著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
教師も子どもも、「自己中心」ではなく「相手中心」の話者になろう
植草学園大学名誉教授野口 芳宏
2016/10/6 掲載
今回は野口芳宏先生に、新刊『名著復刻 授業の話術を鍛える』『名著復刻 子どもの話す技術を鍛える』について伺いました。

野口 芳宏のぐち よしひろ

1958年千葉大学教育学部(国語科専攻)卒業、公立小教諭。
千葉県の小学校教諭、教頭、校長、北海道教育大学教授(国語教育)、同大学、麗澤大学各講師、植草学園大学教授を歴任。現在植草学園大学名誉教授、同フェロー。
〈所属学会等〉
日本教育技術学会(理事・名誉会長)、日本言語技術教育学会(理事・副会長)、日本教育再生機構(代表委員)、(公財)モラロジー研究所(教育者講師)、鍛える国語教室研究会、授業道場野口塾(各主宰)
〈専門分野〉
国語教育、道徳教育、家庭教育、幼児教育

―昨年に続いて、今年は1988年、1989年に発行された2冊が復刻となりました。まずは、改めて読み返されたご感想をお願いします。

 「変化する社会」とよく言われます。それに合わせることにのみ急で、「変えるべきではない基礎、基本」を忘れがちです。教育者は、とりわけ子どもと直接かかわる実践者は、常に教育の「根本、本質、原点」を自問しつつ歩むことが肝要です。原著が世に出て30年を経るのですが、改めて読み返してみても、私の実践や、そこから導いた理論は十分に現代に通用することを確認しました。若い教師各位の読後の感想をぜひ伺いたいと思います。
 

―今回復刻された2冊は、「話す」をテーマにした書籍です。執筆当時から約30年が経ちましたが、「教師の話術」「子どもの話す技術」は、どう変化したと感じていらっしゃいますか。

 全般に話し方のスピードが速くなったように思います。相手の為に、言葉を選び、表情を読み、ゆっくりと話すという相手意識を持つことが大切です。本来の伝達という言語活動よりも、自分が言いたいことを言うという自己表現としての話し方の傾向が強くなっているようです。
 学級崩壊という現象があります。その本質は、自分本位、自己中心の「表現」や「主張」に偏り、他者の話に耳を傾けるという「相手本位」の傾聴を軽んじる点にあるのではないかと私は考えています。
 

―『授業の話術を鍛える』では、教師の話術の鍛え方が詳しく述べられています。例えば、若い先生方は、話術を鍛えるためにまず何を意識することから始めればよいのでしょうか。

 聞いて貰う為に話すのです。何よりも「相手中心」の「公的話法」になっているかを常に自問したいものです。自分中心の「私的話法」から脱する意識こそが、話術を高める要諦です。「私の話し方についてお気づきの点を教えてください」と同僚に問うのも一法です。また、授業を受ける子どもから、教師の話し方についての感想や注文を聞くことも有益です。授業の様子をビデオやレコーダーに記録をして、その再生を視聴することも大いに役立ちます。ぜひ、試みていただきたいです。

―『子どもの話す技術を鍛える』の中では、話し言葉の指導に加え、話し合いの指導についても、詳しく述べられています。学習指導要領改訂の方向性からも、今後ますます子どもの話し合いが盛んに取り入れられると思われますが、子どもの話し合いの指導で注意すべき点はどのようなことでしょうか。

 2つ目の回答と同じことになりますが、「相手中心」の話し方、「相手尊重」の話し方を心がけさせる必要がありましょう。「話したいように話す」「話したいことを話す」のではなく、「話すべきことを、聞きとり易く分かり易く話す」ように導きたいですね。また、「話し上手」よりも、むしろ「聞き上手」になるように心がけたいです。「正対、正視、頷き、笑顔」が「傾聴4項」である、と心得ましょう。聞き上手が良い話し手を育て、話し上手が良い聞き手を育てることになるからです。
 

―最後に、読者の方にメッセージをお願いします。

 人は朝から晩まで話したり、聞いたりしています。そのありふれた日常の言語活動をちょっとこだわって観察してみましょう。良い手本、悪い手本がいっぱいみつかる筈です。良い手本はまね、悪い点については改めたり、捨てたりしていけば、誰でも自然に話し方の名人になれる筈です。無意識、無自覚、無反省のままでは上質の言葉の使い手にはなれません。誰からも話しかけられ易いような教師になれば、教師人生の日々は限りなく楽しいものになることでしょう。教師人生を大いに楽しんでください。

(構成:茅野)

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