上條プロデュース 学びのしかけをつくる!「学習ゲーム」アイデア
笑顔の絶えない「学習ゲーム」には、学びのしかけが満載! 「お笑い教師同盟」代表の上條先生がプロデュースします!
上條プロデュース「学習ゲーム」アイデア(3)
遊びリテーション―「脱いで脱いで靴下競争」
東北福祉大学准教授上條 晴夫
2012/9/18 掲載
  • 「学習ゲーム」アイデア
  • 特別支援教育

「遊びリテーション」の発想

 勤務校である東北福祉大学は全国屈指の福祉系大学です。
 その東北福祉大学の大学図書館で、ここ数年、学生貸し出し数トップに輝いている本が、三好春樹、下山名月、上野文規著『遊びリテーション学』(1999)です。この本は機能回復訓練を遊びを使ってやろうという発想の本で、1990年代イッキに広まったアイデアです。
 そもそもリハビリテーションは損なってしまった機能をトレーニングによって回復させようとするものです。トレーニングは機能が衰えた部位を特定し、反復運動をします。この反復運動は通常つらいです。このトレーニングのやり方はもともとアメリカでベトナム戦争で傷ついた若い人たちの機能回復のために考え出されたものでした。トレーニングは確かにつらいですが、トレーニング後の将来を考えて、元・兵士たちはつらい訓練に必死になって取り組みます。
 しかしお年寄りのリハビリはつらいばかり…。遊びの発想は画期的でした。

学習ゲームアイデア「脱いで脱いで靴下競争」

 旭川養護学校に勤務する湯藤瑞代先生が開発した「脱いで脱いで靴下競争」という学習ゲームがあります。湯藤先生は肢体不自由児の養護学校に勤めていて、この「脱いで脱いで靴下競争」はその学校で靴下の着脱の苦手なAくんのために開発をしました。
 ゲームの方法は次の通り。(『授業づくりネットワーク』2006・8)。

  1. 1対1の個人戦で行い、対戦者2名はそれぞれ敷物の上に移動する。
  2. 脱ぐ競争をするためにはまず靴下をはく。はくのは競争ではないので自分のペースで良いし介助をしても良い。(靴下は5本指の靴下を使う)
  3. 両者身につけた瞬間に、教師がスタートと言う。自力で脱いで敷物から先に出た方が勝ち。脱出する時、体操選手のフィニッシュのポーズをする。
  4. 競争の前に次の対戦者を募り、靴下をはく時間を十分にとる。
  5. いろいろなコンビで対戦する。

 併設の病院に入院しているAくん。そのAくんの担当看護師から「Aに着替えの面で自立してほしいが、する気持ちにならない。靴下ぐらい着脱してくれたらいい」と聞いたことが本ゲーム開発のきっかけです。観察をすると、Aくんは失敗に弱かったです。何かをはじめても、最初の失敗をすると、途端にやる気を失うことがしばしばでした。
 ヒントはお楽しみ会で楽しそうに着ぐるみを着るAくん。着るよりも脱ぐ方が簡単です。ファスナーをはずすと何とか着ぐるみから脱出しました。そこから靴下脱ぎ競争の着想を得ることができました。靴下なら引っ張るだけ。無理なく脱ぐことができます。
 白熱した試合を見ると、次は自分もやりたいと名乗り出たりします。Aくんもその一人でした。そんな時、すかさず「すぐ競争ができるように靴下はいておいてね」。
 すると、Aくんは一人で一生懸命に足を靴下に通そうとし始めました。最初は足首まで
通りませんでしたが、やがて足首に通すことができるようになります。最後には5本指を入れる手伝いをするだけで、はけるようになりました。Aくんも周りも大喜びです。
 このゲームを湯藤先生は次のように述べています。「子どもは楽しいことに弱いと思う。自信がなくても失敗嫌いな子でも、活躍が楽しいとついついやってみたくなる」。

「脱いで脱いで靴下競争」の学びのしかけ

 同じ目的を達成するためであっても、どういう状態の学習者がそれをやるのかが問題になります。同じ機能回復訓練であっても、たくさんの未来を持っている若者たちであれば、多少つらくても、反復運動をするリハビリテーションは一つの効率的な方法です。
 しかし年をとったおじいちゃん、おばあちゃんにはそういう若者と同じような機能回復トレーニングは結構むずかしいです。方法は「状況と目的」に相関するからです。
 湯藤先生の「脱いで脱いで靴下競争」はそこのところを十分に承知して作られています。しかもユニークな点は競争を着脱ゲームにせず、より簡単な「脱ぐ」だけの競争に絞って、「はく」は個々の子のペースに任せた点です。「状況」の見極めがすばらしいです。

上條 晴夫かみじょう はるお

東北福祉大学准教授。小学校教師(10年)の後、jrノンフィクション作家、教育ライターを経て、現職。NPO法人「授業づくりネットワーク」理事長。お笑い教師同盟代表。専門は教育方法学・表現教育。現在は「教師教育学」「インクルーシブ教育」の質的研究に邁進中。学習ゲーム関連の主な著書に『「学習嫌い」をなくす学習ゲーム入門』『授業で使える漢字遊びベスト50』『5分間でできる学習ゲーム遊びベスト50』『目的別スグでき!学級あそびベスト100』など。

(構成:杉浦)
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