著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
「あいうえお」(^▽^)が聞こえる授業に!
天理大学木下 光正
2016/5/6 掲載
今回は木下光正先生に、新刊『スペシャリスト直伝! 小学校体育科授業成功の極意』について伺いました。

木下 光正きのした みつまさ

1955年 東京に生まれる
1977年 立教大学社会学部卒業
埼玉県志木市立志木第二小学校,志木市立宗岡第二小学校,志木市立志木第四小学校を経て,1994年より筑波大学附属小学校教諭。現在天理大学体育学部体育学科で大学院・学部の講師をつとめる。主な著書に『とってもビジュアル!筑波の体育授業・低学年編』(2009年、明治図書)、『「できたー!」を共有 指導ポイントがわかる器械運動の授業』』(2013年、明治図書)、『小学生の動きつくり・体つくりの教科書』(2014年、ベースボール・マガジン社)、『「できた!」が子どもから聞こえてくる体育授業9つのポイント』(2015年、学事出版)がある。

―本書では、全員が達成感をもって楽しめる体育授業づくりの秘訣についてご執筆いただきました。先生がご自身の授業を組み立てる上で、最も大切にされていることは何でしょうか。

 最初の授業で子どものありのままの姿を見るということです。
 見るといっても漠然とみるのでなく、いくつかの視点があります。
 1つは技能です。クラスの子どもが「何を」「どの程度できているか」を把握する必要があります。1つの運動をする前の段階の運動を行い、観察することで、次の段階に進めるかがわかります。本書でも示した 「おりかえしの運動」は、支持や逆さ感覚、協応動作、走り方などさまざまな基礎感覚や走能力をつかむことができます。おりかえしのウサギ跳びやカエル跳びがどの程度できているか見れば、馬跳びや開脚跳びがすぐにできるか、時間がかかるかが一目瞭然です。また、ボール投捕をしてみればボール操作の能力がわかり、ゲームの教材づくりに活かすことができます。ですから、最初の授業でこの2つの教材を扱うことをお勧めします。
2つ目は関係性です。おりかえしの運動で頑張っている仲間に応援したり、キャッチボールで相手の技能を見ながら投げたりするなど関わり方を見ます。そうすれば、「この子は優しい子だ」「この子は自分だけが楽しんでいる」等々、他の教科では見えにくい個々の姿が見えてきます。
 勿論、見ただけでなく、最初の授業から関係性については積極的に評価します。教師の価値観が問われるところです。「何が良いのか」「どんな振る舞いを求めているのか」など、よい学級づくり、学習集団づくりにつながることを伝えたり、認めたりすることが大事です。

―今回、体育授業をスムーズにすすめるマネジメントや、場づくり・用具活用の極意など、見てすぐ使える技術も多数伝授いただきました。その中でも特におすすめのものを教えてください。

 どの内容もそれぞれ意味や価値がありますので「これ!」とはいえません。ただ、体育授業に対する経験や知識から、次のようなことがいえるでしょう。
 初任から3年目までの先生であれば、1章から3章がお勧めです。「どうしたら授業が流れる」という、授業運営の内容ですので、無理なく、無駄なく授業を進められるようになります。
 4年目以降の先生は4章から6章までを是非詳しく読んでみてください。こちらは、教材づくり、関わり方の育て方など、「授業づくりはどうあればよいか」という内容を理解するときに役立つと思います。

―学びを深めるために子どもたち同士の教え合いも大切ですが、体育での教え合いを効果的にするために、教師が注意すべきポイントは何でしょうか。

 「教え合い」を生み出すためのポイントは2つです。
 1つ目はお互いに教え合うための「運動の行い方の知識」を持っていることです。膝掛け後ろ回りのポイントがわかっていないのに、「さあ、教え合いましょう」といわれても子どもは戸惑うばかりです。ですから、ポイントとなる知識を理解させる必要があります。
だからといって、教師の一方通行で全て伝達するのでなく、上手な子をモデルに観察させ、ポイントを発見させて共有することが大切です。
 2つ目に関わる場を設け、評価することです。関わる場はお手伝い(補助)をしたり、お互いに相手を見る相互観察をしたりすることで生まれます。お手伝いの方法を教えて活動させます。鉄棒はお手伝いの学習として一番よい教材です。また、ペアや班で相互観察して、動きがどうだったか教え合わせます。ボール運動は作戦を立てるだけでは、上手な子の一方通行の伝達になりかねません。ボールを持たないときの動きはどうすればよいかをモデルで理解させ、見ている子がゲーム中や後に教えることが良いでしょう。
 そして、教師が教え合っている様子をよく見て、「A君がお手伝い上手だったね。だからBさんできるようになったね」「C班の教え合い上手だね。動きをよく見て、ここを直したらいいねと教えていたね」など、肯定的な評価をしてあげることです。
 こうした2点を意識していると、教え合うことで上手くなる経験を通して、教え合うことに価値があることが子どももわかってきます。その結果、さらにお互いを見て、教え合うようになります。

―6章では「体育が面白い!誰もが満足する授業プラン」として体育の授業プランが豊富な実物資料・カードと共に収録されています。こちらの効果的な活用方法を教えてください。

 本書掲載の教材は誰もが比較的簡単にできる授業の代表的な例です。「ナルホド。こんな授業構成をすれば子どもたちが喜んで取り組み、力がつくんだ」というヒント集だと思っていただければ幸いです。
 授業づくりは学校のカリキュラム(年間指導計画と捉えてもかまいません)に応じて行うにしても、その中で子どもに力をつけて、仲良く活動させるにはどうすればよいかを考える材料にしてください。先生方がアイディアを出して楽しい授業になれば、子どもの笑顔が生まれるはずです。また、学校のカリキュラムを見直す契機になるかもしれません。
 カードは本書のカードのように身近に数多くあるでしょう。カードを使う場合は、どんなカードであれ、自分のクラスの実態に合う数字や内容に書き換える必要があります。また、運動のポイントを全部書き込んだものでなく、クラスで見つけポイントを書き込めるようにするとよいでしょう。

―最後に、全国の先生方に向けてメッセージをお願いします!

本書の巻頭にも書きましたが、授業をしているときや終わったときに、子どもから「あ、い、う、え、お」の言葉が聞こえてきたら、「今日の授業は子どもにとって満足できるものだったんだ」と思ってください。

ーなるほど
っぱい
ごいたなあ・うまくなったな、できた
っ、もうおしまい?
友達と仲良く活動できた

 授業は生鮮食料品です。美味しく食べてもらうには、産地が示され(目標・内容が明確でわかりやすい)、新鮮であることが(よい教材)必要です。同時に、いくら美味しくとも、売れなければ意味がありません。販売をしている店構えがよく(よい環境や教具の工夫)、販売の人の笑顔(先生の指導)も大切ですね。
 
 子どもが笑顔で満足し、力がつく授業ができたときは、教師も嬉しいですね。是非「あいうえお」が聞こえる授業にしてください。
本書が少しでもそのお役に立てれば幸いです。

(構成:坂元・佐藤)
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