著者インタビュー
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「コンピテンシー・ベイス」の授業で新学習指導要領が目指す学びを実現する
上智大学教授奈須 正裕
2017/12/14 掲載
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奈須 正裕なす まさひろ

上智大学総合人間科学部教育学科教授。徳島大学教育学部卒、東京学芸大学大学院、東京大学大学院修了。博士(教育学)。国立教育研究所教育方法研究室長、立教大学教授などを経て平成17年より現職。中央教育審議会教育課程部会、教育課程企画特別部会、総則・評価特別部会、幼児教育部会、中学校部会、生活・総合的な学習の時間ワーキンググループ等の委員として、新学習指導要領の検討に関わる。主な著書に『「資質・能力」と学びのメカニズム』(東洋館出版社)、『教科の本質から迫るコンピテンシー・ベイスの授業づくり』(図書文化社)、『子どもと創る授業―学びを見とる目、深める技―』(ぎょうせい)など。

―まず「コンピテンシー・ベイス」の授業とはどのような授業を表しているのでしょうか。

 これまで、授業というと、その時間で教える指導事項、つまり領域固有な知識・技能の理解と定着を最優先に設計し、実施してきたように思います。しかし、授業では個々の指導事項を通して、さらにその教科ならではの見方・考え方、その教科の枠組みを超えて生きて働く思考力や表現力、メタ認知などの汎用的な能力を育成することも可能ですし、望まれています。コンピテンシー・ベイスの授業づくりでは、学力をそのような幅広い視点で捉え、すべての学力側面をバランスよく、豊かに実現することを目指します。
 とは言え、授業の景色や道具立てがすっかり変わるわけではありません。学級単位の話し合いの授業でも、工夫次第でコンピテンシー・ベイスになりますし、本書では、そういった事例を多数紹介しています。

―本書の第1章では、新学習指導要領が目指す「主体的・対話的で深い学び」を実現する3つの原理が紹介されています。「コンピテンシー・ベイス」の授業と「主体的・対話的で深い学び」との関連を教えてください。

 そもそも、主体的・対話的で深い学びという考え方自体が、中央教育審議会において、資質・能力、本書でいうコンピテンシーの育成に資する教育方法のあり方を検討する中から出てきたものです。したがって、部分的・局所的に、授業のこの部分が主体的で、この部分が対話的といった具合にすればいいというものではありません。大切なのは、これも中央教育審議会の答申にありますが、「『学び』という営みの本質を捉える」こと、つまり、子どもの「学習」と「知識」に関する事実に基づいて教育方法を構想・実践することなのです。
 近年の研究は子どもの「学び」に関する数多くの事実を見いだしてきましたが、わけても最も重要なのは「すべての子どもは生まれながらにして有能な学び手である」という子ども理解であり、「学習は常に状況的に生じる」という把握でしょう。第1章で紹介した3つの原理もまた、これに基づいています。このような子どもの「学び」の要点を押さえた上で、主体的・対話的で深い学びを工夫することが、資質・能力、つまりコンピテンシーの育成では決定的に重要です。

―第2章では、コンピテンシー・ベイスの13の授業プランと、学校全体で取り組む2つの実践プランが紹介されています。15の実践プランの前には「読み解きガイド」も掲載されています。この「読み解きガイド」は、どのように活用することができますか。

 事例を紹介した本は数多くありますが、この事例の見どころはどこか、どのような点が、理論編で述べられている原理を具現化しているのか、ただ読んだだけではよくわからないことも多いように感じていました。そこで本書では、すべての実践プランについて、私自身が第1章での議論に即して、その見どころ、新しさ、学んで欲しいことなどを解説することにしました。ページを行ったり来たりすることになりますが、個々の実践プランを「読み解きガイド」と対照しながらお読みいただくことで、各プランの優れている点や面白みなどを、よりはっきりとご理解いただけると思います。

―第2章には授業プランだけでなく、学校全体で取り組む実践プランが2事例掲載されています。これはどのような理由からでしょうか。

 授業改革には、いくつかの水準があります。1単位時間、単元といった桁に、どうしても意識が向かいがちですし、基本的にはそれでいいのですが、併せて、カリキュラム・マネジメントの発想に基づき、さらに大きな桁やスパンで考えることも大切ですし、有効です。
 そこで本書では、学校を一種の社会システムと見なし、システム全体のあり方を抜本的に改革する2つのアプローチを紹介しました。事例を通して、日々の授業づくりのいわばプラットフォーム自体を一部変更し、あるいは全面的に刷新する可能性についても思いを馳せることで、みなさんの授業づくりの地平は一気に大きな拡がりを見せることでしょう。

―最後に、全国で新学習指導要領を踏まえた授業づくりを進めている先生方に一言お願いいたします。

 新学習指導要領は、教科の本質を見据えた、本物の教科学習を求めています。それが、結果的に資質・能力、つまりコンピテンシーの育成につながるのです。主体的・対話的で深い学びも、表面的な姿や用いる道具立てを変えることを、必ずしも要請してはいません。本書の最後では、大胆なシステム改革の事例を挙げましたし、それらは授業の可能性を一気に押し拡げるものですが、同時に、伝統的な形態やアプローチでも、新学習指導要領の理念は十分に全うできます。
 大切なのは、改めて教科の本質とは何か、そして目の前の子どもたちはどのように学び、育とうとしているのか、それを丁寧に、また深く見つめることです。本書の理論的な解説と、それを体現した多様な実践プランが、少しでもみなさんのお力やヒントになれば幸いです。

(構成:木山)
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