- まえがき
- Chapter1 コンピテンシー・ベイスの授業づくり
- 1 コンピテンシー・ベイスの教育と学習指導要領改訂
- コンテンツ・ベイスの教育の原理と問題点
- 非認知的能力の重要性と育成可能性
- 世界のトレンドとしてのコンピテンシー・ベイスの教育
- 平成20年の学習指導要領改訂における二つの取り組み
- 学力の三層構造から資質・能力の三つの柱へ
- 各教科等の目標の様式の刷新
- 2 「学び」という営みの本質をとらえる
- 各教科等をしっかりと教える
- 系統指導とは何か
- コンピテンスという思想
- 主体的・対話的で深い学びの実現
- 3 主体的・対話的で深い学びを実現する授業づくりの三つの原理
- 有意味学習―子供はすでに膨大な知識を持っている
- 既有知識を洗練・統合する教師の意図性・指導性
- オーセンティックな学習―学びの文脈を本物にする
- 「科学する」学び
- 明示的な指導―学びを関連付け概念化する
- 汎用的な思考の道具を整理して手渡す
- コンピテンシーが兼ね備えるべき汎用性の正体
- 鋭角的な学びと間口の広い学び
- Chapter2 コンピテンシー・ベイスの授業プラン&システムづくり
- コンピテンシー・ベイスの授業プラン&システムづくり15事例の読み解きガイド
- 国語科の授業プラン
- 算数科の授業プラン
- 社会科の授業プラン
- 理科の授業プラン
- 総合的な学習の時間の授業プラン
- プログラミング教育を取り入れた授業プラン
- 学校全体で取り組むシステムづくり
- 国語科の授業プラン
- 1 4年・「月夜とめがね」「とのさまのちゃわん」
- ぼく・わたしの小川未明〜「月夜とめがね」「とのさまのちゃわん」
- 2 2年・「あなのやくわり」
- 自分たちの「あなのやくわり」事例説明文を書こう!―「評価する力」を軸に主体的・対話的に探究し,思考・判断・表現しよう―
- 3 6年・「『鳥獣戯画』を読む」「この絵,私はこう見る」
- 御前崎市の6年生へ贈るアートブックを作ろう!―筆者のものの見方をとらえ,自分の見方を広げよう―
- 算数科の授業プラン
- 4 6年・場合の数
- 起こり得る場合の数を,整理して考えよう!
- 5 1年・かたちであそぼう
- かたちあそびで図形や数量関係の感覚を豊かにしよう!
- 6 6年・およその形と大きさ
- NASAに続きSANWA小も!海氷面積予想に挑戦!
- 社会科の授業プラン
- 7 4年・わたしたちのくらしと「水」「ごみ」
- 水道水・下水・ごみから環境を考えよう
- 8 6年・身近なものから日本を見よう
- おもちゃなど身近なものを通して,様々な時代の特徴を調べよう
- 理科の授業プラン
- 9 5年・電流がつくる磁力
- リフティングマグネット付きユンボの秘密を追究しよう!
- 10 3年
- 一年間を振り返って3年理科カリキュラムを見直そう
- 総合的な学習の時間の授業プラン
- 11 6年
- 神石牛を有名にしよう
- 12 4年
- パラリンピックがやってくる―パラリンピックの未来について語り合おう―
- プログラミング教育を取り入れた授業プラン
- 13 6年
- プログラミングをして作ろう!―プログラミングで自分の世界を広げよう!―
- 学校全体で取り組むシステムづくり
- 14 教室ルールと学びのルーブリックの全校での共有化
- 15 単元水準での完全な一人学び
まえがき
2017年3月31日に告示された新学習指導要領を巡っては,道徳の教科化,外国語科の新設と外国語活動の中学年からの実施,プログラミング教育の必修化などが話題となった。しかし,その一方で在来の各教科等については,時数はもとより指導すべき内容についても基本的に従来を踏襲している。これは,改訂の度に内容の増減を繰り返してきた戦後の学習指導要領改訂でははじめてであり,その意味で今回の改訂は変化が小さいとも言える。
内容レベルで変更や増減を要しなかった理由の一つに,このところ我が国の子供たちの学力を巡る状況が比較的堅調なことがある。国内的には文部科学省の全国学力・学習状況調査,国際的にはOECDのPISA調査やIEA(国際教育到達度評価学会)のTIMSS(国際数学・理科教育動向調査)などの結果は,いずれも概ね良好である。このことは,いわゆる「学力低下」への懸念を受け,日本の学校と教師,さらには家庭や地域社会をも含めて,この間,真摯な努力を懸命に続けてきた賜物と言えよう。
新学習指導要領では,このような内容レベルでの堅調さを足場に,さらに学力の質的側面において抜本的な拡充と向上を目指している。それは,従来型の内容(コンテンツ:content)中心の学力論から,もはやグローバル・スタンダードとなっている資質・能力(コンピテンシー:competency)を基盤とした学力論へという動きである。
