著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
教科における豊かなインクルーシブ教育の実現を目指しましょう
関西学院大学教育学部准教授原田 大介
2017/1/6 掲載

原田 大介はらだ だいすけ

関西学院大学教育学部准教授 博士(教育学)
1977年愛知県生まれ。2007年に広島大学大学院教育学研究科博士課程後期を修了。小学校教員、福岡女学院大学講師を経て、2015年4月から現職。学術論文「国語科教育におけるインクル―ジョンの観点の導入―コミュニケーション教育の具体化を通して」(『国語科教育』第74集)において、「2013年度全国大学国語教育学会優秀論文賞」を受賞。
〔著書〕
『特別支援教育と国語教育をつなぐ ことばの授業づくりハンドブック』(共編著、溪水社、2014)、『インクルーシブ授業をつくる―すべての子どもが豊かに学ぶ授業の方法』(共著、ミネルヴァ書房、2015)など。

―本書の書名は、『インクルーシブな国語科授業づくり』です。「インクルーシブな」とは、どういうことですか?

 「インクルージョン」は日本では「包摂」や「包容」などと訳される概念であり、「インクルーシブ教育」とは、「多様な子どもたちを包摂する教育」を意味します。授業に照らして言えば、「すべての子どもたちがよりよく参加できる授業」ということになります。
 ここで言う「多様な子どもたち」とは、発達障害のある子ども、多様な性を生きる子ども、日本語を第二言語とする子ども、経済的貧困家庭の子ども、虐待を受けている子どもなど、通常学級に在籍する子どもだけでも、様々に考えられます。本書では、その中でも発達障害のある子どもたちに焦点をあて、発達障害とは何かを理解できるような構成を目指しました。その上で、発達障害のある子どもたちも定型発達の子どもたちも、すべての子どもがよりよく参加できる国語科授業のあり方を提案しています。

―原田先生が国語科でインクルーシブ教育を実現しよう、と思われたきっかけはなんですか。

 国語科でインクルーシブ教育を実現しようと思ったきっかけは、二つあります。
第一に、小学校教員として子どもたちとかかわってきた私の実体験にあります。
私は大学院を修了した後に広島県で小学校の教員をしていたのですが、そこで、多様な生活背景の子どもたちや、多様な身体をもつ子どもたちと出会いました。と同時に、教育現場では、多様な子どもたちの実態に十分に対応できていないという現実も知りました。これからの国語科授業は、多様な子どもたちに柔軟に対応できる教科に変わらなければならない、と考えたことが一つ目の理由です。第二に、私自身が発達障害の当事者であることです。高機能自閉症とADHD(注意欠如多動性障害)の診断名をもつ私は、『精神障害者保健福祉手帳』(3級)を所持し、服薬も続けています。また、私は吃音の当事者でもあります。この吃音と発達障害については、幼少期よりずいぶん悩まされてきたのですが、私と同じような身体をもつ子どもたちと教育者の立場からかかわるようになり、「私なりに何か子どもたちの役に立てるのではないか」「解決とまではいかなくても、何か子どもたちの苦痛を和らげることができるのではないか」と考えるようになりました。このことが、二つ目の理由にあたります。

―いま流行りのアクティブ・ラーニングについても、本書では触れてくださっていますね。アクティブ・ラーニングの知見を取り入れた国語科授業づくりをするためのポイントはズバリ、なんでしょうか。

 本当に、驚くほど流行しちゃってますよね…(笑) 良くも悪くも、教育の世界は流行りものが大好きです。一方で、その流行りものが消えるときは、驚くほどすぐに消えます。アクティブ・ラーニング(以下「AL」)も期限付きのものだと考えるべきでしょう。
 私は、「AL」であれ、新学習指導要領の指導事項であれ、行政から生まれた概念を冷めた目でとらえつつも、一方で柔軟に、かつ知的に活用する姿勢を教員はもつべきだと考える立場です。ただやみくもに否定してみせたり、反対に、極端に迎合したりするのではなく、「今ここ」を生きる子どもたちにとって役に立つ概念に変えればよいと思います。
 「AL」は、ずばり、「子どもたちが知的にアクティブになれる授業」と理解すべきだと考えます。「知的にアクティブ」とは、「うきうき・わくわく」するような状態のことです。よく言われるように、「活動あって学びなし」になってはいけませんので、子どもたちを「うきうき・わくわく」させつつも、その授業や単元で獲得すべき指導事項を明示し、授業前・中・後において絶えず子どもたちと共有することが大切です。このように考えれば、教員は授業を子どもたちにとって魅力的になるように工夫せざるを得ません。また、「知的にアクティブ」の観点から考えると、45分間教員の話を聞き続けるような従来の講義形式に限界があることもわかるでしょう。

―発達障害の傾向のある子どもが、通常の学級にも約6.5%在籍しているといわれています。国語科授業をするうえで、どのようなことを心がけておくべきか、教えてください。

 よりシンプルに考えるのであれば、発達障害のある子どもたちが楽しく参加できる国語科授業にする、ということになります。そのためには、クラスに在籍する発達障害のある子どもたち一人ひとりが何に興味・関心があり、どのようなイベントに参加したくなる傾向があるのかを知る必要があります。また逆に、何に興味・関心がないのか、何が苦手なのか、何に抵抗があるのかも、合わせて把握したいところです。
 また、本書では繰り返し述べていることですが、授業である以上、発達障害のある子どもたちだけが学び、他の定型発達の子どもたちが何も学んでいない、というような授業展開は避けなければなりません。発達障害のある子どもたちを含む、すべての子どもたちによる交流を通して、それぞれが何を学び、何を学べなかったのかを、教員は見極めながら授業を展開し、反省して次につなげることが求められます。インクルーシブな国語科授業づくりのポイントは、発達障害など支援を要する子どもたちが学ぶことはもちろん、常に他の子どもたちも合わせて学びに巻き込むことを目指しています。

―最後に、読者の先生方に向けてメッセージをお願いします。

 インクルーシブな国語科授業づくりで目指していることは、「通常学級における国語科の授業を、すべての子どもたちにひらかれたものへと変えること」にあります。そのためには、教員や研究者がもっている国語科授業のイメージそのものを変えていくことも必要になるでしょう。
 大切なのは、今まで見過ごしてきた子どもたちの姿に学び、多様な子どもたちの声を受けとめ、子どもたちとともに授業をつくることです。うまくいかないこともあると思いますが、やりがいはあります。特に若い先生や、これから先生になろうと考えている大学生・大学院生さんは、今すでに持っている柔軟な発想や、これまで学習者として受けてきた国語科授業に対して不思議に感じてきたことや疑問点を大切にして、授業づくりに活かして欲しいと思います。
 すべての子どもたちが「うきうき・わくわく」して参加できる国語科授業づくりを目指しましょう。そのために、本書が少しでもお役に立てれば幸いです。

(構成:林)

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