フル・インクルーシブ教育の学校&授業づくり
インクルーシブ教育の最先端の研究を担う,東京大学大学院教育学研究科と大阪市立大空小学校の取り組みを紹介。
フル・インクルーシブ教育の学校&授業づくり(2)
障害の社会モデルからみた大空小学校
東京大学大学院教育学研究科附属バリアフリー教育開発研究センター准教授 星加 良司
2018/7/20 掲載

 「障害の社会モデル」の考え方は、2006 年に国連総会において採択された「障害者の権利に関する条約」に示されているもので、日本でもこれを2014 年に批准しています。星加良司先生に、この考え方の背景と、そうした考え方に立ったときのインクルーシブ教育の意義を解説してもらいます。

 皆さんは「障害の社会モデル」という言葉を見聞きしたことがあるでしょうか?
 これはもともと障害学という学問分野で提唱された考え方で、今日では国内外の障害関連の政策や法制度にも導入された、障害についての基礎的な理解なのですが、実は意外なほどその正確な意味は知られていません。たとえば、「障害者の問題に社会として取り組んでいこう」というスローガン程度のものとして、この言葉を理解している人が多いのですが、こうした理解では「社会モデル」の本質はほとんど捉えられていないのです。
 「社会モデル」とは、端的にいえば、障害者が困難を経験しているのは、周りの環境や制度、ルールなどが障害のない人(多数派)の都合に合わせて作られてしまっているためだ、と考える障害についての理解です。これを踏まえれば、社会の多数派にとって便利で快適だと考えられてきた環境そのものが、障害者(少数派)にとっての困難の原因なのであり、そのような意味での「社会的障壁」(障害がある者にとって日常生活又は社会生活を営む上で障壁となるような社会における事物、制度、慣行、観念その他一切のもの)(障害者基本法/障害者差別解消法)を取り除いていくことが求められるのです。

社会的障壁としての学校

 では、学校教育において取り除かれるべき社会的障壁とは何でしょうか? 先の「社会モデル」の考え方を踏まえれば、それは通常の学校のあり方そのものだということになります。
 そもそも「障害児教育」という営みは、産業化された近代社会が「良質な」労働力とその担い手となる「国民」を必要とする過程において、通常の働きかけによっては効果が期待できない人々を分離し(教育可能性による線引き)、そうした人々への特別な働きかけの可能性を探求したことから生まれました。そのようにして、特殊学校(特別支援学校)という場が設定され、そこに「障害があることにより、通常の学級における指導だけではその能力を十分に伸ばすことが困難な子どもたち」(文部科学省「特別支援教育について」)が措置されていったわけです。
 このことを裏返していえば、通常の学校とは、障害児を特別な枠組みにくくり出すことを前提とした上で、障害のない子どもたちに対する「効率的」な教育を可能にする場として組み立てられたシステムだということになります。このように考えると、これまであたりまえとされてきた教材や教授法、校内のルールや文化、教師と子どもの関係性など、通常の学校教育を形作るありとあらゆる要素が、障害児を排除する社会的障壁として機能しうるものだということが見えてきます。だとすれば、「社会モデル」に基づく教育実践の方向性は、必然的に、通常の学校教育のあり方の根源的な見直しへと向かうことになるはずです。

大空小学校の挑戦

 通常の学校のあり方そのものが社会的障壁になりうると考えるなら、インクルーシブ教育をめぐる第一義的な課題は、通常の学校に潜む排除的(エクスクルーシブ)な要素に気づき、それらを変えていく取り組みを進めることだということになります。
 大空小学校では、「すべての子どもの学習権を保障する」という理念を掲げ、「すべての子どもが安心できる居場所をつくる」ことを追求しています。このように、「すべての子ども」を対象とすることに本気で向き合うことによって初めて、それを難しくしている社会的障壁の存在に気づくこともできるのだと思います。その意味で、大空小学校の実践には、たくさんのヒントが含まれているはずです。

まとめ

  • 障害の社会モデルは、私たちがあたりまえだと考えてきた社会の成り立ちの問い直しを迫るものです。(学校)教育がそれにどのように応えようとするのか、その本気度が問われています。

星加 良司ほしか りょうじ

 1975年生まれ。東京大学大学院教育学研究科附属バリアフリー教育開発研究センター准教授。博士(社会学)。専門分野は障害の社会理論、多様性理解教育。

(構成:赤木)

