フル・インクルーシブ教育の学校&授業づくり
インクルーシブ教育の最先端の研究を担う,東京大学大学院教育学研究科と大阪市立大空小学校の取り組みを紹介。
フル・インクルーシブ教育の学校&授業づくり(7)
チームで動く2 支援チームの役割
大空小学校教諭上田 美穂
2018/12/20 掲載
  • フル・インクルーシブ教育
  • 特別支援教育

 大空小学校の教育を特徴づけるキーワードの一つが「子どもの通訳になる」という言葉です。教師が通訳という存在になるとはどういうことなのか、この言葉の意味することについて、大空小学校の上田先生に語ってもらいました。

子どもの通訳になる

 この言葉は、私が大空に来て子どもと関わっていく中でとても大切にしている言葉です。初めてこの言葉を聞いたとき、正直どうしたらいいかわからない自分がいました。私は毎日いろいろな子どもたちと関わります。その中で子どもにこの言葉の意味がたくさんあることを教えてもらいました。

 大空の子どもたちは、様々な場面で自分の言葉で自分らしく表現することを大切にしています。しかし中には、言葉で表現することが苦手な子どもがいます。そういった子どもが自分らしく表現できるためにどうしたらいいのかを子ども、教職員、サポーター(保護者)などいろいろな人と一緒に考えます。そして、その方法は一人ひとり違います。さらに、そのことを周りの子どもたちを中心に一緒に考えていきます。「どうしたら、○○さんが自分らしく伝えられるかな?」とクラスや学年の子どもたちに聞きます。すると、「友だちと一緒だったら自分らしく話せるのではないか」「自分が代わりに伝えようか」「大きな紙に書いてそれをみんなに見せたらどうか」などいろいろな考えが出てきます。いつも同じ空間で過ごしている子どもたち。子どものことは子どもが一番よく知っています。大人は子どもたち同士で解決できるためのサポートをするだけなのです。

 また私はどんな言葉であれ、「目の前にいる子どもが本当に言いたいことはなんだろう?」と考えるようにしています。例えば子どもが「バカ」「アホ」と言ったとします。その子に対して「友だちにバカ、アホと言ってはいけません」と言ってしまう関わり方は間違っていると学びました。子どもはこういった言葉は言ってはいけないということを十分わかっています。「じゃあ、この子は何が言いたかったのか?」「なんでこの言葉を言ってしまったのか?」とゆっくり話をしていくと、「本当は一緒に遊びたかったのに、うまく言葉で言えなかった」などというふうに子どもの本当の思いが出てきます。そうすると私たちにできることは、「その気持ちが相手に伝わるためにはどうしたらいいか?」を一緒に考えることです。「バカ、アホじゃなくて、一緒に遊ぼうって言えばよかった」「言い方をもっと優しくすればよかった」など、子どもは自分から自分の言葉で語ることができるようになります。それを相手の子どもに伝えることで、あとは子どもたちが自分たちの力で解決していくことができるのです。

 学習中、みんなと同じ課題が難しい子どもは、別課題としてその子に合った課題で学習を進めていきます。別課題で学習を進めていくことで、私が支援として一番大切にしていることは、子どもと支援の大人が1対1にならないようにすることです。その日に学習したことは必ず担当(担任)に伝え、クラスのみんなにも伝えます。自分で「このプリントを学習しました」と学習したものをみんなに見せながら、自信たっぷりに自分の言葉で伝える子どももいます。すると「すごい!」と声をかけてくれる友だちもいます。子どもにとっては、大人が「すごいね」と言うだけではなく、やはりクラスや学年の友だちからの声かけが一番うれしい言葉です。そのうれしそうな笑顔を見たときに、私は子ども同士がつながった瞬間を感じることができるのです。

 子どもは毎日、いろいろな“困難”という壁にぶち当たります。この壁の高さは人それぞれです。私はこの壁を取り除くのではなく、乗り越えていける方法を一緒に考えたり、壁の高さを低くしてみたり、たまには遠回りした別の方法を一緒に考えたりすることが支援の役割だと考えています。子どもと大人の関係ではなく子ども同士がつながれるように、支援チームの大人は黒子になって子どもと関わっています。すべての子どもたちが自分から自分らしく表現できるように、私は子どもの通訳として自分から自分らしく行動していきたいです。

まとめ

  • 大人は子ども同士をつなぐための通訳をします。そして、支援が必要なのはすべての子どもであり、そのときに困っている子どものサポートをします。子どもが中心となって動けるように、大人は黒子となって関わっていきたいです。

上田 美穂うえだ みほ

福岡県出身
1990年9月29日生
九州女子短期大学初等教育科卒業後、編入
大阪教育大学小学校教育専攻夜間コース卒業
2011年 講師として大空小学校に赴任
2014年 大阪市立小学校に採用される

(構成:赤木)
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