著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
特別支援は集団と個の両面へのアプローチ
ノートルダム清心女子大学准教授青山 新吾
2018/6/27 掲載
 今回は青山新吾先生に、新刊『特別支援教育すきまスキル』シリーズについて伺いました。

青山 新吾あおやま しんご

1966年兵庫県生まれ。ノートルダム清心女子大学人間生活学部児童学科准教授。岡山県内公立小学校教諭、岡山県教育庁指導課、特別支援教育課指導主事を経て現職。臨床心理士、臨床発達心理士。
主著に、『ゼロから学べる特別支援教育』(共編著)、『今さら聞けない特別支援教育Q&A』『THE 特別支援教育』シリーズ(通常の学級編/特別支援学校・特別支援学級等編)(編著)、『自閉症の子どもへのコミュニケーション指導』(以上明治図書)など。

―本書は、「すきまスキル」シリーズの特別支援教育編として、温かな支援を生むための子どもの「困った場面」での対応法を、その背景要因から読み解き、「集団への指導スキル」と「個別の支援スキル」に分けてわかりやすく解説いただいた書籍ですが、まず本書のねらいと読み方について教えてください。

 特別支援教育は個の教育的ニーズに応じることが本質です。しかし、学校においては、気になる子も集団の中の一人であるわけです。従って、特別支援はその子が属する「集団への指導」とそこでの「個別の支援」の両面から考えていくことになります。本書はその両面からのアプローチについて示すことで、そのバランスを意識した指導を行えるようにと考え執筆したものです。

―支援を要する子が苦戦する場面やその程度は、子どもたちによっても大きく違います。支援を要する子どもと周囲の子どもたちとの間では、質的にも程度の面でも違ったものがありますが、「どう理解したらよいか」「支援の手だて」を教室全体で考えていくためには、どのようなことが大切でしょうか。

 先ほどもお話しした通り、「集団」と「個」へのアプローチのバランスを考えることが重要になると思います。「個」だけを見つめて理解し支えようとしても難しく、また「個」の理解のない状態で学級集団の安定だけを考えても難しいでしょう。まして、すべての子どもが同じように活動できるための手だてではなく、指導の前提として子どもたちの様相が「多様」であることを基盤とすることが大切だと思います。

―本書では、「環境整備」「コミュニケーション」「生活・生徒指導」「授業場面」「連携」など場面ごとの“つまずき”について、具体的な解決法がまとめられていますが、「専門的な知識がない普通の先生にも行えるもの」に、特化されています。そのねらいについて、教えてください。

 通常の学級の先生方が「まずはここまで!」的に学べる書籍を作りたいと思いました。しかし、それを単なるアイディア集ではなくて、子どもの事実を見てその背景要因について検討したうえで「集団」と「個別」の両面からのアプローチを試みる、という教員の「思考の仕方」を身につけられるものにしたいと考えました。この「思考の仕方」は、汎用性があり、子どもとの様々な場面で活用できるからです。

―特別支援学級の子どもが、通常の学級の子どもたちとともに学習をする際に、通常学級の担任の先生が「どこまで一緒のことをさせれば」「どこまで他の子と同じように扱ってよいのか」と不安や悩みをもたれるケースが少なからずあるようです。本書でも詳しく紹介されていますが、「ねらい」を共有して取り組んでいくには、どのようなことが必要でしょうか。

 いわゆる交流および共同学習においては、特別支援学級と通常の学級の担任間で、細やかな連携が必要になります。教育目標や具体的な支援方法については、個別の指導計画等で、それらを共有しておくことが大切です。また、日常の「すきま」の時間を活用して相互に少しでも連絡を取り合い、子どもたちの様子を共有するための工夫も求められるところです。

―現在、学校では「インクルーシブ教育システム」の推進とともに、ユニーバーサルデザインの視点からの教室環境の整備や授業づくり、学級経営が進められていますが、これからどのような取り組みが大切でしょうか。

 多様な子どもたちが在籍するのが当たり前の学級集団で一人ひとりの子どもたちを育てるためには、これらの取り組みを複合的に行っていくことが重要です。中でも多様な実態の子どもたちの理解と関係づくりを基盤とした学級経営が求められます。と同時に、子どもたちの多様な学び方に応じる各教科の授業づくりをさらに進められるように取り組んでいくことが今後の大きな課題だと考えています。

―最後に、読者の先生方へメッセージをお願いいたします。

 特別支援において、個を見つめる際には「集団の中の個」という見方が重要です。本書で私たちは、集団と個のバランスを意識して、スキルを学んで実践していくことを提案しています。この提案が、多くの支援を要する子どもたちだけでなく、その周りのすべての子どもたち、そして多くの大人にとって少しでも役立つものになれば幸せです。

(構成:及川)

コメントの受付は終了しました。