学習の個性化」は一人ひとりの興味・関心に合わせて教科書の内容から飛び出し探究していく学習とイメージするとわかりやすいと思います。
 個別学習の授業前半で「指導の個別化」を実現し、授業後半で「学習の個性化」を図ると言えるでしょう。

授業後半で「学習の個性化」を図るための視点

 個別学習の授業後半で「学習の個性化」を図る際は、探究するための視点を提示することが大事だと考えています。なぜなら、子どもに「自分の好きなように学習をしていいよ」と言っても、多くの子どもは何をしてよいのかわかりません。また、自由に学習をしたとしても、それが価値のある学習に結びつくとは限らないのです。
 そこで、授業後半では、授業前半で解いた問題を発展させることをおすすめします。授業前半で解いた問題の数値を変えたり、場面を変えたりするのです。それだけでも、授業前半で発見した知識・技能に対する概念は豊かになり、「こうやってもできるんだ」「こんなときにも使えるのか」 と、知識・技能を構造化することにつながります。
 問題をつくるだけでもよいのですが、慣れてきたら、他の視点をもって問題を発展させていくことをさせたいものです。そこで、問題をつくることも含め、次のような視点をもって問題を発展させることを子どもにすすめています。

@問題をつくる
Aきまりを見つける
B気になったことを考えたり調べたりする

 6年の「比」の学習を例に、上記の@〜Bの視点に沿って述べていきます。

@問題をつくる
 問題をつくるとき、主に「数を変える」「数の個数を変える」「場面を変える」の3つの方法があると考えています。紙面の関係ですべては書けませんので、ここでは「数を変える」方法について紹介していきます。
 「比」の学習の第3時では、授業前半で、比を簡単にする方法について学習しました。教師から出された問題の1つに「2/3:4/7」という問題があり、この問題を基に、他の分数に変えて問題をつくっている子どもが多数いました。そして、他の分数でも、「両方の数に、同じ数をかけたりわったりしても、比は変わらない」という等しい比の性質を使えることを確認していました。
 数を変えて問題をつくることは難しくはありませんが、数を変えるだけで、授業前半の「指導の個別化」で発見した知識・技能が「どんなときに使えるのか」ということの理解にもつながるので、学習を理解するのにとても役立ちます。

Aきまりを見つける
 いくつか問題をつくると、きまりが見つかることがあります。特に「数を変える」「数の個数を変える」という方法を使うと、見つかることがあります。
 「比」の学習の第3時の授業後半で、分数の比を簡単にする問題をいくつかつくっていた子どもが、次のようなきまりを見つけました。

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 分数の分子と分母を「たすきがけ」のようにかけると、簡単な整数にすることができるというきまりです。ぜひ、読者の方も適当な分数でお確かめください。
 もちろん、最初はこんなにきれいなきまりにはなっていませんでした。ある1人の子どもが試行錯誤していたのをまわりの子たちが気づき、それを私が取り上げ、みんなにも知らせました。それを見ていた他の子どもが「もっとこうした方がわかりやすい」ということを提案しながら、ここまできれいな形に一般化していったのです。
 第4時に、第3時に行った個別学習の振り返りを行い、この分数同士のきまりについても共有しました。そのときの板書が下の写真です。

画像2

 すると、他の子どもが「じゃあ、3つの分数の比だったらどうなるんだろう?」と考え始めました。まさに、「数の個数を変える」方法を使って、発展させたわけです。すると、3つでは、次のようなきまりが見つかったのです。

画像3

 これも、ぜひ読者の方には、適当な分数を当てはめて確認していただければと思います。これを発見したときの子どもたちは、とてもうれしそうでした。

B気になったことを考えたり調べたりする 
 授業前半の問題を解いて気になったことや、それまでの単元で気になっていたことについて考えたり、調べたりする活動です。「どうしてこうなるのかな?」「他にもあるのかな?」といった疑問についてまわりの子たちと話し合ったり、本やインターネットで調べたりするのです。
 「比」の学習では、ある子どもが、等しい比の性質の1つである「内項と外項の積が等しくなる」という性質について、「3つの比でやったらどうなるのだろうか」ということが気になって、試してみました。3つでやってみてどうなったかというと、うまくいかなかったのです。3つでやってみてうまくいかなかったその子どもは、次に4つでやってみたのです。すると、だんだんときまりが見えてきました。
 5つの比でも確かめてみて、この性質がどんな仕組みになっているのかを突き止めました。単元の最後まで黙々と考えていたようで、単元の最後の時間に学級で共有しました。言葉で説明をするとわかりづらいので、学級で共有した際の黒板の写真を下に掲載します。

画像4

「学習の個性化」は無理なく

 これまで、「学習の個性化」の実践について述べてきました。しかし、学級全員が新しい発見をしたり、理解できたりすることを目指さなくても大丈夫です。大切なのは、自分で発見できなくても、理解できなくても、「問題を解いて終わりにせず、その先を考えよう」と子どもが思えるようになることです。
 最初から「もっと習熟したい」と考え、AIドリルをやっている子どもだっています。それも、子どもが自分で判断したことであれば、認めてあげましょう。ただ、「学習の個性化」を図る授業後半では、できるだけドリル学習から脱却できるよう、@〜Bの視点をきっかけに、問題を発展させることのおもしろさを感じられるようにしたいものです。

【参考・引用文献】
・中央教育審議会(2021)「『令和の日本型学校教育』の構築を目指して〜全ての子供たちの可能性を引き出す、個別最適な学びと、協働的な学びの実現〜(答申)」p.17
・加藤幸次(1982)『個別化教育入門』(教育開発研究所)p.18

加固 希支男かこ きしお

1978年生まれ。立教大学経済学部経済学科を卒業し、2007年まで一般企業での勤務を経験。2008年より杉並区立堀之内小学校教諭、墨田区立第一寺島小学校教諭を経て、2013年より東京学芸大学附属小金井小学校教諭。

(構成:矢口)
コメントの一覧
1件あります。
    • 1
    • 山田悦司
    • 2021/9/29 11:25:11
    指導の個別化・学習の個性化の具体について、イメージがなかなかつかめませんでしたが、加固先生の「指導の個別化」は教科書の内容を一人ひとりの特性や学習進度に合わせて身につけさせていく指導であり、「学習の個性化」は一人ひとりの興味・関心に合わせて教科書の内容から飛び出し探究していく学習とされたイメージは、大変わかりやすく、腑に落ちました。ありがとうございました。
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