フル・インクルーシブ教育の学校&授業づくり
インクルーシブ教育の最先端の研究を担う,東京大学大学院教育学研究科と大阪市立大空小学校の取り組みを紹介。
フル・インクルーシブ教育の学校&授業づくり(10)
学校協議会の役割
東京大学大学院教育学研究科教授小国 喜弘
2019/3/20 掲載
  • フル・インクルーシブ教育
  • 特別支援教育

 大空小学校には、保護者や地域住民、研究者などから構成される学校協議会があり、大空小の学校文化を支えています。大空小にとって学校協議会が存在することの意義を、東京大学の小国先生が語ってくださいます。

 学校の中にある様々な社会的障壁を解消していくためには、多様な人々の声が学校の運営に反映される必要がある。学校協議会制度はそのための有効な方略の一つとなるだろう。包摂力を高める学校づくりに寄与するために、学校協議会をどのように組織すればよいのか。そのヒントを大空小学校に即して考えてみたい。2013年大空小学校での学校協議会設立時に、初代校長木村泰子は、その目的について次のような趣旨を述べていた。

学校協議会は、「校長のやってることはオカシイんちゃうか。大空のこのやり方は、あの子どもにはしんどいで」、という、子どもにとって不利益な、子どもにとって望ましくないということは、校長にきっちり話をして、学校を変えていただく、という任務を負っていただくことが目的です。

 特定の子どもにとって「しんどい」やり方になっている可能性を学校側に指摘し、教職員による日常的な学校改善へとつなげていくこと。それが学校協議会の役割として設立時から重視されてきた。
 そのためには、誰を委員に選出するかが実は重要である。全国的にみると、校長指名の協議会委員は、中間層の保護者や自治会役員などである場合が多い。そのため、協議会を通じて中間層の教育要求が学校により浸透し、家庭条件の不利な子どもが学校から排除(または周縁化)される傾向を拡大しているとの批判がある(勝野正章、2016)。
 大空小の場合、委員は、日頃から学校にかかわり、子どもの実情をよく知っている保護者や地域住民、年に何回も授業の観察に訪問している研究者など、大空小学校の日常をよく知る人たちで構成されている。
 日頃から学校にかかわり、教室に入って、子どもたちをサポートしている保護者や地域住民だからこそ、いま、どの子どもがどんなふうに「しんどい」のかを具体的に指摘できる。また、研究者の委員は、そこまでの観察の機会を持たないが、それでも大空の授業を何度も観察しているからこそ、具体的な子どもの姿をある程度共有したうえで、問題の根を研究の見地からより深掘りすることが可能になる。
 その子への個別の支援をどうするかというよりは、むしろ、学校や大人たちがどう変わる必要があるのかを委員全員で校長・教頭と一緒に議論するのが大空流だ。誰かが正解をもっているわけではない。誰にも正解がわからないからこそ、多様な立場の多様な意見をもつ人たちで、具体的な子どもの姿に即して、ああでもないこうでもないと対等に議論し合うことが大切なのだということが次第に共有されるようになった。
 議論したことは、校長や教頭を通して、職員朝会や職員会議等で、教職員に共有されている。日頃からかかわっている保護者や地域住民が委員の中心だからこそ、言いっぱなしにならず、教職員と一緒になって問題を共有し、新たな試行錯誤が始まっていっていくようだ。
 ただしこの作業に終わりはない。その時々で、子どもも変わるし、教職員にも保護者にも入れ替わりがある。その時々に最もしんどい子どもの具体から、学校のあり方を考え続けること、どうすればよいかを議論し続けること、そのことの大切さを大空小の学校協議会は我々に示唆しているように思われる。

まとめ

  • インクルーシブ教育を推進するために学校協議会が果たすべき重要な役割の一つは、具体的な子どものしんどさを取り上げ、その背景を徹底して議論し、学校のあり方を考え直すことにあるのではないでしょうか。

〈参考文献〉
・勝野正章「学校のガバナンスと経営」小川正人・勝野正章『教育行政と学校経営』(放送大学教育振興会、2016年)

小国 喜弘こくに よしひろ

東京大学大学院教育学研究科教授。バリアフリー教育開発研究センター長。大空小学校では学校協議会の委員を務める。

(構成:赤木)
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