著者インタビュー
新刊書籍の内容や発刊にまつわる面白エピソード、授業に取り入れるポイントなどを、著者に直撃インタビューします。
行動問題への積極的な支援を授業で!
上越教育大学大学准教授村中 智彦
2015/10/6 掲載

村中 智彦むらなか ともひこ

上越教育大学大学院学校教育研究科臨床・健康教育学系准教授

―特別支援学校や特別支援学級で、先生方が対応に苦心されている行動問題にはどのようなものがあるのでしょうか。

 特別支援学校・特別支援学級の教室でよく見られる行動として、目の前で手をヒラヒラさせるなどの「常同もしくは自己刺激行動」、自分の手を強く噛むなどの「自傷行動」、教師や仲間の身体を叩くなどの「他害もしくは攻撃行動」があります。他にも、指示に応じず強く拒否する、癇癪、離席などが問題となりやすくなります。
 知的障害や自閉症の重い子どもが示すことが多く、慢性化や習慣化していることがポイントとなります。

―そういった行動問題はどうして起こるのでしょうか。

 応用行動分析における長年の研究成果から、言語スキルの不得手な知的障害や自閉症児の示す行動問題の多くが、周りの人や環境との相互交渉を通じて学習されたものであり、他者への要求伝達手段として作用していることがわかってきました。
 行動問題の機能、即ち、行動の生起が環境に及ぼす効果や働きを分析すると、逃避「ひとまず逃げたい」、注意喚起(みてみてかまって)、物の要求(ちょーだい)、感覚・自己刺激「心地いい」の4つがあります。子どもは、行動問題を起こすことで、環境から望ましい結果を得ています。

―行動問題をコミュニケーション手段として育てるにはどんな方法があるのでしょうか、1つ教えてください。

 代表的な方法として、機能的コミュニケーション訓練(Functional Communication Training;FCT)があります。FCTとは、行動問題の機能をアセスメントし、その結果に基づいて行動問題と機能的に等価(環境に及ぼす効果が同等)で、適切なコミュニケーション行動に変えていく、より積極的に形成を試みる方法です。

―本書中で紹介されている事例にはどのようなものがありますか。

 特別支援学校や特別支援学級、通級指導教室などの学校場面、また家庭場面において、激しい他害や自傷、不規則な発言や暴言、癇癪や物を壊すなどの様々な行動問題を示している子どもと教師との教育的な関わり、関わりを通じた子どもと教師の成長の経過がまとめられています。

―最後に特別支援教育に取り組まれる、全国の先生方へメッセージをお願いします。

 これまでの研究成果に基づくと、行動問題に対して、教師の「情熱」「頑張り」だけでは十分な成果は挙がりません。一般的、常識的な対応が、かえって行動問題を高めることにも作用します。行動問題を無くす、減らすことが教育の目標ではありません。子どもたちの活動参加の機会が十分に保障され、教師や仲間から「ありがとう」のやりとりで支えられる授業では、行動問題を起きにくいこともわかってきました。
 私たち教師の仕事は、彼らが適切な行動を身に付け、活動や生活の場を広げ、長く厳しい社会を生き抜く力を育むための授業づくりです。本書が心ある教師にとって毎日の授業づくりの励みになることを願っています。「困った」ではなく、「わかる、できる」授業づくりに力を注いでいきましょう。

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