<日本学級経営学会発>学級経営ガイドブック
日本学級経営学会のメンバーによる、読み切り学級経営ガイド。明日の学級づくりに役立つ実践的な内容が満載です。
学級経営ガイドブック(5)
「11月危機」に備え、教師ができること
新潟県小千谷市立総合支援学校近藤 佳織
2019/10/25 掲載

1 はじめに

 「魔の6月」「11月危機」といわれるように、学級の崩れや雰囲気の変化を感じる危機的時期があることを担任経験から得てきました。教育雑誌や書籍の特集を目にしながら「この時期を乗り切ろう」と思い、過ごしてきたときもあります。「11月危機」の要因は様々でしょうが、思い浮かべるだけで次のようなことが考えられます。

  • 9月下旬から10月中旬に大きな学校行事が終わり、脱力する
  • 秋は授業研究や研究会等に追われ、子どもの今に目が向かなくなる
  • 1学期から続いてきた関係のもつれが表面化したりトラブルが大きくなったりする

 地域性や学校行事の時期によってもすべてが当てはまるとはいえないでしょう。要因が何であれ、折り返しにあたるこの時期に危機が起こりうるとしたら、私たち学級担任は何ができ、どのような構えでいればよいでしょうか。

2 「11月危機」に備える構えと策

 病気になると回復までの治療に時間もエネルギーもかかります。「治療」する必要性を最小限にするために「予防」の視点をもち、日常的に予防策を講じることが大事だと考えます。学級経営の危機を「予防」するためのスタンスと具体策を、教師と子どもの関係を中心に紹介します。

(1) 子どもの認知を知る
 学級を集団として見たときの凝集性や雰囲気をアンケートなどから客観的につかみます。また、個々の子どもの感じていることが教師から見たその子とずれてはいないかを把握します。例えば、不安そうな様子を見せ教師も日々気にかけることが多いAさんもいれば、学習にもよく取り組み、一見仲間と上手くやっているように見えるが実は不安定な友人関係に悩んでいるBさんもいたとします。Bさんの様子は教師からは見えない場合もあり、特に後者をアンケートなどから知ることが目的です。現状を知ることで方針や対応策を考えることができます。

(2) 個々の子どもとのかかわりを見直す
 学級の中には、発言の多い子、仲間同士でのかかわりが薄いと思われる子、注目行動の多い子、おとなしい子……と様々います。年間の折り返しの時期、個別面談などを活用し、それぞれの子どもとの関係を強化、修復、見直す機会にします。どの授業やどの場面でどの子の活躍が期待できそうかを構想します。また、休み時間に自分から話しかけてくる子もいれば、なかなか声を発しない子もいます。朝の挨拶時、連絡帳チェックの際、ノートへのコメントなど様々な機会を活用し、一対一でかかわる時間をとれているか(とろうとしているか)を確認します。確認することで意識したかかわりが生まれます。
 忙しい時期だからこそ意識的に子どもを見ること。子ども不在の行事、授業研究にならないようにしたいものです。

(3) 学級目標を振り返る
 年度初めに決めた学級目標に対しどれだけできているかを振り返ります。例えば、「協力」であれば、一緒にやり遂げた、相談されたときにアイディアを出した、頼まれたことを快く引き受けたなど、どういう状態が協力なのかを子どもの発達段階に応じて具体例を出し、共有します。そして、それがどのくらいできているかと今後の課題を確認します。
 総合支援学校に勤務している現在、学級目標のそばに達成できたことを貼っていき、目標に向かった取り組みの過程の達成度が見えるように増えていく掲示を行っています。

3 勇気づける教師の在り方

 ここまで「11月危機」についての予防の視点からできることを挙げてきました。予防と同時に、時期を問わず担任としての私の対応の根本には「勇気づけ」があります。
 岩井は「勇気づけ」を「困難を克服する努力を育てること」*とし、その必要性を述べています。勇気づけは、できたかできないかの結果のみでなく、前回よりどうだったかを見る、取り組みの過程に注目する、聴き上手などの特徴があります。多忙なこの時期だからこそ、授業時間の様子の観察やノートでのやりとり、ちょっとしたおしゃべりを継続しましょう。そこから得たことも次につながります。
 人は、どの発達段階においても変わろうとする気持ち、今よりできるようになりたいという気持ちをもっています。それは一般校、総合支援学校という場所や障害の有無・軽重にかかわらず、です。
 できるようになりたい、人とうまくかかわりたいという思いをもつ子に対し、できている点や持っているもともとの良さに注目します。どうなりたいかを確認し、選択肢を示す、できそうな手立てを一緒に探すなどその子と決めることが、その子の実行を後押しする大きな勇気づけともいえるでしょう。そうした教師の姿勢は年間を通して継続します。
 子どもへの勇気づけができるのは、勇気づいている人です。勇気づける人になるためには、まず自分自身を勇気づけ、自分を満たすことからです。いろいろあってもまた笑顔で教室に向かえるよう自分で自分を勇気づけること。それが子どもを勇気づける教師への第一歩です。

*岩井俊憲『勇気づけの心理学』金子書房、2002

近藤 佳織こんどう かおり

1974年新潟県生まれ。新潟県公立学校教諭。上越教育大学教職大学院修了。現在、総合支援学校に勤務。教室や学校に勇気づけを広げたいと実践中。「教師のNゼミ」で毎月1回、地元の教師仲間と学んでいる。
主な著書に、『明日からできる速効マンガ 1年生の学級づくり』(日本標準)、共著に『学級を最高のチームにする!365日の集団づくり 1年』(明治図書)などがある。

(構成:及川)

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