学校で膨大な知識・技能を教えてきたのは,それを貯め込んで持っておくためではなく,人生で直面する様々な問題場面に効果的に活用し,優れた問題解決を現に成し遂げることにより,一人ひとりがよりよい人生を切り開いていくためであろう。ならば,単に知識・技能を所有しているだけでは十分とは言えない。さらに,知識・技能を効果的に活用するための思考力・判断力・表現力等が必要であろうし,困難な状況に粘り強く立ち向かい続ける意欲や感情の自己調整能力も欠くことができない。また,現実の問題場面の多くは対人関係的な文脈の中で生起している。そこで洗練された問題解決を果たしていくには,コミュニケーション能力や対人関係の調整能力が大切になってこよう。
このような,生涯にわたる洗練された問題解決の実行に必要十分なトータルとしての学力育成を最優先の課題として学校教育を抜本的にデザインし直していこうという世界的なトレンド,それがコンピテンシー・ベイスの教育である。
新学習指導要領では,教える内容それ自体は基本的に従来と変わらない。しかし,その内容の指導を通して子供たちにどのような学力を育成するかについては,大きな変化があったのである。したがって各学校における今後の課題は,新しい学力論としてのコンピテンシー・ベイスの考え方を各教科等の授業づくりの中でどのように実現していくか,その具体的な方途の開発であろう。より実践的には,授業の景色や子供に立ち現れてくる姿がどう変わってくるのか,あるいはどう変わらないのかのイメージを確立・共有することも重要である。
ここで結論を先に言ってしまうならば,コンピテンシー・ベイスの授業づくりになったからといって,指導に用いる教材や教具,学習形態や1時間の授業の流れそれ自体を大きく変えることは必須の要件ではない。コンピテンシー・ベイスとは学力論の転換なり拡張であるから,まずは子供の学びや知識をどうとらえ直すのかが授業づくりの重要なポイントとなる。つまり,教材それ自体は従来のものも十分に使えるが,実現を目指す学びや知識の質の変化に伴い,その取り扱い方や位置付け方は大きく変わってくるのである。
また,発問や板書,指名やノート指導といった授業づくりの基本的な手立ても,外形的に見れば大きな変化はないが,どのような問いを発するのか,黒板に何をどう書いていくのかといった中身については,当然のことながら抜本的な見直しと再構築が必要である。
興味深いことに,コンピテンシー・ベイスの授業づくりの成否は,その教科等ならではの独自な特質,いわゆる「教科の本質」をいかにしっかりと見据えられたかにかかっている。その教科等における様々な学びに通底している,その教科ならではの見方・考え方や対象に対するアプローチ,問題解決の戦略といったものが「教科の本質」であるから,それを見据えた授業の実施こそが,結果的に子供たちに豊かなコンピテンシーを育むのである。
以上のような考え方と問題意識に立って,本書は編まれた。
第1章では,コンピテンシー・ベイスの授業づくりに関する理論的な整理と,それらが新学習指導要領との関わりの中でどのような位置付けにあるのか,さらに「主体的・対話的で深い学び」の実現を支える主要な実践原理について概観した。
第2章の前半では,「教科の本質」をしっかりと見据え,コンピテンシー・ベイスの授業づくりに挑戦した各教科等の13の実践事例を収めた。「教科の本質」に即して豊かに展開される具体的な授業の景色や子供の姿,教師の意思決定や繰り出される授業技術の数々を通して,コンピテンシー・ベイスの授業づくりの実践的な勘どころをつかんでいただきたい。
第2章の後半では,学校全体で取り組むシステムづくりの観点から,コンピテンシー・ベイスの授業づくりを支える二つのアプローチを紹介している。前述のように,コンピテンシーの育成は伝統的な授業づくりの手立てや手法を足場としても十分に可能ではあるが,さらに学習形態や教室のコミュニケーション,学校体制といった水準からの抜本的な改革も数々試みられてきており,大いに効果的でもある。新学習指導要領で言うカリキュラム・マネジメントの一環として,こういった構造的な改革へと歩みを進めることも,是非併せて検討していきたい。
新学習指導要領が目指すコンピテンシー・ベイスの授業づくりと,そこにおける子供の学びの質的な向上に向けて,本書が少しでもお役に立てば,望外の幸せである。
2017年9月 /奈須 正裕
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- 明治図書
- コンピテンシーベースの授業をどのように作っていかないといけないのかが、具体的に分かった。授業づくりに役立てている。2021/2/1450代・小学校教員
- これからの指導要領が求める資質能力の具体、つまり、授業レベルでどのような指導が求められるのか理解できた。2018/1/1530代、小学校教諭