コメントの一覧
13件あります。
    • 1
    • 名無しさん
    • 2018/7/20 21:31:24
    大空小学校の実践を記録した映画(ドキュメンタリーフィルム?)を観る機会がありましたが、
    感動しました。
    素晴らしい実践、忍耐強く深い愛情と審念熟慮をもった先生方の姿には、
    学ぶものが多くあります!
    一見の価値、大いにあり!!
    • 2
    • 意義あり
    • 2018/7/21 19:49:20
    大空小学校は「みんなの学校」ではなく「木村校長のこだわりの学校」だと思います。本当は支援が必要な子なのに、ただ放置されています。
    • 3
    • 木村泰子スーツケース
    • 2018/7/22 22:36:07
    「今の学校はスーツケース。自分の教育は風呂敷。」と木村元校長は主張。しかし、それはまやかし。本当は「木村泰子仕様スーツケース」なのだが、「風呂敷」と言いくるめている。
    全国学力テストでは、平均点を下げそうな児童を別室に隔離し、受験させなかった。その結果、「大空小学校は全国学力テストの点数も高い」と自慢げに主張。別室隔離についてはダンマリ。
    その一方で、運動会のリレーでは「世界で一番難しいリレー」などともったいつけて、全員参加を押し付ける。
    全国学力テストでは「お涙ちょうだい物語」が作れないとみて、別室隔離。
    リレーでは「お涙ちょうだい物語が作れる」と判断し、無理やり参加押し付け。
    児童を「木村泰子自己満足」のためのツールにやり放題。
    • 4
    • 名無しさん
    • 2018/7/24 0:41:17
    この文章を読んで、支援学校教員として怒りを感じました。支援学校は隔離されている所なのですか! 支援学校は存在してはいけない場所なのですか。

    結局、この文章からはただ一緒にいるだけの「形だけのインクルーシブ教育」としか感じられません。
    明治図書さんには、この連載の再考を要請します。
    • 5
    • この記事は危険な思想
    • 2018/7/30 10:40:55
    何の手だてもないのに、ただ一緒にというのは、公開虐待に近い。障害のある子どもたちが適切な教育を受ける権利は全く考えられていない。
    • 6
    • アウトでしょ
    • 2018/7/31 5:07:07
    フルインクルーシブしか認めないっていう、自分の意見以外を排除する人たち。インクルーシブはそもそも多様性を尊重するはずなのに。完全にアウトでしょ。大阪市、東大、明治図書、大丈夫?
    • 7
    • 教員
    • 2018/8/1 16:17:21
     「障害の社会モデル」についてとてもよく理解できました。明日からの仕事に役立てようと思います。大空小学校と東大の連携に期待しています。
    • 8
    • matt
    • 2018/8/1 16:55:14
    ただ一緒なだけでいいのですか。
    それでは、障害のある子どもたちの学びにならないでしょう。
    東大は本当にそれでいいのですか・
    大阪市教育委員会は大空小学校みたいな学校でいいと、本当に考えているのでしょうか。支援学級配置がないのに、支援学級担任を配属されるのはどういうことでしょうか。
    • 9
    • 関東在住
    • 2018/8/1 19:51:41
     星加先生の「「社会モデル」に基づく教育実践の方向性は、必然的に、通常の学校教育のあり方の根源的な見直しへと向かうことになるはずです」という言葉が胸に響きました。私たち教員は毎日の仕事と授業に追われながらも、ただただ日々の実践のことだけを考えているわけではなく、自分の仕事がどのように社会的意味があるのかを常に考えています。そういう私たちにとって大空小学校のインクルーシブ教育は、日本の学校を根本的に変える一つの方向性を示してくれているように思います。そのような企画を用意して下さった明治図書の編集者のセンスの良さを感じます。この連載の一言一言をかみしめながら、自分の仕事にぜひ生かしていきたいと思います。
    • 10
    • 大いに納得
    • 2018/8/1 22:48:30
    発達障害が増えているだけではなく、不登校の生徒も、いじめられている生徒も、さらには十代で自殺する生徒の数も増えているのが実情だ。学校は子供にとって生きにくい場所になっているのだろう。子供だけではない、教師もうつ病による休職率は一般企業の2倍に上るのではなかったか。教師にとっても生きにくいのが今の学校なのではないか。そう考えると、星加先生の言う、学校のあり方そのものが社会的障壁なのだという考え方には大いに納得させられた。連載の今後が楽しみです。
    • 11
    • さらば大空
    • 2018/8/4 15:58:18
    私からすると、大空小学校そのものが社会的障壁になっている気がします。大空では障害のある子どもたちがほったらかし、彼らの発達を踏まえた授業がないと聞きました。
    それこそ排除なのでは。

    東大も、明治図書さんも、考え直した方がいいですよ。
    • 12
    • 名無しさん
    • 2018/8/7 20:00:12
    「ただ放置されています」「ただ一緒にいるだけ」「何の手だてもない」「ほったらかし、彼らの発達を踏まえた授業がない」といった意見があるようです。本当にこのような現状であるならばそれは非常に問題であるでしょう。しかし、そのような論点については実際に大空小学校の実践を見たり、そうでなくても大空小学校でいかなる実践が行われているかを知ったりした上で吟味する必要があると思います。生産性のある議論にするためにも、今後の連載で実践の具体的な内容が語られることを期待しています。
    • 13
    • 名無しさん
    • 2018/8/27 23:14:40
    障害の社会モデルという視点を持つことで、障害のある子どもたちに対する時に、今の見方で良いのだろうかと一旦立ち止まることができると思いました。もちろん全てがそれで解決するわけではないでしょうが、かわいそう、助けてあげなきゃ、という上から目線で接するのでもなく、無知や無視でもなく、共に生きていく上では持っておいて良い考え方だと思います。社会モデルの視点を持った人が増えれば、周囲の接し方次第で解決される悩みを抱える人が少なくなるのではないでしょうか。
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